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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第20話 魔王討伐する気がない猛者たち

 魔王軍が侵攻してきたのは、六月のはじめ、合宿まで残り一週間といったところだった。


 アルファ王国には梅雨がなかった。雨は年間を通して、一定量が降る。その日は土砂降りの雨だったが、この国では時々あることだ。風も強く、ガラスに大きな雨粒がぶつかって激しい音を立てていた。まるで嵐のようだ。


「魔王軍は来ない……でしたっけ」


 デイジーがココアを淹れながら言った。いつもの部屋でのことだった。


 私は黙ってうつむいていた。目の前のテーブルに、カップが置かれる音がした。ココアのいい香りがただよってくる。顔を上げると、ココアが湯気を立ち上らせていた。


「思ったより甘くないんだな、コレ」


 シスルがココアを飲みながら意外そうに言った。珍しく、ココアを飲んでみたいと言い出したからだ。デイジーが肩をすくめた。


「もっと甘いのが好みだったんですか? 普段はコーヒーを飲んでいるのに?」


「ブラックで飲んでるってんならともかく、あたしもリリーもミルクや砂糖入れて飲んでんだろ。別に甘いのが嫌だからコーヒー飲んでるんじゃねぇんだぞ?」


 シスルは渋い顔で言ってから、うまそうにココアを飲んだ。しっぽと猫耳がうれしそうに揺れている。リリーはコーヒーを一口飲んでから私を見た。


「で、魔王が来てしまったわけだけれど、どうする気だい?」


「まだ、私は負けていないわ……」


「なんの勝負をしてるんだよ、お前は」


 シスルは呆れた顔で言った。それから、彼女はうれしそうにお茶請けのクッキーに手を伸ばした。おいしいと評判だったので、リリーが買ってきてくれたのだ。


「来ちまったもんはしょうがねぇだろ?」


 私はイスから立ち上がった。


「確かにそのとおりよ! ラオカさまも言ってたし、その点に文句を言うつもりはないわ! でも! 私は絶対に魔王討伐には行かない! ふたりでがんばって!」


「押しつけんなよ。そもそもあたしらだって行く気はねぇよ。なぁ?」


 シスルはクッキーを頬張りながら、リリーを見た。


「そうだね。わたしも、別に魔王討伐をしたいと願っているわけじゃない。少なくとも、わたしのほうから打って出る気はないよ」


「それじゃ困るわ! だって……!」


 言い募ろうとする私を、リリーが手を振ってさえぎった。


「『学園』ではわたしが魔王討伐をしていた、だろう? でも、それは『学園』の話であって、現実の話じゃない。それに『学園』だったらどうこう……という話なら、『英雄』では君も立派な討伐メンバーのひとりじゃないか。だろう、デイジーさん?」


「ええ、そのとおりですね」


 私は言葉につまった。リリーは苦笑いを浮かべた。


「別になにもかもがゲームどおりである必要はないんだから。というより、現時点でも三つの作品が混じり合ったような状態なんだから、あくまでも参考程度にとどめておくべきだよ。色々と違いはあるんだから」


「ま、それ言ったら漫画の『騎士』には魔王なんて影も形もなかったわけだしな。いちおう大昔にそういうやつらがいた、みたいな設定はあったけどよ。一〇〇年ごとに魔界から新しい魔王が攻めてきて――なんてのは初耳だ」


「その辺は『英雄』とも違いますね。『英雄』だと、魔王って何百年も昔に封印されたキャラで、それが復活して攻めてくる……っていう流れですから」


「新しい魔王じゃなかったわけだ」


 リリーの言葉に、デイジーはうなずいた。


「さすがに毎回、聖剣の使い手にやられて死亡。新しい人が就任して定期的に攻めてくる――なんて設定じゃないですよ」


「じゃあ、私……行かなくてもいいの?」


 私はイスに座り直すと、机に突っ伏し、上目遣いにリリーとシスルを見た。


「別に行きたくねぇならいいんじゃねぇの? あたしはラオカさまの言うとおり、お前が直接ぶっ倒しに行ったほうが手っ取り早いとは思うけど……つーか、そもそもあたしらの誰かが聖剣の使い手になるとは限らねぇじゃん」

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