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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第29話 決勝戦プリム対リリー

「決勝戦、開始!」


 審判の声と同時に、リリーは動いた。踏み込みながら剣を抜き放ち、斬りかかってくる。脳天を叩き割る振り下ろしだ。


 私は剣を抜かなかった。一歩動いて回避し、リリーの胸に手のひらを当てた。火の下級魔術を発動させる。


 豪炎が放射され、一瞬で闘技場の壁まで焼いた。ラオカが結界を張っているから、被害はゼロだったが。


 リリーは一瞬早くかわしていた。私から距離を取りつつ、光の弾を無数に飛ばしてくる。光の下級魔術だ。


 抜剣すると、私は襲ってくる光弾をすべて斬った。


 リリーが私の背後に回り込む。横薙ぎの一撃が来た。私は剣で防ぎ、地の下級魔術を発動させた。石くれが秒速八キロで飛ぶ。


 リリーは光弾を飛ばしてぎりぎりで相殺した。彼女は大きく後ずさる。


 私は追いかけ、剣を振り下ろした。リリーは大きな剣で器用に防ぐ。そして、とにかく距離をとる。


 向こうから近づいてくることもあるが、基本は一撃離脱だった。私に間合いを詰めさせない。


 私は攻めあぐねていた。一応、これは武闘会だ。真剣勝負ではあるが、殺し合いではない。ある意味、戦いは観客をわかせるためのエンターテインメントだ。


 それに、上級魔術や大魔術は周囲の被害が大きい。


 ラオカが結界を張ってくれているとはいえ、耐久度がどの程度かはわからなかった。ひょっとしたら、あっさり壊れてしまうかもしれない。


 もちろん、それは剣術にも言えた。本気で刃を振るってよいものか、私はだいぶ迷っていた。


 決勝までに戦った相手は、私が手加減をしていても特に問題なかった。普通に勝てたからだ。しかし、リリー相手だとそういうわけにもいかなかった。おそらく、互いに手抜きをしたままでは、永遠に決着がつかないだろう。


 と思っていたら、リリーが本気を出した。


 爆発的に魔力が跳ね上がり、巨大な光の龍が現れ、私に襲いかかった。光の大魔術だろう。私も闇の大魔術を放った。手加減してあるので、全長は半分くらいだ。大きさは同程度。


 だが、漆黒の龍は光の龍を飲み込んで、そのままリリーに襲いかかる。


 リリーは弾丸のように跳躍し、回避した。闇の龍が観客席に襲いかかろうとした途端、ラオカが現れて闇の龍を叩きつぶす。


 やはり、結界に大魔術を防ぎ切るだけの力はないようだ。


 以前、私とデイジーは、被害の少ない魔術を研究しようとした。だが、もちろんこの計画は頓挫した。威力をそのままに周辺の被害だけをなくす……などという都合のいいことができるはずがない。


 結局、強力な攻撃であればあるほど、甚大な被害を撒き散らすのだ。


 少なくとも、ここで派手に暴れると、観客が危険にさらされる。ある程度はラオカがフォローしてくれるだろうが……。


 そう考えて困っていると、リリーが本気になって斬りかかってきた。大気を引き裂く強烈な振り下ろしだ! 私は刃で受けた。地面が陥没し、私を中心に巨大なクレーターができあがる。


 剣を弾くと、彼女はまた離脱しようとした。追う。逃さない。


 私は至近距離で、何度も剣を打ちつけた。リリーは必死に喰らいついてくるが、私のほうが速い。剣の腹で彼女を打ち、そうそうにケリをつけようとした。


 だが、リリーはその動きを読んでいた。私が剣を横向きに、加減した一撃を入れようとした瞬間、彼女は袈裟がけに斬りつけてきた。私は左手を柄から離した。


 拳で、リリーの剣の腹をぶっ叩いて弾く。


 同時に、私の剣の腹が命中する。リリーを壁までふっ飛ばした。結界の壊れる音と一緒に、すさまじい轟音と揺れが巻き起こる。


 壁を突き破った衝撃だ。


 彼女は闘技場の外までふっ飛んでいた。一瞬、闘技場内が静まり返った。それから、ハッとしたように審判が試合終了を告げた。


 私は壁に空いた大きな穴をくぐって、すばやく闘技場の外へ行った。


 ラオカに受け止められて、リリーが咳き込んでいた。私の姿を見ると、やぁ、と微苦笑を浮かべた。


「やっぱり勝てなかったね……終始、手加減されているのがわかったよ」


「それはお互い様じゃないの」


「いや、わたしは全力だったよ。大魔術を使ったあとは……。同じ大魔術なのに、相殺すらできなかった。剣の勝負でも完敗だったね。わたしは、相手が怪我しないように剣の腹で打ち据える、なんて手加減をする余裕はなかった」


「それなりに怪我を負っているように見えるけれど?」


「かまわないよ。本当はもっと、大怪我をするかもしれないと覚悟していた。でも、大怪我させられるほど……実力は拮抗していなかったね。見切りが甘かったのは、わたしだったみたいだ……」


 リリーは自分に回復魔術をかけて、傷を癒やした。


 デイジーが飛んでやってきたが、完治したリリーを見ると、私が来る必要はありませんでしたね、と闘技場のほうへ戻っていった。


 私たちも後を追い、表彰台に登って、トロフィーを受け取って、武闘会は終わりを告げた。

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