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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第1章 聖なる乙女の学園
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第14話 事情聴取でメンタルを削られる(自業自得)

 結論から言うと、私もデイジーもやり過ぎたのだった。


 私たちとラオカが戦いを始める前のことだ。突如、あらゆる生き物が――動物や魔物、魔獣はもちろん、虫までもが――リバ山周辺から逃げ出した。


 騎士や衛兵、村人たちは慌てに慌てた。このままでは人里に被害が……と浮き足立った。数が多すぎたからだ。まるでリバ山周辺の生き物すべてが大移動を開始したかのようだった。


 ところが、動物や虫はもちろん、魔物も魔獣も、人に見向きもしない。必死に何かから逃げていた。怯えた形相で大地を駆け、空を飛べるものは流れ星のように去っていく。


 いったい何事か、と周囲はにわかに慌ただしくなった。


 その直後だ。山頂が突然えぐれた。轟音とともに。


 つづいて、リバ山から巨大な火柱が上がる。軽い揺れも起き、噴火が起きたのだと誰もが思った瞬間、リバ山に巨大な水が降りそそいで大地震が起きた。


 竜巻まで発生する。周辺の町や村全部に、大混乱が巻き起こった。この時点で、王宮にも状況が伝えられた。この世界には電話がない。遠方とのやり取りは、通信魔法による文書が主立った手段だ。


 報告を受けた王宮は、すぐさま対応を協議すべく動く。


 だが同じ頃、現場ではさらなる混乱が起きていた。突如、上空に巨大な炎の鳥が出現したのだ。大爆発とリバ山の消滅、炎の竜巻によって周辺の森や山が大火事になった。空が真っ赤に染まり、気温が急上昇する。


 もちろん大地震も発生し、周辺の村や町の家屋がすべて全壊した。


 現場から六〇〇キロ離れた王都ですら、被害を受けた。摂氏二十三度の過ごしやすい陽気が、四十度を超えるとんでもない猛暑に。


 さらに大きな地震で多くの家屋が倒壊、テーブルや棚がひっくり返った。幸いにも死者はいなかったが、怪我人が出て、この時点で王都も混乱状態に陥った。


 その後、デイジーの放った地の大魔術が西側の山脈に激突。大爆発で山脈の一部が消し飛び、すさまじい騒ぎになった。


 いくら秒速十キロを超えた巨大岩石とはいえ、大半はラオカに斬り裂かれ、しかも水の結界で威力が減退していたはずなのに、そんなとんでもない被害が出ているとは。


 この時点で、西のガンマ帝国からも何事かという緊急通信が来た。南の都市国家、交易都市ベータからも通信が来る。


 だが、アルファ王国も混乱していて事態を正確に把握できていなかった。状況が落ち着いたのは、私たちの戦いが終わってしばらく経ってからだ。


 リバ山の麓にある村の証言で、私たちが山に入ったことが判明した。


 さらに食堂の店員が、「二人は老竜と戦うつもりだ」と言ったことで、ようやく事件の全容が見えてきた……と、目の前の騎士は語った。


 連行された私たちは、王宮の一室に案内された。私が公爵家の令嬢であったためだろう、さすがに牢屋に入れられることはなかった。


 客室で、私たちは二人の騎士と引き合わされた。


 ひとりは年配の女で、もうひとりは若い娘だった。といっても、この世界には美容魔法がある。魔力の高さによっては、見た目と年齢が一致しなくなる。


 だが、目の前の二人は年齢相応の外見だろう、と私は見当をつけた。大きな魔力を使っていないからだ。


 女騎士は、私たち三人をソファに座らせた。若いほうがペンとノートを片手に記録をつけ、年配のほうが私たちに話を聞く。そういうスタイルだった。


「それで」


 と年配のほうが言った。


「なぜ天変地異を起こそうと思ったんです?」


「いえ、その、別に天変地異を起こしたかったわけでは……」


「アルファ王国、ひいてはこの世界に混乱をもたらす意思はありましたか?」


「ありません。すみません」


 向かい側に座った私は、縮こまりながら答えていた。隣に座るデイジーは、すべてをあきらめた顔で穏やかに目を閉じている。


 ラオカは愉快そうに、私と騎士のやり取りをながめていた。


「そもそも、なぜ守り神として信仰されていた竜に闘いを挑むことになったのですか?」


「あの……腕試しをしようと、思いまして」


「魔物や魔獣ではダメだったのですか? 討伐対象になっている竜もいたはずですが?」


「いえ、その、魔物や魔獣は弱すぎて……。それに、ドラゴンのほうも討伐対象になっているのは、若竜ばかりでしたから……。あの、老竜が、いなかったんです……」


「老竜と闘った結果、周りに被害が及ぶことについて、どう考えていましたか?」


「すみません……なにも、なにも考えてませんでした……」


「腕試し以外のことは考えなかった、ということですか?」


「はい、その……念願の老竜と戦えると思って、それだけでした……」


 年配の女は淡々と取り調べを進めていった。


「では、今回の被害について、どう思っていますか?」


 彼女がそう聞いたとき、ちょうど扉が開いて、見た目は中年の渋い男が入ってきた。宰相だ。


 騎士二人は慌てた様子で立ち上がったが、宰相は座るように手振りで示した。彼は、私やデイジーではなく、ラオカに対して一礼した。

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