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バカ夫には鉄槌を~異世界結婚事情~

作者: 橘霧子

 夕食後に「大事な話がある」と妻に言われ、僕は一気に肩の力が抜ける思いがした。

 そうか。君も同じだったのか。


「実は、僕も話があったんだ」


 僕はすっかり緊張感を失って、場所を変えることもなく、食事を終えたばかりの席でうつむく妻に明るく告げた。


「お互いのために、離婚しかないよね」

「えッ!?」


 妻はハッと僕を見上げた。


「結婚して6年。子供ができないばかりか、君は僕の家族とうまく関係を築けない。どちらかがダメならともかく、両方ってもう、ダメじゃない? 君もそう思うんだろ?」


 僕の実家は伯爵家だ。そしてこの僕は、次期伯爵、つまり跡継ぎだ。今は親戚筋の子爵を名乗っているが、時が来れば子爵位を弟に譲り、僕が伯爵家の当主になる。


 一方の妻は、子爵家の長女。実家は兄が継ぐことが決まっている。

 妻の実家のことなんて詳しくは知らないけど、領地からは希少な資源が産出されているとかで、子爵家のわりには裕福らしい。だから娘が一人出戻ったくらい、どうってことはないはずだ。


 それに、僕らはまだ若い。


 僕らは共に18才で結婚した。

 愛情? ナニソレ。美味シイノ? ってくらい、僕らは何も解らないまま結婚した。貴族の政略結婚だから、仕方ない。


 妻はこれと言って美人でもないが、醜くもなく、磨けばそれなりに光るタイプだ。それにズバ抜けて賢いわけではないが、かといって愚鈍でもない。要するに何につけても()()()()だ。

 領地経営の手伝いをさせれば、それなりに役立つ。社交シーズンでもそこそこの人脈は広げていたらしい。


 性格も穏やかで、日頃から質素。趣味はレース編み。結婚の際に伯爵家が用意した支度金を、いまだに少しずつ使って自分の身の回りを整えているほどの倹約家だから、僕におねだりをしたことは一度もない。その点では良妻かもしれない。


 ただ、なんというか……。

 退屈だ。


「何もないことが本当の幸せ」と周りはいう。

 しかし、妻との生活は……平坦すぎた。

 そう、平坦。まったいらで、何もない。どこまでもまっすぐで、デコボコさえない、ただの一本道を、ずっと歩いているようなものだ。


 時おりでも強風が吹き、雨でも降れば思うこともあるだろうに、僕らの歩く道にはそれさえもない。ただ何もない道を、まだ見えぬ目的地に向かって黙々と並んで歩くだけだ。


 子供がいたら――それは何度と考えた。だが、どんなに夜の営みを励んでも、僕らには子供ができなかった。

 そのせいで、実家の両親はいつも不機嫌だ。


 貴族の結婚が財産を守るためなら、子をなすことは血脈を守るための義務だ。「できません」では許されない。

 伯爵夫人――つまり僕の母は、子宝に恵まれると言われるものなら、何でも妻に提案した。

 子供と出産を司る女神の神殿に何度も足を運び、子宝に恵まれると言われる指輪やネックレスを妻に与え、体質改善のお茶を飲ませ、栄養管理に詳しい料理人を探しだし、不妊に効くといわれるダンスを妻と共に習い、果ては不妊治療の第一人者に助言を求め、勉強会に参加した。


