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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第25話 妖精用の家だが、デイジー(妖精族)が暮らしやすいとは限らない

 若い女の妖精は、ちらりとうしろを見た。


 武装した女の妖精に囲まれて、男の妖精が一人いた。見た目は中年に見えるが、実年齢はわからない。妖精族は長寿で、三〇〇年ほど生きる。しかも美容魔法で年齢はごまかすことができた。


 おそらく、あの男が里長に当たる人物なのだろう。彼はうなずいた。若い女の妖精は私たちに近づいてきた。


「では、わたくしがご案内いたしますので」


「ええ。よろしくお願いします」


 私たちは、彼女の案内で里を見てまわった。といっても、里は一般的な農村と大差ないものだった。田畑は小さいが、自給自足をするだけならば問題ないのだろう。


 なにせこの世界には魔法があり、その中には当然、作物の品種改良や土壌改善、豊作にする魔法なども含まれている。


 米や麦などの穀物、ニンジンやタマネギをはじめとした野菜、リンゴやイチゴに代表される果物、さらに家畜の飼料などは、年に何度も収穫が可能なのだった。


 この妖精の里も例外ではなく、小さな田畑から驚くほどの収穫があるはずだ。


 里の外れには牧場もあって、牛や豚、鶏などが育てられていた。一般的な村と同じく乳製品や卵なども生産されている。肉については家畜だけでなく、訓練も兼ねて狩猟も行なっているとのことだった。


 里の人口は三〇〇人程度と少ない。里を覆う結界は、山からとれる鉱石を特殊加工して魔石にしているそうだ。


 もっとも、と案内役を買って出た、おそらく里一番の使い手はため息まじりに言った。


「あなたがたには、なんの意味もなかったようですが」


「いや、それはこいつらが特殊なだけで……!」


 シスルが慌てて言うが、相手は首を横に振った。


「いえ、やはり結界頼みでは防衛力に不安があります……。それがわかっただけでも、今回の一件は収穫でした」


 彼女は暗い顔をしていた。


 私たちはログハウスのひとつに案内され、妖精たちの暮らしぶりについて説明された。どうやら彼女自身の家らしく、家族の方々に立って出迎えられてしまった。


 家は、町にある屋敷とさほど変わりない。天井が低いことをのぞけば、だが。


 ポーチを上がって玄関に入ると、すぐ食堂を兼ねた居間がある。むかって左手側に台所があって、一階にはトイレと浴室、洗面所しかなかった。


 寝室は二階だが、さすがに部屋のなかは勘弁してほしいとのことで、私たちもそこまでは要求しなかった。


 リリーは膝を曲げて、頭を低くしながら台所をながめていた。背の高い彼女にとって――というより、私でもかがまないとダメだった。


 普通に歩けるのはシスルくらいだが、彼女の背丈でもぎりぎりの高さなので、少しばかり窮屈そうだった。


 意外だったのはデイジーだろうか。


 もちろん、彼女の背丈一二〇センチメートルは、妖精族としては超がつくほどの長身だ。だが、それでもこのログハウスは苦にならない――はずだった。


 ところが、彼女は天井に何度も頭をぶつけている。


 よくよく観察してみると、妖精の里の妖精たちはみんな低空飛行だった。正確には、床からせいぜい十数センチくらいの位置に浮いていて、飛ぶときもその高さを基準にする。


 一方、デイジーは常に私と同じか、場合によってはそれ以上の高さを飛ぶ。


 これは人間と一緒に暮らしていた影響なのだろう。しかもデイジーの場合、天井の高い公爵家の屋敷に慣れていたのだ。無意識に高い位置に浮いてしまい、そのたびに頭をぶつける羽目に陥っていた。


「妖精専用の家なのに、デイジーさんが難儀するって面白いね」


 リリーが興味深そうに言った。


「仕方ないじゃないですか。私はずっと人間のお屋敷で生活してきたんですから」


 デイジーは拗ねたように唇を尖らせた。


「それより、台所なんか見て面白いですか?」


「ああ、お前ら貴族だから自分で料理とかしなさそうだもんな」


 シスルが言った。私が反論する。


「失礼ね。熊や猪を丸焼きにして食べることぐらいならできるわよ」


「それは料理じゃねぇだろ……。つーか血抜きすらしてなさそうだな……」


「血抜きぐらいするわよ。魔法で一発だし」


「え!? 血抜きって魔法でやってんの!?」


 シスルが驚いた声を上げた。猫耳としっぽがまっすぐに伸びる。


「知らなかったんですか?」


「あたしは普通の農家出身なんだよ! 牧畜はやってねぇ!」


「それはわたしも初耳だね」


 リリーも驚いた様子だ。


 彼女は流しやコンロ、オーブンを物珍しそうに見ていた。いずれも魔石を用いて水を出したり、火を出したりすることができる。デザイン自体は地球のものとよく似ていた。


「やっぱり妖精用だと小さめのサイズなんだね。鍋やフライパンの大きさも」


「まぁ普通の妖精はそんなに食わねぇんだろうな」


 シスルがデイジーを見ながら言った。デイジーは天井に手をくっつけて、頭がぶつからないようにしていた。

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