残酷な結末 Ⅳ
一方的な戦い。
それは前を進んでいた三隊だけの話ではなかった。
「ソヴァール様。レベナック隊、オリンクル隊はすでに半壊状態です。あの様子ではそう長くは持ちますまい」
「さすが、強欲の大海賊トゥルムと慈悲なき大海賊コパンといったところか。レベナックとオリンクルのふたりは今頃俺のことを恨んでいるだろうな。自分たちを盾代わりにしたと」
「ですが、三人で一致して麗しき大海賊にあたろうと持ち掛けたのはレベナック様ですし、本来であればまず我々が敵にぶつかり消えていたのです。さらに言えば、我々だってすでに相当削られていますのでそれは言いがかりというものです」
「そうだな」
ワイバーンの反転攻勢に続いてオディエルヌより届いた「各隊自力で戦線を突破し、この場を脱出せよ」という命令。
ワイバーンを討つことが無理となり、それどころか伸びきった隊列のため自らの命令が届かないという状況のためやむを得ないものと言えなくもないが、統一した行動を放棄したその命令は崩壊の最後のピースとなる。
当然その後に起こったものはその命令にふさわしいもの。
各個撃破の見本。
そう言っても差し支えないくらいの多数の者による袋叩きともいえる結果だった。
その中で、ルゴンの後方で待機していた三つの隊。
その三つ隊の指揮官の中で最年長であったレベナックから出た、三隊が協力し敵一隊にあたって戦線を突破しようというこの策。
たしかに案としては悪いものではなかったのだが、選ぶ相手が悪かった。
というよりも、状況があまりにも悪かった。
中央にソヴァール、左にレベナック、右にオリンクルという三角形の陣で進んだフランベーニュ海軍に対し、ユラは急速後退によって相対距離を保ち、その様子を見たトゥルムとコパンは素早く移動し、レベナックとオリンクルの側面に食いつく。
もちろん側面攻撃に対応しないわけにはいかないレベナックとオリンクルは九十度回頭して舳先を相手に向けるように指示するわけだが、そうなれば当然中央で前進を続けているソヴァールは突出する形となる。
そう。
レベナックの計画は戦いが始まって早々あっけなく瓦解した。
それを待っていたかのようにそれまで後退を続けていたユラが攻勢に転じる。
その第一手は、この世界の海戦では珍しい魔法攻撃だった。
フランベーニュ側の防御魔法の壁を撃ち破って飛び込んできた火球の被害はそれほどでもなかったものの、予想外の攻撃に大混乱に陥ったソヴァール隊が体制を立て直したとき、目の前には他の海賊と間違うはずもない有名な赤い旗を掲げた百隻の海賊船が並んでいた。
……結局各隊ばらばらで多数の敵と渡り合うことになったわけか。
「それで、どうだ?ここから逆転し食い破れそうか?ユラの陣は」
「同数であれば可能性があったかもしれませんが、さすがにここまで差があったうえに先手を取られては……」
後方に下がり、戦況を眺めるソヴァールの問いに、副官のトロアが暗い表情で答える。
「……せめてあと三十隻あれば……」
「それはまさにふたつの隊の数となるわけだ」
「……そうなります」
「だが、どんなに差があろうとも、降伏が許されないこの戦いはこの数で戦わなければならない。それが俺たちの悲しい現実だ」
「そのとおりです」
「これだけ兵力に差がある戦い。負けるのは仕方がない。だが、最後に海賊にしておくにはもったいない絶世の美女という敵の大将ジェセリア・ユラの顔を拝みたかったな」
「まったくです。ですが、どうやらその願いは聞き届けられなかったようです」
「そのようだな。仕方がない。では、行くか」
「お供します」