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アグリニオン戦記 外伝 第三極  作者: 田丸 彬禰


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陰謀の対価

 時間を現在へ戻そう。


「……バレデラス様にお伺いします」


 酒宴が進んだところで、この世界では高級の部類に入るのだが、それでも完全な透明とは言い難いグラスを置いたマントゥーアは抱いていた疑問を尋ねる。


「王太子の指示を受けたフランベーニュ海軍と、弟王子が用意した木っ端海賊どもとの戦い。圧倒的に数が少ないフランベーニュ海軍がなぜ勝つと思われたのですか?」


 ……たしかに。


 その場にいた者たちは心の中でその言葉を呟くのは当然といえば、当然だ。

 なにしろ今回ワイバーンは他の大海賊まで呼び寄せ待ち伏せしていた。

 もし、これで戦場に格下の同業者が現われでもしたら、大恥を掻くところだったのだから。


「……それは……」


 バレデラスはグラス越しに向こうの景色を眺める。 


「たしかに我々海賊とポンコツ海軍。その実力はどちらが上かは我々自身が示したわけだが、それはあくまでそれなりの力を持つ者。言ってしまえば、アッサルグーベに入港できる程度の者が揃った場合の話だ。だが、実際は弟王子が仕事を依頼したのはアグリニオンの斡旋業者。運よくそれなりの力を持つ者を見つけ、旗頭に据えられたようだが、残りは陸が見えるあたりで漁師を脅して獲物を巻き上げる程度の仕事しかしていない輩が大部分であろう。さすがにそれでは相手がフランベーニュ海軍でも勝てるわけがあるまい」


「さらに、数を集めるために盛大に金を使ったようだが、そのため噂が広がり、どのような者がどれだけ集まっているのかという情報が流れた。当然我々の耳にも入る」


「なるほど。ですが、それがわかっていながら四隻で出かけるというのはさすがに……」


 マントゥーアの懸念。

 それに答えたのは再びバレデラス本人だった。


「先ほども言ったが、我々のもとにやってくるのは間違いなく海軍。だが、彼らは我々を人目のつくところでは襲撃できないという縛りがあった。それが何かわかるか?マントゥーア」

「我々に手を出したことがあきらかとなり今後の金銀貿易に差し支える」

「そのとおり。だから、陸上に近い航路を使えば安全かつ正確に奴らをおびき出させる。それが四隻でも問題ないと判断した根拠だ」


「それよりも……」


「今回の件について何か引っかかるものはないか?」


 引っ掛かるもの。


 もちろんこう言われて思い浮かぶものといえば、罠ということになる。


 ……だが、いったいどこに罠があるのだ?


 まったく思い浮かぶものはなく渋い表情となる全員の顔をうれしそうに眺めてからバレデラスがニヤリと笑う。


「ちなみに、嵌められたのは俺たちではない。さらに言えば、それは罠と呼べるものでもない」


 そう言われてさらに深みを増した苦悶の表情を浮かべる一同。


「では、もう少し話そう。今回の件の首謀者はフランベーニュの王子ふたりだ。だが、こいつらがそれをやる理由とはなんだ?」


 バレデラスの問いにマントゥーアが答える。


「それは帰りの積み荷の奪還です」

「そうだな。一応建前的にはそういうことになっているが、国家の私物化している王族があの程度の宝石を奪ってなんとする。しかも、弟に至ってはそのために私財を相当持ちだしているだろう。積み荷はそこまで拘るものではない」


「では、本当の狙いはバレデラス様の命?」


 ペルディエンスの言葉にバレデラスが頷く。


「そちらの方が理由として正当性がありそうに思える。だが、そうなると、なぜ兄弟で争う?」

「……ふたりは功を競っていたということですか」

「となると、王命か?」

「それなら王子などを通さずに王から直々に海軍に命が届くだろう。それに功を争うならその成功報酬はなんだ?」

「王位でしょうか」

「まあ、王子が大金を使ってでも手に入れたいと考えるのであればそれしか考えられないが、一方はすでに王位を約束された王太子。それはありえない。それに、その功によって王位が手に入るのなら三人目が悠長に構えているのはおかしいだろう。この話が出たときに、俺はどちらかの動きにもう一方が過剰に反応した、または相手に対しての嫌がらせで参戦したと思っていたのだが、それでも納得いく説明にはならない。なぜなら、そうであれば三番目の王子と同じようにこちらに情報を流すだけでことは済む。つまり、あのふたりは自らが動かなければいけない事情があったということだ」