 初めはありがたがっていた妻だったが、母が熱心になればなるほど、反比例して子作りに消極的になっていった。


「なんだか毎日が息苦しいの。お母様に少し控えていただけないかしら?」

「そんなことを言って、子供ができないんだから仕方ないじゃないか」

「でも、こんなに毎日朝から晩まで、子作りばかり考えていたら、頭がおかしくなりそうよ」

「まだおかしくなっていないんだから、大丈夫だろ。それとも、君は僕の母が疎ましいのかい? こんなに僕らのために、色々と手を尽くしてくれているのに」

「疎ましいだなんて……もちろん感謝しているわ。でも」

「『でも』って何だよ。『でも』って言うのは感謝していないってことだよ」

「そうじゃないのよ」

「所詮、僕の母は君にとって赤の他人だからな。鬱陶しいんだろ。あんなに世話になっているのに、当てつけのように寝込んだりさ。君にはガッカリだ」


 そんなやり取りが頻繁になって、次第に夫婦の会話も減り、退屈な日常がさらにつまらなくなった。


 そうなると、未婚の友人たちの自由な暮らしぶりが、やたらと輝いて見えた。

 僕は後継者に指名されていたために、子供の頃から婚約者が決められていて、成人と同時に結婚した。跡継ぎは多かれ少なかれ、こんなものだ。


 これが跡を継がない次男三男となると、婚期はもっと遅い。彼らはより良い婿入り先を得るために、騎士や文官として実力を示す必要があるからだ。

 日中は騎士団で見習いとして修行や、アカデミーで文官に必要な能力を身に付け、夜になれば舞踏会で婿を探している令嬢からちやほやされる。

 なんて羨ましいんだ!


 僕も舞踏会には行くよ? 行くけど、妻帯者だからね、ちやほやなんかされない。

 何なら、妻以外の女性と二人っきりにさえ、なれないよ。他の女性になびこうものなら、あっという間に醜聞ものだよ。


 正直言うと、面白くも何ともないよね。男同士で仕事の話ばかりしてさ。

 よりによって、僕の友人は次男や三男が多く、要するに、独身を謳歌している奴らばかりで。それに引き換え、僕の人生のつまらなさといったら。


 いっそ、やり直したいと思うのも、仕方ないだろう……?


「やっぱり結婚が早すぎたんじゃないかな。そのせいで、お互いにやり残したことがあるよね。どうせ子供もいないし、お互いの幸せを考えて、別々の道を探すのはどうだろう」

「あなたは結婚を後悔しているのね」

「うん、まぁそうだね。早く婚約者が決まってしまったから、恋も経験していない。跡継ぎ教育ばかりで、羽目をはずしたこともない。まだ若いうちに、自由を取り戻したいと思うよ」

「わかったわ。離婚しましょう」


 その時の妻がどんな表情だったか、全く覚えていない。とにかく思ったより簡単に離婚の同意が得られたことに、僕は喜んでいた。


 それからほどなくして、妻は家を出ていった。

 勝手に離婚してしまったことは、最初こそ両親からは叱られまくったが、婚約時代から数えて10年以上経ち、かつて傾きかけていた伯爵家はもはや裕福な子爵家という添え木の必要はなくなっていた。

 とすれば、重要なのはやはり血を受け継ぐ者であり、夫婦として褥を共にしながら一向に成果を出せない妻に両親が見切りをつけるのは、容易かった。


 こうして僕は、晴れて自由の身になった。




  ◇◇◇◇◇





 私と元夫は、なかなか子宝に恵まれなかった。

 貴族の私にとって、子供を生むことは絶対的使命と言えた。それなのに何の兆候もないまま結婚生活は二年、三年と過ぎていく。

 五年目になって、とうとう義母が奮起した。


 子供と出産を司る女神の神殿への参拝までは、まだよかった。初めて訪れたそこは、子を望む人々が整然と並び、頭を垂れて静かに祈りを捧げていた。その末席に座り、同じように手を組み、頭を垂れる。


 やがて始まった神官の穏やかな祈りの言葉は、全身に降り注ぐ柔らかな雨のようだった。ただひたすらに祈りを捧げる体は、大地のようにその雨を余すことなく受け止めた。気づくと私の頬には涙が伝っていた。それはとても温かい涙だった。


 だが、その感動も最初だけだ。その後も度々神殿への参拝を命じられ、そこには必ず義母が同行した。


 神殿までの道のりは遠く、馬車や宿を手配するのも大変なのに、義母は口だけで準備に指一つ動かすことはなかった。

 旅程は常に天候に左右された。特に雨が降れば、途中にある川が増水して渡れなくなってしまうので、何日も足止めを食うこともあった。


 参拝に同行するのは私と義母の他に、伯爵家、子爵家から一人ずつ侍女を連れていたが、伯爵家の侍女は明らかに私たちを蔑ろにしていた。いつも義母の隣で、私と私の侍女が全てをお膳立てするのを座って待っているような女だった。


