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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第23話 侵入者を阻む霧の結界(ただしプリムたちに効果はない)

 月日はまたたく間に過ぎ去っていく。


 合宿までの一週間はあっという間だったし、その後、学祭までの四ヶ月もあっという間だった。もちろん、これは私にとって大した事件が起きなかったからでもあった。


 合宿は自由参加だったが、私たちは参加した。シスルが、いちおう妖精の里が大丈夫かどうか確認しておきたい、と言ったからだ。同族ということもあってデイジーも賛同し、私たちで見に行くことになった。


 合宿といっても、環境が変わるだけでやることは普段の学園と同じだ。


 生徒たちは各々参加したい授業を選択する。合宿は、いわゆる林間学校を思わせた。王都から東に八〇〇キロメートルほど離れた場所まで行き、山のふもとにある宿舎に泊まる。


 周囲は森に囲まれ、宿舎から少しばかり歩くと川があった。


 生徒たちは教師と一緒に森へ出かけたり、川へ魚釣りに行ったりしていた。初日なので、今日は思い思いに過ごすように、との配慮だった。私たちは山を登った。ほかにも登山する者はいたが、私たちの目的は頂上ではなかった。


 妖精の里は、山の中腹にある。


 勾配の激しい山道を登りながら、私はさりげなく周囲の目をごまかそうとした。さすがに道からそれると、見咎められると思ったのだ。しかし、リリーが笑いながら言った。


「いや、わたしたちの場合は絶対に大丈夫だよ」


「そんなはずないでしょう?」


 と私は答えたものの、実際に道をそれて、下生えのなかを突き進んでも、なにも言われなかった。というより、誰も私たちのほうを見ようとしなかった。


 みんな足早に山道を歩き、私達には一瞥すらくれない。


「予想どおり、誰も気にしてないね」


「またなんかヤバいことしようとしてる……って思われてんだろ?」


 リリーとシスルがうなずき合った。


 私たちは雑草をかき分けながら目的地に向かった。踏みならされた山道と違い、でこぼこして歩きづらい。靴の裏に石や枝や根っこを踏む感触があった。私たちはじぐざぐに進んでいく。木々が生えていて、まっすぐ歩けないからだ。


 妖精の里は、霧の結界によって守られているらしい。


 この結界は侵入者を迷わせ、里に侵入できなくする効果があるという。もっとも、そのおかげで場所が丸わかりなのだから、かえって逆効果に思えた。


「いや、微弱な魔力から正確な位置を割り出す、とかお前らにしかできねぇだろ……」


 シスルはどこか疲れた様子で言った。しっぽが力なく垂れ下がっている。リリーは無言で苦笑いしていた。私は言った。


「リリーだってできるじゃないの。私たちの隠密魔法を見破ったんだから」


「わたしの場合、近距離じゃないと無理だよ。さすがにここまで離れてると……」


 リリーは進行方向に目を向けた。


「少なくとも、実際に霧にふれられるくらい近くまで行かないと無理だね」


「そうなの?」


 私は意外に思った。魔力は確かに微弱だったが、かなり広範囲に展開していた。山道をそれて、八〇〇メートルも進めば霧にぶち当たる。


 もちろん、最初は足元にうっすらとただよう程度だ。しかし、近づけば近づくほど霧が濃くなっていく。


 一〇〇メートルも進めば、木々を覆うほどの高さにまで霧が上りつめていた。私は軽く風魔法を使ってみた。霧を飛ばそうと試みるが、まったく効果がない。


「やはり魔法の霧ですね。視覚を制限して、方向感覚を狂わせる効果です」


 デイジーが手で霧をすくうように見ながら言った。


「そりゃ侵入を阻むためのものだからな」


「でも、丸見えなんだけど」


 私はまっすぐに妖精の里を見ながら言った。


 霧は確かに濃く、二メートル先を見るのががやっとだった。しかしながら、この霧……少しばかり目を凝らすと、あっさり透明になってしまう。


 木々のあいだから、妖精の里の様子が見渡せた。


 デイジーよりも小柄な妖精たちが、ふわふわと宙を浮いて移動している。私たちのことなどいっさい気づかず、のんびりと日向ぼっこをしたり、数人で散歩をしたり、花を見たり、荷物を運んだりしている。

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