第17話 プリムさん、漫画のストーリーが気になる
「そういえば『聖なる乙女の騎士』ってどういうストーリーなの? リリーの復讐譚っていうことくらいしか知らないんだけれど」
校庭での鍛錬中、私はそう訊いてみた。
デイジーと木剣でたわむれているときのことだ。リリーとシスルは、私たちの様子を監視している。おかしな行動がないか、逐一チェックしているのだ。
「なんだ、藪から棒に? それを言うならあたしも『聖なる乙女の学園』のストーリーが気になるぜ?」
「『学園』のストーリーはあってないようなものよ?」
私の言葉に、シスルは眉根を寄せた。
「どういうことだ?」
「だって恋愛育成ゲームだもの。主人公のバックグラウンドもある程度自分で決めて、あとは想像で……みたいな感じよ」
「んなことまで決められんのかよ」
私はデイジーの打ち込みをさばきながら答えた。
「主人公はプレイヤーの分身、っていうスタンスだもの。大雑把だけど、農村の娘として育ったとか、町娘だったとか、騎士とか下級貴族の娘だったとか……本篇のストーリーも、ただ王立学園に入ってがんばるぞー! みたいな?」
「目的ねぇのかよ……」
シスルの耳としっぽが呆れたように垂れ下がる。
「普通は、何かこう――これこれになる、とかさぁ……」
「そういうのも自分で決めるのよ。将来の夢は騎士とか、凄腕冒険者とか、大商会の会長とか、英雄とか、色々と。ゲーム本篇は、週ごとの行動を決めて、三年間でステータスを上げて、好みの同性と結ばれることが目当てだから、細かいところはいいのよ」
「地球人向けなのに『好みの異性』じゃないあたり、割とマニアックなゲームだよな、それ……」
シスルは半眼で私を見た。私はちょうどデイジーに軽く攻撃を加えているところだった。
「えー? 私の知識だと、百合ってそれなりに人気のあるジャンルだったような……」
「そうだっけか……? まぁいいや。じゃあ、ゲーム中のイベントとか、そういうのも全部ランダムなのか? 漫画だと合宿とか学祭とかあったんだが」
「ああ、それは『学園』にもあったわね。確か、合宿や学祭期間中はパラメータが上がりやすいとか、パラメータが一定以上だと大会に出場できるとかあったわ」
デイジーの打ち込みをかわしながら、私は言った。
「意外と共通してるのね。ゲームと漫画で」
「現実のほうにもあるしな」
合宿は六月に、学祭は十月に行なわれる恒例行事だ。
「で、『騎士』のほうだとどんな感じなの? っていうか細かなストーリーは? 厄介事になりそうな出来事とかあるの?」
シスルは考え込むように顎に手を置く。
「つってもなぁ……ラスボスのエリュトロン・メランはもう倒しちまったし、ぶっちゃけ『騎士』のストーリーって完全に破綻してんだよなぁ、こっちだと」
私はデイジーの木剣を受けながら訊く。
「確か、そいつが仇なのよね? 本来なら」
「そうだぜ。『聖なる乙女の騎士』は五つのパートに分かれてて、第一章っつーか序章? に当たるのが入学篇だな」
「入学するところから始まるの?」
私はデイジーに六連撃を浴びせた。デイジーは必死の形相でさばく。二発当たりそうになったので、私は軌道をそらした。
「プリムさん、もう少し手加減してくれ」
「あ、ダメなのね。ごめんなさい」
リリーの言葉にしたがって、私は太刀筋をゆるめた。シスルが言った。
「正確には、故郷を旅立ったばかりのあたしとリリーが出会って、学園に行って、入学試験に合格する話だな」
「え? 入学試験なんてあるの?」
私は驚いた。
「『学園』にはなかったのかよ?」
「どうやって入ったか、までは言及されないもの。それに現実のほうにもないじゃない」
王立学園に入れるかどうかは、書類選考と推薦状で決まった。
学園が認めた師範から推薦状をもらわないと、入学することができないのだ。ただ、書類選考で落ちることはほぼない。事実上、推薦状さえあれば問題なく入れる。
「漫画だとあったんだよ。あと、入学篇は王都に向かう途中、執拗に魔獣討伐や魔物討伐しようとするリリーの謎めいた行動を読者に見せるっつーか……」
「ああ、魔獣に故郷を滅ぼされてるから」
「そうそう。んで無事に入学したらライバル篇」
指を二本立ててみせた。
「訊かなくてもなんとなく想像がつくけど、ライバルって誰かしら?」
「おめーらだよ。正確にはプリムがリリーに突っかかってくるんだよ。平民のくせに成績優秀で生意気とか言って」
「えぇー……なにそれ? もしかして漫画の私って性格悪いの?」
私はデイジーとつばぜり合いをする。普段は絶対にやらないことなので、意外と面白い。