「……たしかに」


「そして、そう考えたときにひとつだけ辻褄の合う答えが見つかった」

「お伺いします」


「奴らは唆された」


「もう少し言えば、王子の地位にある者が自分の金を使ってでも動きたくなるくらいの大金。または動かなければならないくらいの弱み。またはその両方。それが報酬」


「なるほど。そういうことなら、まずはその王子を叩く。もちろん王子の後ろでこそこそと蠢くそのふざけた輩も叩く」

「まったくだ」


 それまで出番がなかった武闘派の二大巨頭がそういきり立つ。


「それで、そいつは誰だ。いや。誰でもいい。とにかくまずは王子ふたりを捕らえに出発しょうではないか」

「そのとおり。それに捕らえた王子を痛めつければすぐに雇い主もわかる」


「いやいや。彼らは王宮に引きこもっているのですよ。準備も策もなく向かってもいいことはありません。それに状況を考えれば、王子を操っていた者もある程度まで絞れます」


 喚き散らしながら立ち上がり、いますぐにでも出撃しかねないふたりに対してその言葉を口にしたコンセブシオンを巨頭のひとりであるアビスベロが睨みつける。


「ほう。では、聞こう。それは誰だ?」

「まず王子が唆される金が用意できる者などそうはいないでしょう。もちろん大海賊の誰かという可能性もあります。ですが、さすがにそれは状況から考えにくい。そうなれば、残りは例の守銭奴たちしかいないでしょう。どうですか?バレデラス様」


 コンセブシオンの言葉にワイバーンは大きく頷く。


「俺もそう思う。ただし、それが商人ども全体なのか単独なのかはわからない。その状況ではさすがに動きようがないな」

「では、アグリニオンを丸ごと焼けばいいでしょう。それですべて解決する」

「さすがにそれをやったら、他の大海賊の不興を買い、ここに来れなくなる。却下だな」


「……ちなみに奴らがバレデラス様を排除しようとした理由はなんでしょうか?」


 いかにもアビスベロらしい過激な提案にバレデラスは苦笑いし、続いて、とりあえずそれを聞かなかったことにしたマントゥーアからやってきた問いに、あらたな一杯として注文したアリターナ産の酒が注がれた半透明のグラス越しに全員の顔を眺める。


「それはもちろん奴らからやってきた提案。あれが本命なのだろうな」


「提案?」

「ここに入港直後、アグリニオンからやってきたという木っ端海賊が書簡を置いていった。そして、その内容は金銀貿易をアグリニオンに一元化しろというものだった」

「そういうことなら、最初からそのように交渉すればいいでしょうに」

「だが、俺はそれを拒否する、またはとんでもない条件を突きつけられると読み、まずはより御しやすい者に代替わりさせようと思ったのだろう。本来なら暗殺者を送り込みたいところだが、俺たちは交易のために停泊中でも陸上に上がらない。というか、そもそも俺の顔も知らない。そうなれば当然失敗する可能性が高い。そういうことであれば、船ごと沈めてしまうのが一番。だが、自分たちにはそれだけの武力がない。と言って大海賊に頼むわけにはいかない。幸いにもフランベーニュの王子ふたりは自分たちの影響下にある。これを使おうと考えたのではないか」


「……それで、どうしますか?」

「先ほど言ったように直接手を出すと色々と面倒になる。ここは、こちらが気づいていることを間接的に伝え、焦った奴らが自滅してくれるのが望ましい形だろうな。ということで、ナランヒートス。この件はおまえに任せる。今言ったことを踏まえてことを進めてくれ」


