第27話 学園主催の武闘会(参加者ほぼ部外者)
学祭には、武闘会がある。
もちろん、私は出場するつもりなどなかった。武闘会に限らず、私はあくまでも一般参加者として出し物を楽しもうと考えていた。ところが、マーガレット陛下は私が出場しないのがよほど不満だったらしく、勅命が下った。
参加せよ、と。
気乗りはしなかったが、アルファ王国の公爵令嬢として「イヤです」と断ることはできなかった。
もちろん、これは非公式な要請だ。無視してしまえば……と言いたいところだが、それも難しかった。なにせ、話を持ってきたのが宰相閣下だ。
しかも、「すぐに返事をいただきたいとのことです」と彼は淡々と言った。
私は了承した。彼は帰っていった。
私はデイジーを抱きしめ、自室のベッドでしばらくふてくされていた。が、心配したリリーとシスルが様子を見に来たので、素直に起きて学園へ行った。
武闘会にはデイジーも、リリーも、シスルも出場する。いずれも、女王陛下から非公式の「お願い」という名の勅命が下ったからだ。
学園主催の武闘会には、プロートス大陸中から猛者が集まる。
学祭の出し物なのに、外部参加者を受け入れて大丈夫なのかとも思うが、そういうものなのだから仕方ない。アルファ王国の威信を見せるチャンスなのだ。
女王陛下としては、できるだけ強い人間を出したいのだろう。
実際、予選に参加しているのは奥伝を持つものが大半で、皆伝持ちもちらほらいるレベルだ。武闘会は実戦形式で、ゆえに魔術師よりも武術家が多く出る。
デイジーのような魔術主体の人間もいないではない。だが、そういう人物もなんらかの武術を修めているのが普通だ。
私たちの出番は本選からだった。
学園の生徒であるから、出場枠が確保されているのだ。もちろん希望者が殺到すれば、学園代表を選出しなければならない。当然、そうなると落ちる生徒も出てくる。
どうしても出場したいのに代表に選ばれなくて――という場合、一般参加の予選にエントリーして無理やり本戦進出……なんてことさえある。
だが、今年はなかった。
先輩方には、奥伝や皆伝を持つものもいる。だが彼女たちはすぐさま辞退した。私たちが代表に選ばれたと知ると、一様に出場を拒否したのだ。
一般参加者もだいぶ減った。なんでも学園代表が発表された途端、ほとんどが辞退したという。
例年なら、学園の出場枠は八人なのだが……半分しか埋まっていない。それでいいのかとも思ったが、生徒たちがみんな遠慮しているので、一般参加者を増やす方向で調整するという。
私は訊いた。
「先生方は出場なさらないんですか?」
アイリス先生と、ダリア先生だ。しかし、ふたりとも首を横に振った。
「あたしたちは主催者側だからな」
「ダリア先生はともかく、わたしはダメよ。武術の心得がないんだもの」
そんなわけで、武闘会本選は、私たち四人に一般参加者二十八名を加えた三十二人によるトーナメントとなった。
シードはないので、計算上、五回勝てば優勝だ。勝ち上がってきたのはほとんどが皆伝を持つ猛者で、一部に奥伝を有し、魔術も併用するタイプがいた。
ただし、私やリリーのような、大魔術使いであると同時に皆伝を持つ者はひとりもいなかった。
辞退続出で参加者のレベルが一気に下がったのかと思ったら、実際は跳ね上がっているらしい。武闘会史上、もっとも出場者の質が高く、これだけ皆伝持ちが出るのは前代未聞だという。
私たちが参加すると発表された途端、出場しようと駆け込んできた皆伝持ちが相当数いたのだとあとで聞かされた。
私たち四人は見事にばらけた。三回勝てば、私は準決勝でデイジーと戦うことになる。四回勝てば、決勝戦でシスルかリリーのどちらかと戦う――敗北することなく、順調に勝ち続ければの話だが。
もっとも、わざと負けるわけにはいかなかった。なにせ、事実上の勅命だ。
女王陛下としては当然、私たち四人の誰かが優勝することを期待しているだろう。手抜きして敗北を喫するなど、絶対にあってはならなかった。
武闘会当日、私たちは闘技場にいた。普段は剣闘士たちが戦っている場所だ。だが、今日は学園主催の武闘会の会場となる。
闘技場は石造りで、外から見るとローマのコロッセオふうだった。
中には売店があって、食べ物や剣闘士のグッズなどが販売されている。観客席は一階から三階まであって、いわゆるVIP席もあった。
戦いを行なう闘技場の中央は、直径二〇〇メートルほどの円形で、踏み固められた土がむき出しになっている。