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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第8話 実は王位継承権を持っている(二十四位)

 ダリアもアイリスも前世の知識を持っていなかった。


 前者は部屋にいるとき、たまたま一階の校庭にいるのを見かけた。一八〇センチという長身であること、頭に二本の角が生えていることなどもそうだが、なによりもまず筋肉質な体つきが目立っていた。


 この点は、鬼人族と人間族との美的感覚の差なのだろう。ダリアは胸も大きいが、腕にも足にも筋肉がついていてボリューム感があった。


 私たちは窓を開けて声をかけ、下に行って話をしてみた。すると、前世がどうこうについては何も知らず、それどころか一笑に付した。


「なんだ? 新しい舞台の演目か? 悪いけど、あたしは演劇とか詳しくなくてな。アイリスは結構好きだから、あいつにでも話題を振ってみたらどうだ?」


 嘘をついている感じはなかった。


 この人は何も知らない。それが私たちの結論だった。アイリスのほうも同様だ。この時間なら書類まとめでもしているんじゃないか? というダリアの言葉にしたがい、私たちは職員室へとおもむいた。


 アイリスは新入生の名簿をチェックしていた。


 長い髪にうさぎの耳が生え、お尻にふわふわのしっぽが生えている。獣人族は下半身をむっちりとさせるのが好みらしく、アイリスもミニスカートからのぞく足の肉づきが素晴らしかった。


 服の上からでもお尻の大きさがわかる。


 体型的にはシスル寄りだが、彼女の場合は胸も大きく、お尻から太もものラインはさらに大きく、肉感的になるよう仕上げてあった。


 私たちが挨拶をすると、彼女は驚いた顔をしてから笑みを浮かべた。同じように質問してみるが、なにも知らなかった。


 それどころか、どこかの劇団の新作か、人気の小説かと訊かれて困った。最終的に、リリーが書こうか迷っている題材、ということになった。


「できあがったら先生に見せてね。約束だよ?」


「いえ、書くかどうかは……」


「でも面白い題材だと思うよ。地球だっけ? 結構設定が作り込んであるじゃない」


 と言われ、所詮素人の思いつきですから……とリリーはのらりくらりとかわしていた。私たちが元の部屋へ戻ってくると、リリーが盛大にため息をついた。


「あれはひどいんじゃないかな? わたしを生贄にしないでくれよ」


「しょうがねぇだろ」


 シスルがどっと疲れた様子でイスに座り込んだ。猫耳としっぽが疲労を示すように垂れ下がっている。


「まさかあんなに食いつかれるとか思わねぇし。どこが琴線に触れたんだ?」


「それがわかれば苦労はしませんよ」


 デイジーはココアとコーヒーの準備をしていた。魔法でポットに湯を出し、棚からカップを取り出した。


「でもこれで、あの二人が前世の知識持ちじゃないと確定したわ」


 私が言った。


「残るは三人だけど……すぐ聞くのは無理そうだし、放置でいいのかしらね?」


「前世の知識持ちなら、この時期に私たちがここへ来ることは知っているはずですからね。『英雄』でも、旅立つ前の私たちは学園にいた設定ですし、仮に新しい作品だったとしても、この部分は共通設定の可能性が高いです。なんのアプローチもないということは、たぶんそういうことなんでしょう」


 デイジーは新しく淹れたココアとコーヒーを、それぞれのテーブルに置いた。


 ありがとう、と言って私たちは受け取った。デイジーもイスに腰掛ける。シスルが片耳を上げて、不思議そうに訊いた。


「公爵令嬢なら、マーガレット陛下とは会えるんじゃねぇの? つーか王位継承権持ちってあたしは聞いたんだが?」


「無理よ。個人的な知り合いでもないし。それに継承権あるって言っても二十四位よ、私。王様になるなんてあり得ないし、そもそもやりたくないわ」


 私は手のひらをひらひらと振った。リリーが言った。


「確か、プリムのお母さまが先王の妹君だったんだよね?」


「そうよ」


 と、私はうなずいた。


「継承順は、基本的に長子優先かつ国王に近い血筋であるほど高くなるわ。まぁマーガレット陛下みたいに、先王さまから直接指名された場合は別だけれどね」


 私の言葉を引き継いで、デイジーがこう補足した。


「継承順位は、マーガレット陛下の姉君二人と弟君一人がトップスリーです。そして、次に来るのが先王の妹君。これは四人いまして、お嬢さまの母上は末っ子です。妹君の子供たちの継承順も、基本は長子優先ですから、末っ子のお嬢さまは一番下の順位ですよ」


「へぇ、そういう仕組みになってんのか」


 感心したようにシスルが言った。


「けどさぁ、順位が低くても王位継承者同士だろ? なんかしら交流はあるんじゃねぇの、普通は?」


「私は修行に熱中してたから。それに二十四位なんて継承権ないのと同じよ」


「そういうもんなのか?」


 シスルはいぶかしげだった。猫の耳が片方だけ上がっている。私は答えた。


「将来、国を背負って立つかもしれない人と、そうじゃない人じゃ全然違うのよ。実際、王様は忙しい身だもの。今の私たちみたいにのんびりしていられないわ。お仕事や面会しなきゃいけない人だってたくさんいるでしょうし……よくは知らないけど」


「知らねぇのかよ!? お前、公爵令嬢なのにそれでいいのか? 領地がどうとか……」


「そういうのはお父さまとお兄さまの仕事よ。女の仕事は戦うこと。男は文官、女は武官っていうでしょ?」


「お嬢さまは逃げる気満々ですけどね。地球なら銃殺されるやつ」


「敵前逃亡は――ってやつ? 大丈夫。私は敵が来る前に逃げるから」


「そうだ! それも聞きたかったんだよ!」

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