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聖なる乙女の××  作者: 笠原久
第1章 聖なる乙女の学園
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第11話 圧倒的な敗北

 貴婦人も異常に気づいた様子で、急いで上を見た。


 その瞬間、彼女は巨大な、全長が数キロはある炎の鳥に飲まれた。火の大魔術だ。デイジーが放った。彼女はずっと、私たちのはるか上空に待機し、己の魔力を極限まで高めていた。


 普通に大魔術を放っても、水の大魔術で相殺されるか軽減される。だから、デイジーは徹底的に魔力を練り上げた。上げて、気取られぬように隠した。


 もちろん老竜ほどの使い手ならば、すぐさま違和感に気づいただろう。だからこそ、私がずっと相手をしていたのだ。感づかせないために。


 冷や汗が出るほどの大魔力で放たれた炎の鳥は、貴婦人を飲み込んだままリバ山の頂上に激突し、大爆炎を巻き起こした。


 山すべてを喰い破り、炎の竜巻が四方八方へ飛び出した。すさまじい熱波が辺り一面を覆い尽くし、気温が急上昇して、まるでサウナに入ったかのようだった。


 上空に向けて巨大な火柱が立ち上る。世界を分断する壁のようだった。


 空中を移動し、デイジーと合流したところで炎がやんだ。私たちは上空五〇〇〇メートルほどの位置から山――かつて山があった地点を見下ろした。


 貴婦人の姿はどこにもなく、かわりに山が溶けていた。


 老竜の住処である花園だけが、断崖絶壁のように残っている。まるで溶岩のなかに立つ塔のようだ。崖の真上に、不釣り合いな美しい花園がある。


 それ以外の場所は、大噴火でも起きたようにマグマに覆われていた。


 老竜の住処は、結界で守られているのだろう。山が溶解する以前となんら変わらず、満開の花々を咲かせている。そして、そこが無事であるということは、つまり老竜も死んでなどいないのだった。


 私たちが追撃の魔術を放とうとした途端、絶大な魔力を感じた。


 辺り一面、半径数十キロにわたって大瀑布が出現する。マグマは瞬時に熱を奪われ、黒々とした岩に変じた。


 現れた大質量の水は落ちるのではなく、空中を駆け上がった。檻のように、封じ込めるように、莫大な水によって私たちは包囲された。超巨大な水の結界だ。


 やられた! これで火の魔術は威力を著しく減じる……!


 そう思った途端、貴婦人は唐突に目の前、一〇〇メートルほど離れた位置に現れた。傷一つついていない。さすがにドレスがちょっと煤けているが、それだけだ。


 彼女は楽しそうにほほえんでいた。私たちに目を向けると、自身の体に水と雷をまとわせる。


 私は息をつくと、笑みを浮かべた。


 デイジーはうんざりした様子で、まだやるんですか、しかも特殊属性……とぼやいた。


 向こうはやる気よ、と私は答え、同時に闇の大魔術を放った。


 火が使えないなら、ほかの属性で攻めるのみ。


 闇の魔力が、一〇〇〇メートルを超える黒龍となって貴婦人に迫る。貴婦人は口を開けた。ブレスだ。強烈な水のブレスが放たれ、黒龍とぶつかり合う。


 私は魔力をさらにそそぎ込む。だが、貴婦人のブレスは易々と私の魔力を貫いた。


 反射的に、私は風の上級魔術を使った。竜巻と何度も当たり、ブレスは弱まっていく。だが、それでも相殺することはできなかった。


 ほとんど閃光のようにすら見える水のブレスは、青白く光り、私を飲み込もうとする。瞬間、目の前に巨大な岩壁ができあがった。デイジーの地魔術だ。


 だが、ブレスはその岩壁すらぶち抜いて私に直撃した。私はかろうじて、剣を振り下ろしてブレスを――強烈な、魔力を帯びた水流を叩き斬ろうとした。


 しかし、それはかなわず、私はふっ飛ばされた。すぐさまデイジーの回復魔術が飛ぶ。ブレスは前腕甲を砕き、両腕を引き裂いた。


 骨が見えている。が、デイジーのおかげで見る間に再生し、復元する。


 取り落としそうになった剣をしっかりと握りしめ、私は加速した。貴婦人に突進する。デイジーはすでに次の攻撃に移っていた。


 直径何十メートルにもなる岩石を、マシンガンのように連射している。地属性の大魔術だ。


 デイジーの力なら、秒速十キロを超えているはずだ。しかし当たらない。貴婦人は回避しながら、円回転する水の刃をいくつも放った。


 直径数十メートルの水の円盤は、帯電していた。


 デイジーに向かいながら、岩石を真っ二つに斬り裂き、雷撃がほとばしる。途中で、水の円盤は壁にぶち当たったかのように動きが停まった。


 風の大魔術だ。水の円盤を噛み砕くべく、暴風が吹き荒れている。


 貴婦人の魔力は圧倒的だった。だが、デイジーは風魔術を発動させながら、無理やり自身の魔力を引き上げていた。普段のかわいらしい声の面影すらない、すさまじい咆哮がデイジーの口から飛び出し、水の円盤は破砕された。


 衝撃で霧が舞い上がり、封じられていた雷が四方八方へ飛んで、辺りが瞬刻のあいだ、閃光に包まれた。


 私は霧を突き破って、貴婦人に刃を突き立てようとした。貴婦人は私を待ち構えていた。先程までのような、手のひらを鉤爪に見立てた構えではない。


 拳を握りしめ、私の刃に向けて渾身の一撃を放った。


 剣が粉々に砕けた。雷と強烈な水圧を受け、私の全身から血が噴き出る。


 私は即、地魔術で槍を作り出し、斬りつけた。だが、槍は一撃で破壊され、私は次々に新しい武器を作り出す羽目になった。


 あの水の結界は、貴婦人を強化する効果があるようだ。


 パワーとスピードが圧倒的に跳ね上がっていた。私は胸当てを蹴りで壊され、背当てをしっぽで壊され、肩当てを手刀で壊され、脛当てを拳で壊され、丸裸にされた。


 服も雷撃で焼け焦げ、ぼろぼろだ。


 私は全裸で戦っていた。水の結界が発動してからは、終始遊ばれていた。私は地魔術で武器を作り、斬り、突き、薙ぐが、面白いように破壊されて終わる。


 反撃で腕が千切れ、足が吹っ飛び、お腹に大きな風穴が空いた。頭が消し飛んだり、胴体を真っ二つにされたり、右半身が吹き飛んだりした。


 話にならないほどの実力差だ。


 デイジーは私の補助と回復に集中し、さらに強化の度合いを跳ね上げた。だが、それでも老竜にはまったく届かず、私たちは一時間ほどで力尽きてしまった。

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