第28話 準決勝のない武闘会
私たちは一階の観客席にいた。呼ばれると、乱入でもするように観客席から飛び降りる。そして、戦いが終わると戻ってくる。
一回戦は、四人とも危なげなく勝利した。私もリリーもシスルも、技に物を言わせて相手を圧倒したのだ。
デイジーは魔術であっさり相手を叩きのめした。中伝しか持たない彼女は不利なように見えたが、デイジーには補助魔法があった。
おまけにシスルやリリーに言わせると、デイジーは完全に最上位なのだという。
「どういう意味?」
私が首をかしげると、ふたりとも呆れ顔を見せた。
「お前やっぱり気づいてなかったのかよ……」
「だ、だから何がよ?」
シスルのしっぽが、困ったように揺れる。
「同じ中伝持ちでも、実力はピンからキリまでいるんだよ。前に言ったろ? 中伝は数十人に一人、奥伝は数万人に一人だって。つまり、同じ中伝でも、ぎりぎりで中伝を取れたってやつと、奥伝にあと一歩届かなかったってヤツがいるんだよ。そして」
と、シスルは試合開始を待つデイジーを指さした。
「あいつは後者だ。同じ中伝持ちでも最上位に位置する。下位や中位はもちろん、上位のやつでも話にならねぇ強さなんだ」
試合が開始された。相手は皆伝持ちだったが、デイジーはすばやく距離を取り、魔術の連撃であっという間に撃破してしまった。
「おまけにデイジーのやつ、常時自分に補助魔法をかけて自己強化してるだろ? そりゃ皆伝持ちと接近戦なんかしたら技の差であっという間にやられるが、距離を引き離して魔術をぶちかます程度なら余裕なんだよな。ってかパワーやスピードだけなら皆伝持ちと変わらねぇし」
「でもリリーやシスルや私と比べると――」
シスルはデイジーから私に目を向けた。
「さっきの話、ちゃんと理解してたか? 中伝に差があるように、初伝や奥伝、皆伝にも差があるんだよ。数千万人に一人の才能で、ぎりぎり皆伝取れましたってやつと、お前みたいに余裕で皆伝取得して、さらにその上を行く化物とじゃ、圧倒的に違うんだよ」
シスルは面倒臭そうに背もたれに寄りかかった。
その後も、順調に私たちは勝ち進んだ。もっとも、準決勝は行なわれなかった。私の相手はデイジーで、リリーの相手はシスルだったからだ。
デイジーは「私ではお嬢さまには勝てませんので」と言って棄権し、シスルも「あたしじゃリリーに勝てねぇ」とあっさり棄権した。
観客は戸惑いの声を上げたが、決勝はきっちり行なわれるので……とのアナウンスで静まった。隣のリリーが苦笑いで、ぼやくようにつぶやいた。
「わたしも棄権しちゃダメかな? どう考えても勝てそうにないんだけれど」
「そりゃ無理だろ」
シスルがすっぱりと断言した。
「さすがに準決勝も決勝もなしで終わりじゃ、女王陛下も満足しねぇだろうし、観客だって金返せってキレるんじゃねぇの?」
「うまいこと逃げたね、ふたりとも」
リリーは苦笑いで、困ったようにシスルとデイジーを見た。二人は顔をそらした。私が口をはさんだ。
「最初からあきらめるのはよくないと思うわ。それに私、よく考えたらリリーやシスルが全力で戦ってるところ見たことないし、やってみないとわからないと思うけど」
リリーはなんとも言えない表情で私を見た。実現不可能な、無茶なことを言い出した子供を見るような顔つきだった。
「前々から思っていたんだけれど……プリムさんは、見切りを鍛えたほうがいいんじゃないかな。相手と自分との実力差というか、相手がどのくらい強いのかを瞬時に見極める力というか……」
「難しそうね」
「……客観的に自分と相手を見比べるだけだから、やろうと思えば簡単にできるようになると思うよ……」
リリーは遠い目をして言った。
名前が呼ばれたので、私とリリーは闘技場に降り立った。十五メートルほどの距離を離して、中央で対峙する。お互いに剣を鞘に収めていた。
リリーの剣は、全長一四〇センチ程度だ。一方、私の剣は全長一メートルほどで、大きくはないが小さくもない。