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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第1章 聖なる乙女の学園
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第3話 才能の開花

 強くなるにはどうすればいいか?


 我流はダメだ。がむしゃらに剣を振りまわしたり、魔術を使ったりするだけで強くなれるのなら、誰も苦労はしない。


 やはり、ちゃんとした先生に習うのが早道だろう。


 私はそう考え、母におねだりをした。母は非常に喜んだ。公爵家の令嬢として、最低限の武術や魔術は嗜みとされたからだ。例の『聖なる乙女の学園』と同じだ。


 あのゲームでは、パラメータが五つあった。武術、魔術、学識、社交、美貌の五項目だ。


 武術、魔術、学識についての説明は不要だろう。武術に秀でていればいるほど、魔術に秀でていればいるほど、高い学識を持っていればいるほど、パラメータは高くなる。


 社交は基本的な礼儀作法に加えて、歌や踊り、楽器、絵、文学、さらにチェスや将棋、トランプなどのゲームのほか、乗馬やビリヤード、ダーツのたぐいもできなければならない。


 一種の教養と、社交の場での話題、一緒にゲームをして楽しむためにこういったことが必要とされたのだ。


 美貌は、見た目の美しさだ。


 この世界には魔法がある。魔術とも言うが、こちらは戦闘用という意味合いが強かった。といって、別に厳密に使い分けられているわけではない。なんとなくニュアンスが違うだけだ。


 美容魔法は、肌や髪を美しく保つだけではない。


 少しずつ自身の体型や顔立ちなどを変化させていく。王侯貴族から平民にいたるまで、この世界の人間は美容魔法を日常的に使用する。だから男女ともに美形が圧倒的に多かった。


 これら五つの項目は、貴族令嬢として嗜むべきものとされた。


 現に私たちが通うことになっているアルファ王立学園でも、必須科目だった。最低でも初伝相当のものを得ていないと、書類選考で弾かれてしまう。


 両親と兄、そして三人の姉は、「まずは武術や魔術をやりたい」と意気込む私たちを見て、それでこそ女の子だと笑った。


 女子たるもの、武芸の嗜みは当然と母は言った。父は、学問や社交もがんばってほしいなぁ……とぼやくように言った。


 好都合なことに、この世界の価値観は地球と違っていた。女はある程度の魔術や武術ができて当然、という世界だったのだ。私たちは嬉々として鍛錬に励んだ。


 アルファ流武術の師範が呼ばれた。アルファ王国で発展した総合武術だ。剣術を学ぶものが多いが、槍術や弓術、拳法もある。


 まずは剣術を学んだ。この世界の武術に段位はない。代わりに初伝、中伝、奥伝、皆伝という等級があった。


 初伝を得るのに、常人は一日四時間の鍛錬を、毎日休むことなく六年から八年ほど続ける必要があるという。


 中伝になると、日に四時間の鍛錬をさらに十年から十二年は続けねばならない。初伝と合わせれば、中伝を取るのに十六年から二十年かかる計算だ。


 普通の人間がたどり着けるのは、中伝が限界だという。奥伝や皆伝は、ごく限られた一部の者以外、獲得することはできない。私たちはそう聞かされた。


 才能があるか、私たちは不安だった。だが、幸いというべきか、私は素質に恵まれていた。


 特に剣術はめざましく、入門から一年足らずで中伝を授かり、その一年後に奥伝を、さらに二年後に皆伝を得た――十歳で私はアルファ流剣術を皆伝した。


 拳法は少し遅れて十一歳のときに、弓術と槍術は十二歳までかかった。


 一方、デイジーのほうはお世辞にも才能に恵まれているとは言いがたかった。苛烈な修行を積んではいるものの、結果につながらなかった。


 師範はデイジーを「やる気も能力もある秀才だが、天才ではない」と評した。事実、彼女は四年でアルファ流剣術中伝を獲得したが、そこから先は伸びが鈍化した。


 だが、デイジーの本領は魔術にあった。武術の師範が呼ばれるのと同時に、魔術の師匠も招聘されていた。元来、妖精族は魔術に優れた才を持つという。


 デイジーの才能は、もっぱら魔術に向けられていた。


 この世界の魔術は、下級、中級、上級、大魔術に区分される。さらに属性が八つあり、常人は一つか二つの属性を会得するのが限界だとされている。


 ところが、デイジーはあっという間に地水火風の四属性を大魔術まで極めてみせた。そればかりか、治癒や補助の大魔術まで扱ってのけた。


 ただし、補助は味方の強化しかできず、敵の弱化は無理だったが。


 それでも恐るべき才能だった――などと思っていたら、デイジーから白い目で見られた。


「お嬢さまは五属性も使えるじゃないですか。しかも地水火風は上級魔術、闇にいたっては大魔術まで。おまけに魔術剣なんて攻撃までできるように……」


「私は治癒や補助が使えないんだから、バランス取れてるじゃない。そもそも魔術剣は、武器に火や水の魔力を込めて攻撃するだけでしょ? あなたもできるじゃない、やろうと思えば」


「私は武器攻撃、苦手なんですよ」


 そういって彼女は不満そうに唇を尖らせるのだった。

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