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アグリニオン戦記 外伝 第三極  作者: 田丸 彬禰


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闇に蠢く者たち

 ある特別な事情により港の大きさに相応しくない尋常ならざる船の往来があり、この世界で最も活気ある港と評されるセリフォスカストリツァを中心とした小国家アグリニオン。

 アリターナ王国の東に位置するこの国に住む者たちの自慢でもある、その港も眺めることができる高台に建てられた、運搬が難しく、そもそも製法自体が一般化されていないため、この世界においては大変貴重で王宮や権力者の屋敷でもほとんど使用されない大きな板ガラスがはめ込まれた窓が並ぶ豪華な建物。

 その場所が由来であるウーラノスという通称で呼ばれてことも多いその建物の一室に現在三十六人が集まり、ある議題について話し合いがおこなっていた。

 もちろんその議題とは先日のフランベーニュ海軍と八大海賊の戦いについて。


 ちなみに、この三十六人はこの国を代表する大商人の家長、またはその代理を務める者たちで評議員と呼ばれている。

 そして、その中には七人の女性が含まれていたのだが、これは男尊女卑の思想が根付いているこの世界では珍しいことである。

 ただし、この国においてそれはきわめて自然なことであった。


 無能な男より有能な女。

 役に立たぬ年寄りの経験より、商機を見つける若き才。


 その格言どおり、商売が上手であり家を繁栄させられる能力こそ重要なのだというのが商人国家らしいこの国の伝統なのである。


「どうやらあなたの言葉どおり我々の計画は失敗したようだ。カラブリタ嬢」

「嬢は不要です。ビルゴス」

「……では、言い直そう。おまえの言葉どおり計画は失敗した。カラブリタ」


 本題に入って早々、自らの言葉をあっさりと否定された三十六人のまとめ役を務めるビスコスと呼ばれた男アナクレトス・ビスコスは鼻白む。

 そうして、彼が一瞬の間ののち、言葉を返した相手は僅か十七歳の少女だった。

 すべてが年長者であるその場にいる者を眺め直した、飾り気のない服とそれにふさわしい短い金髪というこの世界の理想の女性像とは程遠い外見をしたアドニア・カラブリタという名の少女は小さなため息をつく。


「まあ、今更ではありますが、起こる予定のことが予定通り起こったということ。失敗したからと言って大騒ぎすることはないでしょう」

「勝った気になるな」

「まったくだ」


 あのときその計画の唯一の反対者だった少女は一斉にやってきた怒号を視線だけで払いのけると、言葉を続ける。


「私の言葉をどう受け取るかについてはそれぞれに判断にお任せしますが、これはそれほど驚くような結果ではなかった。というのは私の偽らざる気持ちです。そして……」


「あのときも言いましたが、成功の可否はともかくそれが露見したときには私たちはワイバーンだけではなく八大海賊すべてを敵に回し、結果としてすべてを失うことになります。ですから、今は終わってしまったことを語りあうよりも、先に話し合わなければならないことがあります」


「聞こう」

「それはもちろん今後の対策と、私たちが彼らを唆したという証拠の隠滅です」

「それについては心配ない」


 少女が口にした疑念を即座に否定したのはその案を用意したこの国三番目の売り上げを誇る商人で貴石を取り扱うアキレアス・コニツァだった。


「彼らは役者としては三流だったが、それでも次期フランベーニュ国王とその弟。彼らのプライドを考えれば口が裂けても自分が他国の者の口車に乗ったなどとは言えない。そうなればその先には辿ることはできず。万が一にも私たちにまでは疑惑の目を向けられることはない。まあ、関係について疑いを持つ者はいるかもしれないが、さすがに我々が主犯とは思うまい。それに、三流役者に対して使った経費の元を取る意味も含めてすでにもうひとつ手を打ってある」

「もうひとつ?それは?」

「フランベーニュに対する報復を兼ねて金銀取引を停止し、これを機会に金銀を我々に一括して流すようにという提案。そろそろワイバーンのもとに届くはずだ。これが成功すれば我々の目的は達成されるわけで、歩く道は本来のものとは違ったがとりあえず成功といえるだろう」

「なるほど」


 少女はあきらかな儀礼上でしかない相槌を打ち、それから本音ともいえる言葉を口にする。


「手際がよいことで。ですが、おそらくそれもうまくいかないでしょう」


 冷静かつ非常な少女の言葉。

 当然それとは対照的に冷静さの欠片もない言葉がすぐに返ってくる。


「どういうことだ?これまでの倍の買い取り価格を提示したのだぞ」


 その言葉を吐き出した男を冷たい眼差しで見つめた少女が口を開く。


「私もこの国の商人の一族。自身の利益のためにもワイバーンがその提案に乗ってくれることを望んでいます。ですが……」


「バレデラス・ワイバーンとその一党はそれ程度のエサに食いつくほど軽い相手には思えません」


「それに、その提案によってあなたの言う三流役者の背後に私たちがいることを相手に知らせてしまった可能性もあります。そうなった場合、私たちは相応の覚悟をしなければなりませんが、評議会にかけずに単独でそれをおこなったあなたにはその責任を取ってもらう必要があります」

「なるほど」


「だが、今の言葉には間違いがあるので訂正しておけば、これは私が独断でおこなったことではない」

「……えっ?」


 予想外といえるコニツァの言葉に少しだけ顔をしかめた少女は言葉がやってきた先に視線を送る。


「それは驚き。毎回評議会に出席していますが、寡聞にして私はその話を始めて聞きましたが?」

「そうだろうな」


「議長のビスコスを始めとして大部分の者には話を通し了解を得ている。だが、評議員といってもおまえは代理人。話をする必要はないだろうと思い、言っていなかった」


 ……つまり、私のいない場所で話をしたということですか。


「……なるほど」


「私が当主の代理人というのはそのとおりですね。それについては承知しました。ですが……」


「何かあったときに、私があなた、というか、あなたがたと同類にされぬよう、今の言葉はしっかりと記憶に留めておいてください。これはもちろんコニツァだけではなく、彼からその話を聞いていた全員の記憶にということです。まあ、念のためではありますが」

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