 決して楽しい旅ではない。その上道々嫁としての心得を語られ、私生活に意見され、すっかり嫌になってしまった。

 なんとか参拝の旅を終えても、義母の暴走は収まらない。むしろ酷くなっていった。


 ある時は目の前に突然宝飾品を出され、子宝の加護のあるものだから、常に肌身離さず身に付けていろと命令された。

 とてもダサい指輪とネックレスだった。思わず笑顔がひきつった。

 たかが宝石を身につけたくらいで子が生まれるなら、誰も悩み苦しまないのに――という本音を隠して、ありがたく頂戴した。こんな眉唾ものに義母がどれ程貢いだのか、恐ろしくて聞けなかった。


 ある時は山ほどお茶を持ってきて、毎日飲むように命じられた。何でも妊娠しやすい体にするお茶だという。鼻が曲がりそうなほど臭くて、不味いお茶だった。こっそり処分したくても、度々義母が在庫を確認するので、涙を流しながら飲み続けた。


 お茶の不味さのせいで味覚が機能しなくなったのか、何を食べても美味しいと思えなくなり、食欲が減退した。日増しに痩せ衰えて寝込む私を見て、義母は怒り狂って新たに料理人を連れてきた。かつて王宮で王族の栄養管理をしていたという人物だ。


 彼の料理は味よりも健康を重視したものだった。私は次第に健康を取り戻し、元気に動き回れるまで回復した。

 ただ、給料が相場よりも遥かに高く、持参金として実家から持たされた私個人の資産から出すのは、かなりの痛手だった。お陰で私はさらに倹約に励まなければならなかった。


 寝込んでいた私が回復すると、次は義母にダンスを習いに行かされた。不妊に悩む女性のための特別なダンスというふれこみで、男女のペアではなく経産婦と踊った。密接なふれあいによって妊娠の力を分け与えてもらうというものだった。


 そんなことをして子供を授かれるのであれば、世の中悩める女性は居なくなる。居なくならないということは、そういうことだ。

 そんなものに高い参加費を払う義母に呆れつつも、私は大人しく従うしかなかった。


 一年義母の暴走に振り回され、心身ともに疲れた私に追い打ちをかけたのは、不妊治療の第一人者と言われる医師の診察だった。

 そもそも義母のよかれと思う全てを行ってなお、何の効果もなく。そのくせ、私にだけ不妊の原因を押し付ける伯爵家のやり方には、納得できなかった。


 私が義母の押し付けに耐える間、元夫は何一つ不妊に向き合うことはなかった。一度でも元夫が自分のこととして向き合ってくれたら。いや、それは望めない。元夫自身、自分に原因があるかもしれない、その可能性など考えていなかったし、そもそも私の話など聞く気がないのだから。


 私は考え方を改めた。

 どうせ義母の決断には逆らえない。ならば医師を味方につけるまでだ。

 私は体の隅々まで検査を受け、ここに至るまでの全てを正直に医師に告げた。その結果、私の体には何一つ問題はなく、少なくとも子供ができないことに私の責任はなかった。医師として唯一心配な点があるとすれば、長期に渡る過度のストレスとの診断がおりた。


 さすがに医師という職業は、貴族の権威など恐れはしないものらしい。自分の診断に、勝手に義母が不満を言うことは許さなかった。さらに、元夫が受診しないことをはっきりと批判した。


「私は最初に言ったはずです。診察には必ずご夫婦で、と。それなのにいらっしゃったのが子爵夫人だけとは……聞けば、伯爵夫人、あなたの独特な不妊治療は全て、子爵夫人にだけされたのだとか。なぜ、そう一方的に女性が悪いと決めつけるのです? 私にはとても受け入れられません。この先も受診を望まれるのでしたら、ぜひあなたではなく、子爵にお出でいただきたい」


 思わず胸が熱くなった。義母は義母らしく大声で悪態をつき、診療所を飛び出した。

 医師はやれやれと呟いて椅子に深く座り直すと、私を見て笑った。


「あの様子では、私が何を言っても無駄でしょう。さて、あなたはいかがなさいますか?」


 この医師なら信頼できる。私はそう確信して、次回以降の診察を願い出た。


 それからこな医師の勧めで、義母とは一定の距離を置いた。今まで押しつけられた品々も処分した。あの意味不明なダンスの集まりもやめた。


 案の定義母の不満は爆発し、それは手がつけられないほどの暴れようだった。聞くに耐えない侮辱の言葉の数々にも、私は立ち向かい義母を家から追い出した。


 その一方で。

 目の前で暴れる母親を前に、元夫は何をするでもなく、頭を抱えて沈黙を貫いた。この人は、幼い頃からそうやって、ただ目の前の嵐が通りすぎるのを待つだけだったに違いない。それだけならまだしも、義母に反抗する私を咎めることもしばしばあった。


