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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第1章 聖なる乙女の学園
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第18話 破壊の爪痕と神竜の協力

 私たちは三人で、もともとリバ山があった場所までおもむいた。


 地面は溶岩が固まったように岩石だらけで、その中央に細長い岩が、花の茎のように伸びていた。ラオカの花園は、その上にある。


 ふもとの村は、家屋が全壊したという話だ。実際、真新しい家が建設途中だった。さいわい、溶岩は流入していないらしい。


 ただ、村からほんの二〇〇メートルばかり進むと、荒れ果てた大地があった。マグマですべてを溶かされたのだ。


 村のそばには幕舎がいくつもあって、そこに住民が避難している。私たちの姿を見ると、村人は皆さっと顔をそらして立ち去った。


「思った以上にやり過ぎた感があるわ……」


「別に気にする必要もないでしょう」


 私のぼやきに、デイジーが反応した。


「私たちは王宮の指令で戦ったことになっているのですし、堂々としていないと怪しまれるかもしれませんよ」


「あなたってそういうところはドライよね」


「お嫌いですか?」


 デイジーは上目遣いに愛らしく、私の顔を下からのぞき込んだ。


「そういう仕草は好きだけれど、もう少し自分たちが作り出した惨状について悩んでもいいと思うわ」


「反省点は次に活かせばいいでしょう? そもそも私たちは全力で戦ったことが今までなかったのですから、予期しろというほうが無茶です」


「それはまぁ、確かに」


 実のところ、全力を出すだけであんなことになるなど思いもしなかった。


「空想は空想、現実は現実ということですかね。超パワーを気兼ねなく振るうと、ヤバいことになる……というのが今回の件でよくわかりました。だから、周囲に被害が及ばないよう、うまく力を調節するのが今後の課題です。思い悩むより、同じ間違いを犯さないことに全力をそそぐべきです」


「まぁ、宰相がきれいにまとめてくれた以上、私が苦悩してても仕方ないか。同じことしなきゃいいのよね? 最小の力で極大の効果を得る、というか……」


「そうですね。周囲に被害が行かないよう、効果範囲をできるだけせばめて、あと外れた場合は消去するようにしておきましょう。大魔術や上級魔術はもちろん、私やお嬢さまの魔力だと中級魔術でもヤバそうですね」


「あと、ラオカさまみたいな結界って使えないかしら? 一定空間を隔離するというか……」


「戦闘する空間だけあらかじめ結界で覆って保護、ですか? まわりに被害が及ばないようにするなら、それも手ですね」


 私たちが話し合っていると、ラオカが愉快そうに口許を指先で隠して笑った。


「なにやら面白そうな話をしているな? お主ら、やはり訳ありか。それほどの力を持ちながら、魔王討伐を嫌がる辺り、なにかあるとは思っていたが」


「いえ、魔王討伐云々はお嬢さまの心根の問題ですよ」


「ちょっとデイジー! あなただってイヤでしょう!?」


「確かに、正直なところ面倒くさいですけど。でも私はお嬢さまほど忌避感はないですよ」


「私は絶対にイヤよ! そしてデイジーにも行かせないからね!」


「ふたりとも落ち着け」


 ラオカが苦笑いで割って入った。


「事情次第では協力してやれるかもしれぬが?」


「え! えーと――どうしよう、デイジー?」


「そこはお嬢さまが決めてくださいよ」


 デイジーは呆れ顔だ。私は迷ったが、意を決して話し出した。


 私に前世の知識があることと、この世界が『聖なる乙女の学園』という恋愛育成ゲームに酷似していることを。ラオカは興味深そうにうなずいていた。


「にわかには信じがたい話だな……」


 ラオカは腕組みをして首をかしげた。


「ひとまず保留という形にしたい。そのリリー・リリウムなる人物が本当にいるのかどうかもわからぬし」


「いた場合はどうするんですか?」


 デイジーの質問に、ラオカは迷う素振りを見せた。


「正直わからんな。プリムの話どおりなら、魔王が討伐されて終わるのだろう? まぁ別の結末もあるようだが」


「世界を征服したり……」


「大いに結構」


 私のつぶやきに、ラオカは満足そうな笑みを浮かべた。


「そのくらい《《はしゃいでくれたほうが》》、見ている側は面白い」


「見ているだけなんですか? 力になってくれるって言ったのに!」


 私が恨みがましく言うと、ラオカは苦笑いを浮かべた。


「お主が実際に魔王討伐に参加させられたら、陰ながら力を貸してやろう」


「そのまま魔王を撃滅する方向には――」


「いかんな。我はそもそも魔王だ世界征服だはどうでもよい。お主らのことが気に入ったから、なにかしら力になってやろうと思っただけだ。我自身とは無関係の事柄ゆえ、そこまではせん」


「わ、わかりました……」


 私が悔しげに言うと、ラオカは心底愉快そうに、口許を手で隠して笑いをこらえた。


「学園に入学するのであろう? これからもちょくちょく遊びに行くから、そのときにどんな塩梅だったか聞かせてもらおう」


 ラオカは楽しそうにそう言った。

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