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タルノス沖海戦 Ⅴ

 タルノス沖海戦。


 のちに、「第一次タルノス沖海戦」と改名されるこの海戦に参加したフランベーニュ海軍の軍船は百五十七隻。

 当初の非公式な訓練から公式な海賊討伐作戦に格上げされたそれに動員された兵員数は三万六千四百十七人。

 一方のモロザリーアが率いた公的報告書での表現を使えば海賊軍は軍船六百二十四隻。

 そこに乗船していたのは四万九十三人とされる。

 モロザリーア側の参加人員が「される」というのは、海軍と違い公的な資料が残っておらず、伝聞や様々な資料からのちに導きだしたもので、端数まで正確かどうかはおおいに疑問があるといわざるを得ないからである。

だが、約四万人という概数は正しいであろうその数字からわかるとおり、海軍は一隻あたりの乗員が二百人を超えるのに対し、海賊軍は百人にも満たない。

 これは船の数ほど戦力の差はなかったことを意味し、兵の質を考えれば海軍が圧勝したことは当然の帰結といえるだろう。

 ちなみに、海軍はカミール王子がかき集めた傭兵を相手にした場合、軍船の数で劣ることは想定済みであり、海上での戦いの主が白兵戦であることから定員より相当多い兵を各船に乗せ、戦いに挑んでいた。


 一方のモロザリーア側。

 もちろんそれなりの装備と兵を揃えた集団であれば海軍相手であっても互角以上に戦えたことはモロザリーアが自ら率いた十二隻には沈没船はなく、負傷者は多数出たものの、死者はないという圧倒的な生還率からもわかる。

 だが、自称海賊たちのすべてがそのレベルだったかといえば違う。

 それどころか、数合わせか、報酬に吸い寄せられたような輩も多くおり、彼らが乗る船も戦いに耐えられるどころか洋上航海ができるのかと疑われるレベルのものまであった。

 しかも、指揮官に任じられたものの、モロザリーアの言葉ですべてが動かないことも判明する。


 少数の例外を除けば個々の戦闘力が海軍のそれよりも劣るうえ、数の差を活かす集団戦も望めない。

 開戦早々、モロザリーアが勝ちを諦めたのは当然のことと言える。


 そして、肝心の戦いの結果であるが……。

 フランベーニュ海軍は参加した百五十七隻のうち十一隻が沈没、三十八隻が大破、残りもすべて損傷。

 人員に関しては八百六十七人が戦死、一万八千四百四十九人が負傷。

 一度の海戦では十分に大損害と言えるものだった。


 だが、モロザリーア率いる海賊軍の被害はそれをはるかに上回る。

 沈没または沈没処分を受け最終的に海に没したのは参加した船の九割を超える五百六十八隻。

 もちろんこれだけの船を失っているのだ。

 人的被害も当然それに比例する。

 戦闘中に切り殺された者だけでも九千五百十一人。

 負傷し動けなくなった者や帰るべき船を失ってやむなく降伏した者は二万八千四十五人。

 当然彼らもすぐに仲間のもとに旅立つ。

 つまり、海戦に参加したモロザリーア軍約四万人のうち戦場を生きて離れられたのはわずか数千人だけだった。


 フランベーニュ海軍の圧勝。


 海賊軍の撤退と圧倒的な戦果。

 その事実だけをみれば当然そういうことになるわけで、多くの船では戦勝祝いがおこなわれていたのだが、もちろん生存していながらそれを祝えぬ者もいる。


 その祝えぬ者の側の代表となったのは、ロシュフォールだった。

 どうにか沈没は免れたものの乗船していた船は戦闘不能。

 それに加えて実戦部隊の指揮官級七人と帯同させていた魔術師三人を含む多くの戦死者を出していた。

 さらに沈没船のすべてと、大破した船の大部分は彼が指揮した前衛部隊所属なのだから、彼が浮かれる気持ちになれないのは当然である。

 そして、その事実は傷心の彼に追い打ちかける。


「大破した船を率いて先に帰港せよ」


 総司令官オディエルヌのその言葉にもロシュフォールは黙って従うしかなかった。

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