 なんだか、一気に幻滅した。


 元々惚れた腫れたのない、穏やかな結婚生活だ。ただお互いの伴侶としての役目を全うするのが第一だった。

 私は毎日元夫の補佐としての役目に励んだ。元夫は大人しく真面目な人ではあったが、どこか子供っぽくて抜けていた。彼がする仕事の小さな不手際の数々を探しだして修正する。そんな毎日だ。


 そんな単調な日々も、互いに信頼があると思えばこそ、受け入れられた。やがて始まった義母の暴走も……貴族社会における跡取りの重要性に鑑みれば、納得できないことではなかった。


 全ては、そこに主体的な元夫の存在がなかったこと、それが不満だったのだ。


 医師にそれを指摘されたことで、私がそれまで言葉にできなかった心のもやが、パッと晴れた気がした。

 私は迷うことなくその後も診察に通い、心のうちを存分に医師に語った。治療と言っても私は優れた料理人のお陰で至って健康で、医学的にすべきことはなかった。私に必要なのは、心にもやを残さないこと、つまりは気が済むまでのおしゃべりだった。


 その結果、私はとうとう妊娠したのだったが、それを元夫に告げようとしたその場で、離婚を切り出されたのだった。


 自由が欲しい。元夫は笑顔でそう言った。

 ああ、この人とは根本的に思考回路が違うのだな、と思った。


「もしも子供がいたら、離婚なんて考えなかったのかしら」


 私の問いに、元夫は無邪気に笑って首をふった。


「子供かぁ。今さらどうでもいいよ」


 その一言で、かろうじて繋がっていた夫婦の絆が、完全に切れた。私は迷わず離婚を決めた。


 離婚話をする前に、元夫に少しでも私の話を聞く気があったなら。

 私は喜びと共に妊娠を告げたはずだ。そもそも話がある、と先に言ったのは私だったのだから。

 それを元夫は、勝手に自分と同じ話をするのだろうと勘違いして話を進めた。離婚を承諾すれば一人で満足し、私の話したかったことを確認もせずに、晴れ晴れとした表情で席を立ってしまった。


 これではもし妊娠を告げたとして、私や子供を足枷にしか思わないのは明白だった。

 だったら、そんな父親も夫もいらない。

 幸い私の実家の子爵家は裕福だ。一度実家に身を寄せ、ゆっくりその後の生活を考えればいい。


 実際、実家の両親は私を温かく迎えてくれて、離婚の手続きは当主である父が全て代行してくれた。

 家族で話し合った結果、領地で出産に備えることになった。

 領地では兄夫婦が家令から領地経営を学んでいる最中だ。兄夫婦にはすでに子供がおり、お産の経験がある義姉は、私を邪険にすることなく、優しく寄り添ってくれた。


 懐かしい領地でのびのびと羽を伸ばし、すでに元夫との生活も過去になり。

 私は心穏やかに双子の男の子を生むことができた。

 とても初産とは思えぬどっしりと構えた様は、この先何十人でも無事にお産をのりきるだろう、と取り上げた医師から領民へと伝わって、しばらくは笑い種となった。

 それもこれも、産後の肥立ちがよかったからこそこ笑い話で……出戻りの私を家族として迎えてくれた兄夫婦に深く感謝したのだった。





  ◇◇◇◇◇






 最近、つまらない。


 離婚して自由を満喫していた僕だったが、共に享楽に耽っていた友人たちは次々に身を固めた。そのうち順番に子供が生まれ、家庭を一番にし始めた。

 夜遊びの仲間は一人二人と消えていき、とうとう僕だけが残った。

 そんな僕ももういい年だ。

 離婚から10年経ち、二度目の結婚をするにしてもすでに婚期を逃している、ただの遊び人だ。


 しかも、離婚がずっと尾を引いている。

 軽い気持ちで友人に話した妻との日々が、あっという間に悪い噂となって広まり、嫁に逃げ出すほどの跡継ぎのプレッシャーをかける鬼のような姑のいる家には嫁げないと、いまだに若い女性からは軒並み避けられていた。