 ……まあ、小物が考えるこの手の話は最上位に位置する者は意外に気づきにくい。

 ……おそらく俺もただの大海賊であればわからなかっただろう。

 ……つまり、向こうの世界で海千山千の輩を相手に痛い思いをしながら得た経験が役に立ったといえるだろう。


「言い忘れたが、先ほどの会議でこの件は他の大海賊にも説明した。報酬応相談で協力するそうだ」

「そういうことなら……」


 そして……。


 バレデラス・ワイバーンが指示し、ワイバーンの配下で一番の策略家とされるナランヒートスが準備万端で繰り出した一手。

 その全容が明らかになったのは「タルノスの惨劇」、または「大海賊の宴」と呼ばれるあの出来事が起こってから五十日後のことだった。

 この世界で唯一王制を敷いていない国であり、そのためプラスマイナス両面の意味を込めて商人国家とも呼ばれるアグリニオン国の国政を担う評議員という肩書を持つ三十六人の大商人たちは海のかなたからやってきたある難題で頭を悩ませていた。


 アグリニオンがフランベーニュ王国の王子ふたりを動かし大海賊のひとりを害するように唆していたことが判明した。

 この件についてアグリニオンが大海賊に対して然るべき説明と、その行為を帳消しするに相応しいものを差し出さなければ、これまでの関係を断つだけではなく、苛烈な報復をおこなう。


 それが大海賊のひとりである「暴虐の大海賊」ウシュマルと「麗しき大海賊」ユラの連名でやってきた書簡の内容であった。


「問題は……」


 議長役のビスコスが呻くように言葉を紡ぐ。


「この書簡がワイバーン本人ではなく、ウシュマルとユラからやってきたということだ」


「つまり、例の問題の黒幕が我々であることをワイバーンに見抜かれただけではなく、それが八大海賊に共有されている」


「だが、奴らだって我々から小麦や鉄を買い入れているだろう。簡単には……」

「残念だが、そうとはいえないのだ。イノフィタ」


 鉄や、この世界の石炭である「燃える石」を扱い、利益だけなら圧倒的一位と噂される商人でアイアーズ・イノフィタの言葉を遮ったビスコスに続いたのは、この国第二の商人で情報通でもあるバシレイオス・ケファロニアだった。


「八大海賊がアグリニオンと交易を打ち切るという情報がアリターナで流れ、それを聞いた商人どもがこれ幸いとばかりに数々の特典を用意して海賊どもと小麦の取引をしようと動いている。しかも、これにアリターナ王が乗ったらしい。情報によれば王は我々の代わりに交易の特権が手に入れられるのならヴァルペリオを海賊専用の港としても提供してもよいと海賊たちに伝えているという」

「ヴァルペリオ?ヴァルペリオとはアリターナの主要港のひとつではないか」


 絞り出すようなイノフィタの言葉にケファロニアが頷く。


「つまり、それだけ本気ということなのだろう。そして、そこにフランベーニュの商人どもも加わる。アリターナには負けられないとばかりに奴らは自国の小麦を直接海賊に売れないかと模索し始め……」

