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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第2章 聖なる乙女の騎士
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第2話 主人公との出会い

「武術のエキスパートと魔術のエキスパートという感じですね」


「正直、教師陣とシスルについては、あまり注意を払っていなかったのよね……」


「そんなんでいいんですか? もしかしたら、お嬢さまと同じ前世の知識持ちかもしれませんよ」


「ああ、それは……どうなのかしらねー」


 私はどうでもよさそうに言った。


「しっかりしてくださいよ」


「わかってるわ」


 私はかなり憔悴していた。入学までの数日、私は日課だった修行を休むほどに打ちひしがれていた。デイジーはやれやれと言いながら、私と一緒にいてくれた。


 そして、入学式当日、私はデイジーに言った。


「こっそりリリー・リリウムの様子を探るわ」


「急に元気になりましたね」


「しょぼくれているよりはいいでしょうが! とにかく危険度を確かめないといけないわ! もしかしたらマジに前世の知識があるかもしれないし、そうでなくてもちゃんと人柄は把握しておかないと! 今後のためにも!」


 どちらにせよ、魔王討伐してやる! とか、将来は国盗りをしたいんです! などと息巻くような女なら、絶対に近寄らない。私は心にそう誓っていた。


「このあいだ、ちょうど開発した魔術があったでしょ?」


「隠密魔術ですか? 隠れて逃げるのに必要とかいって、ラオカさまに土下座までして手伝ってもらってましたよね?」


「さっそく役に立つときが来たのよ。さぁ、やつの様子を見に行くわよ!」


 鬼が出るか蛇が出るか……臆している場合ではなかった。


 この調査結果で、今後の私たちの進退が決まる!


 私とデイジーは魔術を使い、周囲にとけ込んだ。要するに光学迷彩だ。光属性の適性がなくても、透明になるくらいならできる。


 さらに風魔法を使い、音と匂いを消していた。むろん、これを実行し続けるには、おそろしいほどの集中力が必要になる。ゆえに歩みはゆっくりとしたものだ。この状態で走りまわることはできない。


 私たちは誰にも気取られることなく、屋敷を出た。


 王立学園は、王都の中央にある。王宮の間近に建設されているのだ。大通りに面した校門の前には、すでに何台も馬車が来ていた。生徒を下ろすと、蹄の音を響かせながら立ち去っていく。


 学園の生徒には貴族も多い。そういった者たちは、おしゃれに馬車で通学するのだ。


 門の両脇には、大きな桜の木が植えられている。品種改良を繰り返し、通常よりも巨樹にしたものだ。満開で、きれいな花を咲かせている。そんな校門の前で、ふたりの女が言い争っていた。


「お嬢さま、あれは……」


「しっ!」


 と私は大慌てで、デイジーのやわらかい唇に人差し指を当てた。ぷにぷにの感触が指先に伝わってくる。


「声でバレるかもしれない……黙って。静かに、近づくわよ」


 名残惜しかったが、私は気合で人差し指をデイジーの唇から離した。そろりそろりとふたりに、リリー・リリウムとシスル・ナスターシャムに近づいていく。


 音も匂いも姿も消していたが、それでも不安だった。ふたりとも達人だったからだ。


「――だから、入学式はやっぱり欠席しようぜ! あいつら、絶対にヤベぇよ!」


 口を開いたのはシスルだった。猫の耳としっぽが生えている。背が低く、たぶん一四〇センチくらいだろう。ゲームと同じだ。身軽な服装が好みなのか、へそ出しの半袖にショートパンツという出で立ちで、腰に剣を下げていた。


 美容魔法の効果だろう。特に太ももとお尻が大きくて素晴らしかった。肉づきのいい下半身のおかげで、引き締まったウエストがとてもくびれて見える。


「うーん……警戒しすぎじゃないかな。そこまでしなくても……」


 歯切れ悪く返答したのはリリーだ。写真どおりの凛々しい顔立ちだったが、今は妹のわがままに手を焼く姉のようだった。困り顔で頬をかいている。


 シスルとは対照的に、肌を出さない衣服に身を包んでいた。薄手の長袖に、足首まであるズボン、さらに帽子もかぶっていた。ゆったりとした服であるため、体のラインがいまいち把握しづらい。


 彼女も帯剣していたが、シスルが持っているものよりもずっと大きかった。たぶん全長はシスルの背丈くらいあるだろう。それを背中にしょっている。シスルの腰に吊るした剣は、その半分くらいの長さだ。


「甘すぎるぜ、リリー。何度も言ったろ? あたしの考えじゃ、まず間違いなくあいつらは前世の知識持ちだ! それもかなりヤベぇ部類! 接触すんのはまずいんだって! 入学式なんざすっぽかして、まずは様子を見ようぜ!」


「そこまで警戒するなら、やっぱり入学しなければよかったんじゃ――」


「それについては何度も言ったろ? ここはあたしの知ってる世界と微妙に違うんだ! つーか色々おかしい! 本筋もすでにズレまくってるとはいえ、あんま好き勝手してると妙な展開になっちまうかもしれ――」


 シスルが不意に言葉を止め、高速で抜剣した。刃が私に襲いかかる。


 気づかれた? と思いながらも、私は腰から剣を抜き放った。相手の刃を弾き返す。同時に集中が途切れ、隠密魔術が解除された。

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