 違う、そうじゃない。僕から離婚を切り出したんだ。僕があの、何もない日々に嫌気がさして終わらせたかったんだ。

 言い訳すればするほど、僕の社交界での評判は落ちた。


「何もないだって? 君の元奥さんは、あんなにもいつも一生懸命だったのに」


 僕は知らなかった。

 子宝祈願の参拝がいかに遠く、大変で、しかもすぐに増水する川を渡る危険があることなど。

 そんな旅に夫ではなく姑に何度も連れ出され、川の増水で足止めを食うなか必死に宿を探し、それなのに宿や食事について母から文句を言われても耐えていた妻の姿が、度々同じ目的の貴族たちに目撃されていたことも。


 僕は知ろうとしなかった。

 母が持ち込んでくる子宝によいとされる品々が、本当は真っ赤な嘘。有名な詐欺だったとか。

 特にあの変な色のお茶は、国中で健康被害が報告され、国王陛下自らが危険視して回収のお触書を出していたなど。


 おまけに、てっきり気分転換のダンスパーティとばかり思っていた集まりは、体を密着させることで出産の力を分け与えるだのと、怪しい精神世界への洗脳めいたことを平然と行い、信奉者から多額の寄付を巻き上げた罪で、主催者が逮捕されていたということも。


 そもそも姑が嫁に子作りを強要するのも、医学的な根拠もない授かり術を嫁の気持ちを無視して勧めるのも、世間では立派な嫁いびりになるらしい。

 おまけに僕の場合、不妊の原因を妻だけに決めつけていた。これが一番女性に嫌われる原因だそうだ。


 始めこそ僕の離婚話を笑って聞いていた友人たちも、婚約、結婚、出産と段階を踏むにつれ、僕を批難し、妻の肩を持つようになった。未婚の時は気づかなかった、自分の妻と両親との意見のすり合わせの難しさを実感し、僕と一緒になって妻を笑ったことを激しく後悔しているそうだ。


「お前もいい加減大人になれ」


 そう僕の肩を叩いて去っていった友人は、少なくない。

 こんなはずじゃなかったのに。


 家に帰れば、家令が山のような書類を用意して待っている。

 仮とは言えど、子爵家の当主だ。シーズン中は宮中での仕事をし、オフシーズンには領地での仕事が待っている。やってもやっても終わらないばかりか、後になって小さな問題もボロボロ出て、その対処に追われる。


「昔は良かったなぁ」


 家令の話によると。

 妻がいた頃は、彼女が常に僕の仕事の綻びに目を光らせ、修正していたそうだ。夜中まで執務室の明かりが消えなかったのも、彼女の仕事が遅かったからではなく、自分の仕事の他に僕の仕事の修正をしていたからだった。


 その場その場で、ちゃんと言ってくれよ!!


 旅の辛さも、授かり術の怪しさも、その時に言ってくれなきゃ、解らないじゃないか。

 いくらおとなしい性格だからって、何も言わないなんて程度が過ぎる。おかげで僕は、妻が一方的に母を嫌っているものと勘違いしてしまった。


 仕事のことも、そうだ。僕の仕事が半人前で手直しが必要なら、黙って直さずに教えてほしかった。おかげで僕は、いまだに半人前の仕事しかできず、自ら尻拭いをし続けている。