「ちょっと待て。フランベーニュは今回の一件の当事者だろう」

「だが、商人たちには関係ない。どこの国の商人も今まで我々がほぼ独占していた八大海賊との交易機会を手に入れる好機とみているのだろうな」


「……鉄は……」

「当然そうなればどこかの商人も動くだろうな」

「……このままでは我々はただじり貧になるだけではないか……くそっ」

「そうならないために……」


「我々は何をすべきなのか?」


 ……今さら手遅れだ。


 右往左往する年長者を冷ややかに眺めながら少女は心の中で呟く。


 ……だからあのとき言ったではないか。

 ……目の前の利益に囚われてつまらない小細工などすべきではないと。

 ……やはり、商人は最低限のモラルと法律は遵守すべきなのだ。

 ……そして、こうなるとコンプライアンスとはどの時代、どの世界にも当てはまるようだな。

 ……もちろん我々が相手にしているのは海賊。

 ……元の世界のルールをそのまま持ち込むことはできないが、それでも基本は同じ。

 ……それを守れぬ者は滅びるのみ。


 ……だが、その滅びる者のなかに自らも含まれるとなれば話は別だ。

 ……なんとしても、生き延びねばならない。

 ……もちろん策はある。


 ……だが、それを披露するのは最後だ。


 ……まずは老人たちのお手並み拝見だ。


 一方。


 ……いつもなら声高に生意気なことをほざくくせに、肝心のときはダンマリか。


 表情もなく無言を貫く少女を不機嫌そうに眺めながら、こっそりと、そして盛大に嫌味を口にしたビスコスが口を開く。


「こうなっては知らないとは言えないわけなのだが……」


「ちなみに奴らが納得するものとはなんだ?」


「金貨か?」

「それとも鉄か食料?」

「それらをまとめて十年間無料というのはどうだ?」


「まあ、それは付け足し。おまけのようなものでしょう」


 ここでようやく口を開き、なんとか金で解決しようとする年長者の言葉を否定した少女の言葉。

 それはさらに続く。


「まずは、こちらから今回の不祥事の概要を説明する必要があります。それから、責任の所在をあきらかにしなければならないわけですが……」


「そこで述べられるその責任の所在によっては、この国の商人自体が今後商売やっていけなくなります。ですから、自らの責任を薄めるためにこの国全体の責任などとは間違っても口にしてはいけません。まあ、その責任を取る者は商人としてはもちろん人間としてもこの世に存在していられなくなるわけですが、やったことを考えれば仕方がないでしょうね」


「つまり、その者の廃業だけでは済まないと?」


 ビスコスのその問いに少女は頷く。


「当然ですね。相手の首を狙ったわけですから、こちらも首を差し出す必要はあるでしょう。特に今回の相手は海賊。最終的にはそれを要求してくるでしょうね」


 実をいえば、少女の言葉を待つまでもなくその場にいる者は皆それを感じていた。

 ただ、口にしなかった。

 いや。

 口にしたくなかっただけだ。

 もちろんその理由は範囲だった。

 普通に考えればここにいる三十六人がその対象者。

 だが、あの日の一件がある。

 当然少女はそこから外れる。

 となれば、残りは三十五人。

 もちろん誰も責任を取り国のために死にたいなどと思っていない。


 そこからは、なるべく首を差し出す範囲を狭めようとする暗闘が始まる。

 なんとか取らねばならない責任を自分以外に向けようとする。


「やはり、組織の長は免れまい。というか、こういう時に責任を取るための長だろう」

「冗談ではない。それに、そういうことなら、副委員長であるケファロニアだって同罪だ」

「なぜ私が含まれる?そういうことなら、この無謀な計画をこの場に持ち込んだコニツァこそひとりで責任を取るべきだろう」

「たしかにコニツァが持ち込みさえしなければ……」

「何をいう。私は提案をしただけだ。それほど問題があったのならカラブリタのように反対すればよかっただろう。もし、私の首が飛ぶのならカラブリタ以外の全員が同罪だ」

「そうはいかない」

「そのとおり。そもそも私はコニツァに騙されただけだ。そして、この組織の長であるビスコスとともにコニツァを……」


 もちろんその後は収拾がつかなくなり、会は次回開催日時を三日後と決めただけでお開きとなったわけなのだが、時間を使えば使うほど自分たちの権利が他国に流れていくうえに、海賊たちがいつまでも待つとは思えぬ。

