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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第26話 赤黒い魔獣(出オチ)

「なんですか、私が大食らいみたいな――」


「いや、妖精のわりには食うだろデイジー。普通の人間と食事量変わんねぇし」


「私は日頃から運動してるんですよ? 当然じゃないですか。まぁお嬢さまに言われて、仕方なく十日くらいは絶食してても全力で動けるように訓練してありますけど、食べるときはきちんと食べますからね?」


「んー、そうか。なにかヤバそうな発言が聞こえたが、ここで追求すると妖精たちの不安を煽りそうだから、やめとくわ」


 シスルは真顔でそう言った。私たちは、警戒をあらわにする妖精の里を早々に立ち去った。


 見学中、彼らは常に私たちを見張っていた。武装した妖精が控え、子供たちは里の外れまで退避していた。腕に覚えのあるらしい妖精たちが、物陰からこっそり私たちの一挙手一投足を見ていた。


「結局、妖精たちに不信感を植えつけただけのようでしたね」


 帰り道、デイジーがぼやくように言った。先頭を行くシスルが振り返って、恥ずかしそうに口を開いた。


「し、仕方ねぇだろ! あんな警戒されるとか思ってなかったし!」


「口癖みたいに、私やお嬢さまに自重するように言っといて、いいざまでしたね?」


 普段の仕返しとばかりに、デイジーがいやみったらしく言った。彼女はせまい家から解放されたのがよほどうれしいようで、私のそばを踊るように飛びまわっていた。


「そんな言い方をしてはダメよ、デイジー。誰にだって失敗はあるわ。それにシスルだって、私たちのためを思って注意してくれているのだから」


「む、それは……」


 デイジーは飛びまわるのをやめると、シスルに頭を下げた。


「確かに、そのとおりです。申しわけありません」


「別に頭下げろとは言ってねぇだろ! いちいち大げさなんだよ! 気にすんな、あたしだって口悪いんだしよ!」


 そう言って、シスルはずんずん下生えをかき分けて進んでいった。


 すでに霧は薄くなっていて、足元でかすかにただよう程度だった。あと、ほんの五〇メートルも進めば、完全に霧の結界から出られるだろう。


 そう思った直後、シスルが足を止め、大きく後方に跳んだ。私とリリーのあいだに着地する。


 同時に真上から、赤黒い毛並みの巨大な熊が降ってきた。体長は十メートルを軽く超えているだろう。頭から湾曲した二本の角が生え、額に大きな宝石があった。


「赤黒い魔獣!?」


「エリュトロン・メラン!?」


 リリーとシスルが同時に叫んだ。赤黒い魔獣はギロリと二人をにらみつけた。


「いかにも! 僕は貴様らに殺されたエリュトロン・メランの息子! エリュトロン・メラン・ジュニア! 貴様らを倒すために! 僕は血の滲むような修練の日々を過ごしてきた! リリー・リリウム! シスル・ナスターシャム! 我が父の仇、今こそ討たせてもらおう!」


 赤黒い魔獣は突進してきた。大木のように巨大な腕を振るう。私は抜剣と同時に、突っ込んできた魔獣の体を十字に斬り裂いた。


 魔獣の体が四つに裂かれ、私の後方に落ちていく。体が地面に落下して、血が勢いよく吹き出した。だが、すぐに勢いは弱まり、雑草と土が真っ赤に染まった。


「って瞬殺かよ!? 嘘だろお前!?」


「息子さんはあんまり強くなかったみたいね」


「いやいやいや! こんな雑魚扱いで一蹴できるほど弱くねぇだろたぶん!?」


「一撃で終わったから、いまいち強さがわからないね……」


 リリーが苦笑いで死体に目を向けた。私は剣を鞘に収めながら言った。


「なんにせよ、倒せたんだからいいじゃない」


 くるりと振り向いて死体に近づくと、ちょうど遺体が煙のように消失するところだった。血のりも消えて、はた目にはなにもなかったかのようだ。大きな丸い石が残っていた。


 私は魔石を拾い上げると、シスルに投げた。


「本物みたいだし、分身ではないみたいね」


「魔石まであんのに分身だったら驚きだけどな」


 シスルは困惑した様子で魔石をじっと見やった。


 このあとは、特に何事もなかった。私たちはそのまま無事に合宿を終え、学園に戻り、いつもの日常を過ごした。月日はまたたく間に過ぎ去り、学祭がやってきた。

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