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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第16話 ヤバいヤツすぎて人気が出ない問題

 私は転生後の生涯で、もっとも穏やかな日々を過ごしていた。


 シスルに強く言われ、私とデイジーは普段の訓練がいっさいできなくなっていた。シスルは、リリーと協力して私たちに張りついていた。


 起きているときはもちろん、屋敷に戻って休んでいるときも近くに待機していた。最初のうちは何度か、デイジーと示し合わせて普段の鍛錬を行なおうとした。だが、できなかった。


 シスルか、リリーに発見されてしまうからだ。


 捕まるたびに私たちは屋敷に連れ戻され、こう言われた。人間としての振る舞いをこれから学ぶべきだと。


 デイジーの「あきらめたらいいんじゃないですか?」という言葉もあって、私はシスルたちの提案を素直に受け入れた。夜はしっかりと寝て、目が覚めたら学園へ向かう生活だ。


 これまでのように、一睡もしないまま飲まず食わずの訓練は行なわない。


 屋敷を出たところで、交代で監視していたリリーかシスルのどちらかと合流する。学園で四人組になり、例の空き部屋へ行く。私たちが最初に話し合いをした場所だ。別に占拠しているわけではないのだが、誰も使いたがらないという。


 あたしらが使ってるってバレたからだよ、とシスルは言っていた。


 この学園には貴族も多いはずなのに、公爵令嬢や子爵令嬢が使った部屋は忌避されるらしい。


「そういう意味じゃねぇよ」


 シスルは疲れた顔で否定した。


「お前ら二人がビビられてるんだよ」


「そんなに私って強面かしら?」


「お嬢さまはとてもおきれいですよ」


 私はデイジーの頭をなでた。


「あなたもそうよ。とっても可憐で、すっごく美しいわよ?」


「見た目は確かにきれいだよな、お前ら」


 シスルの言葉に、リリーは小さく笑った。


「きれいすぎて、非人間的だけどね」


「ああ……。そこも避けられる原因だよなぁ」


 どうすっかな……とぼやき、シスルは頭をかいた。私は首をかしげた。


「きれいなら別にいいんじゃないの?」


「美人なだけなら問題ねぇんだよ。過剰な美貌が、人間らしさを打ち消すレベルまで行っちまってるからダメなんだ」


「とはいえ、今さら消すのも無理じゃないかな?」


 リリーが言った。


「異常な高魔力で、何年にもわたって美容魔法を使い続けた結果なのだし……。わたしとしては、怖がられているのをどうにかすれば、受け入れられると思うよ?」


「あたしも同感だが……くそっ、こいつらに関わっちまったばかりに」


「今から逃げても、無駄だろうね。噂が世界の果てまで広がってる。同い年で、しかも皆伝や大魔術使いな点が仇になったね。完全に同類だと認識されてるよ」


「そんくらい、わかってるっつーの」


 馬鹿じゃねぇんだから、とシスルはコーヒーを飲んで息をついた。


「なんか……ごめんなさい?」


 私が頭を下げると、シスルは私をじっと見つめた。それから、ふいと目をそらして、


「お前が謝るこっちゃねぇだろ。いや、謝られて当然かコレ?」


「よくわからないけど、私が原因で迷惑をかけているみたいだから……」


「謝るくらいなら理解してくれ、頼むから。常識を知ってくれ」


「できるかぎりがんばる」


 どうも私は常識に疎いらしい。最初こそ疑っていたが、父や母に訊いてみたら、驚愕の表情を浮かべられた挙げ句、やっと娘が自覚を……! と泣かれた。


 本当であるらしい。両親はもとより、家族や使用人ですら、リリーとシスルに感謝の言葉を述べていた。家族はみんな、リリーとシスルに頭を下げてこう言った。


「どうかこの二人に、人としての生き方を教えてあげてください」


 さすがの私も、この事態にはまいった。


 もちろん変わり者だという自覚はあった。だが、まさか「人としての生き方を」なんて言われるほど、それも、実の家族が頭を下げるほどのひどさだとは思っていなかったのだ。


 この世に生を受けて十六年、まさか実の家族から野生児扱いされていたとは……。さすがの私も軽い衝撃を受けた。


「できるかぎりじゃなくて、限界を超えてがんばってほしいぜ。普段の訓練みたいに……」


「普段も、別に限界を超えたりなんかしていないけれど?」


 いぶかしげに訊くと、シスルは力強く首を振って、私の肩に手を置いた。


「いいか、プリム。四肢欠損したり猛毒を飲んだり従者の首を斬り落としたりするのは、世間一般で『限界を超える』とか『常軌を逸する』っていうんだ。お前は超えてねぇって認識でも、まわりの人はそうは思わないんだ。わかるか?」


「自分の認識と、他人の認識がズレてるって話?」


「そのとおりだ! だからお前は、これからそのズレをちょっとずつ修正していかなきゃならねぇ。納得できないこともあるだろうが、こらえてくれ」


 ほとんど嘆願するかのような口調だった。


 そんなわけで、私はじゃれ合うような鍛錬をしていた。学園の授業は、基本的に自由参加だ。入学した生徒は、自分の受けたい授業を選んで自由に学んでいく。学校側でカリキュラムを組むことはなかった。


 入学する生徒の目的は様々だ。それこそパートナー探しや人脈作りを目当てにするものもいれば、上級魔術や奥伝の会得を目指し研鑽に励むものもいる。


 より高度な学問や社交術を身に着けようとするものも多い。この学園には、少数ながら奥伝持ちや上級魔術の使い手もいた。単純に、凄腕に教えを請いたい、と願う者もいる。


 生徒では、私やデイジー、リリー、シスルが凄腕に該当した。


 だが、私たちに声をかけるものはいなかった。シスルの言うとおり、私やデイジーは相当恐れられているらしい。例年なら、人気者になっているはずだとダリアやアイリスが言っていた。

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