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残酷な結末 Ⅲ

 フランベーニュ海軍第三隊隊長エオヴィルが乗る船の船内。


「エオヴィル様。どうやらトゥーレ隊に続き、シャルプール隊も壊滅したもようです。最後に残っていたシャルプール様の船も先ほど沈みました。敵はすでに海上に浮かぶ我が軍の兵の掃討戦に入っています」

「そうか」


 ……早いな。


 口には出さない言葉でそう呟くものの、表面上は何も変わることなく後方の様子を報告する副官の言葉に短い言葉で応じる。


 ……だが、早いか遅いかなどどうでもいいこと。

 ……大事なのは生きるか死ぬかだ。


 振り返ることもなくエオヴィルは腕組みをし、視線を前面に向けたままという先ほどと変わらぬ姿で口を開く。


「それで……」


「我が隊を追ってくる敵との距離はどうなっている?」

「もちろんこちらも全力ですが、相手の速度は圧倒的なので……」


 ……本隊に辿り着く前に捉えられるか。


 ……ここはやはり食いつかれる前に迎撃態勢を整えるべきか?

 ……それとも、逃げの一手に徹するべきか?


 ……たとえ追ってくる相手との五倍の敵との迎撃戦を勝ち抜いてもそれで終わりではない。こちらが消滅するまで敵はやってくる。

 ……そういうことであれば、可能性が低くても生き残りたければこのまま逃げるしかないだろう。

 ……問題は……。


「接敵までどれくらいだ?」

「残念ながら、まもなく追いつかれます」

「そうか」


 ……まあ、そうだろうな。


 ……だが、ここで反転して迎撃してもトゥーレやシャルプールの二の舞だ。

 ……最後の一隻になっても逃げる。それしかない。

 ……そして、一隻でも残れば勝ちだ。


「後ろを気にせず逃げ続けろ。ただし、乗り込まれたら徹底的に戦えと伝えろ」


 それからしばらく経った同じ海域。


 すでに戦いは終わっていた。


「ラスカラス様。残敵掃討も完了したとのことです」

「ご苦労。だが、海に浮いている者のなかにまだ生きている者がいるかもしれない。もう一度よく探せと各船の船長に伝えるようにマヤパンに言ってくれ」

「承知しました」


 やってきた伝令係に船に残る副官パトロシオ・マヤパンに対する指示を伝えるアビスベロ隊の副司令官であるニコラ・ラスカラスは自らが追っていた十隻のうち最後のものとなったその船の様子をもう一度眺める。


「最後まで逃亡を図るとはフランベーニュの腰ぬけにはお似合いの所業ではありますが……」

「まあ、これだけの戦力差があれば逃走することこそ最善の道。途中で気が変わることなく最後までやり通したのだ。ここは褒めるべきだろう」


 同行した部下で一番のナイフ使いであるハファイル・モンテアルバンの嘲りを込めた皮肉をラスカラスは窘めるように遮り、さらに続きの言葉を口にする。


「逃げ切れず戦いになり、最後は斬り殺されたのは彼らにとっては残念なことであろう。だが、同じ死でも捕らえられて遊び半分で処刑されるよりも軍人なら遥かにマシだと思うだろう」

「まあ、それはそうですが……」

「それよりも、この船も沈める。その前に目ぼしいものがないか探すことにしようではないか。モンテアルバン。その仕事を任せてもいいか?」

「もちろんです」


 モンテアルバンが部下五人を連れて船底に下りていくのを見送ると、ラスカラスは舷側に食い込んで接舷している自らの船を見やる。


 ……アビスベロ様よりのその場ですべてを殺せという命令。

 ……その命令だけを聞けば、残酷に聞こえるかもしれない。

 ……なにしろそれには負傷し動けなくなった者、降伏し命乞いをする者も含まれるのだから。

 ……だが、彼らも軍人なら戦いの中で死ぬ方が、理不尽な処刑よりもはるかにいいだろう。

 ……それに……。

 ……彼らだって捕らえられ必死に命乞いをする海賊に対して同じことをやってきたのだ。

 ……自分たちの命乞いだけが通るというのはあまりにも虫が良すぎる考えだ。


 ……モンテアルバンたちが戻ってきた。あの目ざといモンテアルバンが手ぶら。つまり……。

 ……どうやら、重要書類は皆処分され目ぼしいものはなかったようだな。

 ……では……。


「全員が引き上げたのを確認してから船を沈める」


「我々にはまだ仕事が残っているのだ。手早く済ませるぞ」

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