表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第1章 聖なる乙女の学園
14/103

第12話 露天風呂(ただし景色は物騒)

 回復薬など使う暇がなかった。


 私の場合、荷物ごと破壊されて使用不能だった。自分よりも強い相手と戦うとき、回復薬を使う余裕はない……貴重な教訓を得たのだった。


 そして、私の懸念もまた、事実だと思い知らされた。武器も防具も、真の強者を相手にした場合はなんの役にも立たない。すぐに破壊されて終わる。


 ところが、少なくとも貴婦人は武器については否定した。


「もっと強力な武器がいるな。噂に聞く聖剣のような……」


 貴婦人は倒れた私たちを抱きかかえ、ぼやくように言った。それから彼女は、私たちを花園まで運んでくれた。


 屋敷の一階、玄関ホールに叮嚀に横たえられる。貴婦人は姿を消し、すぐに戻ってきて、息も絶え絶えの私たちに回復薬をかけた。


「一本で足りると思うが……どうだ?」


「素晴らしい効果ですわ、老竜さま。感謝いたします」


「ラオカだ」


 体を起こした私に、貴婦人は愉快そうにほほえんだ。


「我のことはそう呼べ。親しいものは皆そう呼ぶ。いつまでも『老竜』と種族で呼ぶのも変であろう?」


「お心遣いに感謝を、ラオカさま。そういえば、名乗っておりませんでした」


 私としたことが迂闊……そう恥じ入りながら立ち上がった。一礼して名乗り、隣にいたデイジーのこともきちんと紹介する。ラオカは鷹揚にうなずいた。


「気にするな。さて、風呂でも入るか。ちょうどよく、我がお主を裸にしてしまったことだしな」


「竜も入浴するのですか?」


 私は首をかしげた。ラオカは微笑した。


「竜は意外ときれい好きな種族だぞ?」


 彼女は私に背を向けると、


「こっちだ。案内しよう」


 と歩き出した。ついて行くと、屋敷の裏手に露天風呂があった。


 見晴らしがよく、辺りを一望することができた。もともとそうだったのか、先ほどの戦いで山を砕いてしまった影響なのかはわからなかった。


 あちこちで黒煙が立ち上っている。森や山や平原の一部が、黒焦げになっていた。お世辞にも、景色がいいとは言えない光景だった。


「本格的ですね」


 デイジーが浴場を見回しながら言った。ラオカは楽しげに笑う。


「我らにとっては娯楽でもあるからな。食事と一緒だ。竜にとっては、生きる上で絶対に必要というわけでもない。ただ、楽しみの一環として行なっている。むろん、汚れを落とすという意味もあるが」


 ラオカは服を脱ぎ、デイジーも裸になった。私は最初から全裸だったのでそのままだ。露天風呂は広く、数十人が一度に入ることができそうだった。シャワーもたくさんあって、多くの来客を想定した作りになっていた。


 が、疑問だった。ここをたずねてくる客人があるのだろうか?


「客は滅多にない。だが、まったく来ないというわけではない。なにより、わざわざここを訪ねるものがいた場合、風呂がなくては大変だからな。備えあれば憂いなし、だ」


「読心術もお使いに?」


「そんな真似はできん。だが、これを見てなにを思うかくらい、予想がつく」


 ラオカはそう言って口許を隠し、控えめに笑った。私たちは体を洗い、それから露天風呂に入った。ぬるめの温度だったが、長湯をするにはちょうどよさそうだった。


 私たちは並んで、いささか物騒な景色をながめた。


「しかし、生まれて十数年でよくぞここまで鍛え上げたものだ。もっと強力無比な武器を持っていれば、あるいは我を倒すこともできたかもしれんな」


「ご冗談を。私たちの実力では無理でしたでしょう」


「そうでもなかろう。現に聖剣は使い手の力を何倍にも高めると聞くぞ。そういった武器があれば、どうにかなったのではないか?」


「聖剣……ですか。ラオカさまは魔王のことは?」


「むろん知っている。一〇〇〇年ほど昔、我もやんちゃをしていた時期があってな。その頃は色々なやつに喧嘩を売っていたものだ」


 ラオカは私を見てほほえんだ。


「お主と同じよ。我も腕試しに魔王やら何やらと喧嘩していたのだ……もっとも、期待外れもいいところだったがな。ああ、もしかして魔王を倒すためにそれほどの力を得たのか。明らかに過剰だが」


「いえ、逃げるためです」


 私は素早く訂正した。ラオカは私を見た。


「来るべき魔王との決戦のために――」


「いえ、逃げるためです」


 ラオカは黙った。黙って、デイジーを見た。デイジーは無表情に力強くうなずいた。上体ごと動かした動作だったため、湯に浮いた大きな胸も揺れた。


 私はデイジーを引き寄せて膝の上に載せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