 特に書簡にはウシュマルとともに八大海賊のなかでもっとも残虐とされるジェセリア・ユラが名を連ねている。

 彼女なら明日突然やってきて港と町を破壊し尽くすということは十分に考えられる。

 そうなることを避けるために何をすべきか。

 もちろん全員がそれを知っている。

 問題はその人選だ。


 ……上辺では運命共同体を装っているが、実際はその対極。

 ……まもなく内部崩壊が起こる。

 ……というよりは、共食い。


 ……そのようなものに関わってはこちらにも死臭が移る。

 ……静観すべきだな。

 ……火の粉を被らぬよう完璧な防御を固めて。


 ……もちろんその準備はできている。

 ……あとは愚か者たちの踊り狂うさまをじっくり楽しむだけだ。


 ……そういえば、以前これと同じ光景を見たな……。


 ……吸収される会社の幹部ども。彼らが生き残るために繰り広げた醜態劇。

 ……その完全版がこれから披露されるわけだ。

 ……そして、あれを体験したことがない彼らは知らないだろうが……。

 ……自らが新会社で採用されるために仲間を罠に嵌めてやめさせた者には、それを口実に始末されるという素晴らしいオチが待っている。


 ……まあ、あのとき最終的に裏切り者の首を切ったのは私だったのだが。


 彼女の不気味な呟き。

 それは現実のものとなる。


 お互いに疑心暗鬼となった商人たちはその日のうちに私兵を増員して自宅を取り囲み、続いて、さらに増員した兵を別の場所へ向かわせる。


 先手必勝、殺される前に殺すために。

 または、自らが生き残るための大事な生贄に逃げられるうちに。


 わずか一晩で八人の商人とその一族がこの世から消え、さらに翌日には五人の評議員とその家族が炎上する館と運命をともにする。

 当然そこは略奪の対象となり、どさくさに紛れて他の大商人の館を襲撃しようとする輩も現れる。

 結局評議員を務める大商人の屋敷はすべて焼け落ちる。


 いや。

 一か所だけは襲撃も略奪も受けず平和そのものだった。

 そして、その理由は、その屋敷の門に掲げられたその町に住む者なら誰もが知る「槍に下げられた錨」、「十三本の剣が描かれた黒旗」が描かれた二種類の黒旗にあったのはいうまでもないことである。


 暗闘が始まって三回目の夜が明けたその日。

 騒動はどうにか収束し、予定通り開かれた次の評議委員会にやってきたのは半分をようやく超える二十人。

 つまり、十六人の有力商人がわずかの間に命を落としたのだ。

 そして、開かれた会議の冒頭、自らの上位者三人だけではなく背を追っていた者四人も消えた少女は必然的に評議委員会の代表に選ばれたわけなのだが、その少女アドニア・カラブリタが代表としておこなった最初の仕事。

 それは八大海賊の代理人としてやってきた男との面会。


 そこで彼女が男に差し出したもの。


 まず、もっとも多くの傭兵を抱えていたひとりの商人が誇らしげに届けてきた今回の不祥事の首謀者とされた三人の首の蜜蝋漬け。

 ちなみに、その三人とは、アナクレトス・ビスコス、バシレイオス・ケファロニアという評議会議長と副議長、それにワイバーン襲撃を提案し、それに成功すれば最大の利を得るはずだったアキレアス・コニツァである。


 さらに、ワイバーンに対する謝罪料としてのブリターニャ金貨二十万枚。

 これは生き残った二十人がそれぞれ一万枚を供出したものであり、自らの首代の意味も持つ。


 最後に首謀者三人の一族の廃業と、死亡した者を含めたそれ以外の三十三人の評議会委員の辞任と廃業の約束。


 ただし、最後のものについては、相手はその後半部分の受け取りを拒否する。

 セリノ・ピエドラと名乗ったその男は苦笑いしながらこう言ったのだ。


「そうなると、これまで通りとはいかなくても、これからもアグリニオンと交易をおこなうつもりであるこちらも困る。それはやめていただきましょう。ただし、その代わりとして……」


「あなたの言葉にあったこの三人を含む多くの仲間を斬った者。その者の首をいただきたい」


 その言葉によって評議委員会の末席ながら国政に携わっていた一方で、裏では傭兵や海賊の斡旋をおこなって暴利を貪っていたアスピオ・レシムノンが最後のひとりとして死者の列に加わることになる。

 そう。

 それは、まさにあのときの少女の言葉どおり。


 そして、これが最後の鐘となり、これによって一連の騒動は一応の収束をみることになった。


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