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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第21話 魔王、人類、竜の情勢

「魔王を倒すのは聖剣に選ばれた使い手、というのがこの世界の常識だったね」


 リリーが窓に目を向けた。激しい雨で、外の景色はほとんど見えない。


「確かにわたしたちが選ばれるかはわからない。だから、そんなに気落ちしなくてもいいんじゃないかな。さしあたっては合宿を楽しみにする、ということで」


「リリーは気楽ね……」


 私はため息をついた。


「『学園』や『英雄』では魔王を討伐してるのに……」


「前も言ったけれど」


 とリリーは小さく笑った。


「わたしの前世の知識に、そのゲームは存在していないんだ。それに、現実とゲームは違うよ。ゲームどおりにわたしが聖剣の使い手になるかどうかはわからない。今、悩んだって無駄さ」


 廊下から声がかかった。


「久しぶりだな、プリム」


 扉が開いて、ラオカが入ってきた。楽しそうな笑みを浮かべている。


「どうだ? 魔王討伐をする気になったか?」


「絶対にイヤです!」


 私は背筋を伸ばして即答した。ラオカは笑みを崩さないまま肩をすくめた。


「なんだ、『憂いの種は直接叩くに限る』と変心したかと思えば」


「そんなわけないじゃないですか!」


「しかしだな、プリムよ。芽は早いうちに摘んだほうが面倒がなくてよかろう? 生長するのを待ってから刈り取るのも一興ではあろうが」


「ほかの誰かが倒してくれるかもしれないじゃないですか! 私はそれに賭けます!」


 私は力強く言った。ラオカは口許を手で隠し、上品に笑った。


「本当に強情な娘よな。実際に魔王が攻めてきても、まだ嫌がるとは……。まあ、この辺りは戦場になっておらんし、当然かも知れぬが」


「主に戦場になっているのはヒュスタトン大陸なのですよね?」


 デイジーが訊いた。ラオカはうなずき、興味深そうにテーブルの上のクッキーを見た。


 よかったらどうぞ、とリリーが勧めた。ラオカはひとつ手に取ると、クッキーを口の中に放りこんだ。


「うむ。というより、まだ地上に拠点を築いている真っ最中だ。軍の移動も終わっておらん様子だし、本格的な戦いはこれからなのだろう」


 この世界には大陸が三つあり、南に位置するのがヒュスタトン大陸だ。


 中央にはメソン大陸があり、北側にアルファ王国のあるプロートス大陸があった。魔界に通じる祠はヒュスタトン大陸にあり、魔王はそこからやってくる。


「竜たちの様子は? 以前、魔王討伐をする気だとかおっしゃっていましたが?」


「あやつらは聖王国と共闘する腹づもりらしくてな。もっとも、なにやら揉めている様子だが」


 デイジーがいぶかしげな顔をすると、ラオカが苦笑いで首を振った。


「どうも一部の若い竜どもが、『人間の協力なんぞ不要! 自分たちだけで魔王軍を蹴散らせばよい』と言い出しておるらしいぞ? 加えて年経た竜のなかには、身内を人間との戦いで亡くした者も多いからな。人間との協力に難色を示す奴らもおるようだ」


 ラオカはうまそうにクッキーを頬張りながら、肩をすくめる。


「さらに言うなら、人間のほうも『魔王を打ち倒すのは聖剣の使い手であって、竜の力を借りるなど邪道』と主張する連中が結構な数いるとかなんとか」


「ぐだぐだじゃねぇか」


 シスルが頬杖をつき、しっぽを揺らめかせた。ラオカはくすくすと笑った。


「仕方あるまいよ。竜と人は仲良しこよしの関係ではない。むしろ狩る側と狩られる側、襲う側と襲われる側だ。すべてではないが、竜は人を襲うし、人は竜を狩ろうとする。難事を前にして、いきなり信頼し合えるほうがおかしい」


「となると、聖王国と竜の連合軍で魔王を撃退……とは行かなそうですね」


 デイジーの言葉に、ラオカはうなずいた。


「同感だ。正直、我も竜たちの試みがうまくいくとは思っておらぬ。おそらく、無駄に終わるのであろう」


「それでも……! それでも、聖剣の使い手さえ現れてくれれば……!」


 祈るように言うと、ラオカは笑いをこらえるように私を見た。

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