「こんなの、少しも望んでいなかった」


 どんなに後悔しても、時間は巻き戻らないのだけど。

 僕は溜め息をついてペンをとった。

 昔を懐かしんだところで、仕事は終わらない。


「ちょっと話せないか」


 僕は相変わらず仕事と家の往復と、時々憂さ晴らしに夜会に出席する生活を送っていた。

 その日も、とある貴族の夜会のすみで、一人酒をあおっていた。

 僕に声をかけ、親指でバルコニーを指さしたのは、共に夜会で手当たりしだいに女性との恋愛を楽しんでいた、かつての友だ。


「君にとって、とても重要な話だ」

「わかった、聞こう」


 僕は誘われるまま、バルコニーに出た。話し相手になってくれるのなら、誰でも良かった。

 夏の気配を感じさせる、生ぬるい風が酒にほてる顔を撫でた。


「君の元奥さんの話だが……」

「彼女がどうかしたのかい?」


 妻の噂は聞いていた。離婚後は領地で、元々の趣味のレース編みを仕事にして暮らしている。彼女の作品は貴婦人に人気が高く、作るそばから売れてしまうのだとか。

 それとなく値段を調べてみたら、かなりの高額で取引をされていた。一緒に生活をしていた時は気にしなかった彼女の趣味が、そんな付加価値を持つことに、心底驚いたのだ。


「先日、王都で見かけたのだよ。その……子供も二人……よく似ていたから双子かな。あれは君の子供じゃないのかい?」

「な、なんだって!? 僕は知らないよ。それはいつのことなんだい?」

「実は、僕の娘が来年には貴族学校の少年部に入る予定でね、先日妻を連れて見学に行ったのだよ。そこに、彼女が子供を迎えに来たのさ。

 向こうは僕のことなど覚えちゃいないだろうが、僕は覚えていたよ。どうやら彼女の子供は、今年入学したらしい。

 ……その様子じゃ、君、本当に何も知らないようだね。しっかりしろよ。学校に通う年齢なら、少なくとも10才前後だということだぞ。君との結婚期間と十分に重なるだろう?」

「本当に何も知らないんだ。彼女に子供が……?」

「再婚したとも聞いていないし、ここはちゃんと確認した方がいいんじゃないかい?」

「あぁ、そうするよ。教えてくれて、ありがとう……」


 ガン、と金槌で殴られたような衝撃だった。

 彼女に子供がいる? それも双子で、もしかしたら僕の子かもしれないって?

 だったらなぜ、離婚に応じたりしたんだ。それともあの時は彼女も知らず、後から知ったのか。それでも教えてくれば良かったのに。僕との子供であるなら、少なくとも伯爵家の跡継ぎでもあるはずだ。


 やっぱり、妻は大事なことは何一つ言わない。なんて女だ。


 翌日、僕は仕事を終えるなり、妻の実家に向かった。出迎えたのは僕もよく知る執事で、先触れもなく来られても通せないの一点張りだった。しかし、僕も引き下がってはいられない。妻が不在ならば帰るまで待つ、と告げると、一度執事は奥に下がり、戻ってきたときには妻の待つ応接室に案内をしてくれたのだった。


「お久しぶりですね」


 10年経ったというのに、妻は別れる前と変わらぬ姿で、そこに立っていた。それに引きかえ、僕は……日頃の不摂生がしっかりと身に付いた、だらしのない姿だった。恥ずかしさにはにかんでいると、ソファを促されて対面で座った。


「それで、今日のご用は?」

「実は、友人から君に子供がいると聞いたんだ。それで……もしかしたら、その子は僕の子供なんじゃないかと……」

「そのことですか。確かに、あの子たちは私とあなたの間に出来た双子です」


 やっぱりだ! 僕は飛び上がるほど喜んだ。

 そんな僕を、妻は白けた目で見つめた。


「だから、なんだと言うのです?」

「なんだって……それはつまり、僕に二人も息子がいるってことじゃないか。嬉しいに決まっているだろう」


 これからは父親として僕も育児に参加したいと告げると、妻はニコリともせず、

「お断りします」

「何でだッ」

「今さら父親だなんて。私もあの子たちも望んではいませんわ。あなたは6年の結婚生活の果てに自由を望んだ。望みは叶ったのです。過去を追い求めず、今の幸せをお探しください」


 驚くほど、冷たい声だった。ここに来てようやく、妻と僕の思いが噛み合わないことに気づいた。妻は全身で僕を拒否し、その威圧感にただ尻尾を巻いて逃げるしかなかった。


 逃げたものの、諦めた訳じゃない。


 僕は妻との関係修復を一旦おいて、息子たちに接触を試みた。

 仕事を少し早めに切り上げれば、息子たちの下校時間に間に合う。僕は学校が終わる時間より少し早く学校で待ち、息子たちを探すことにした。

 一見無謀な賭けだったが、双子はそんなに多くない。息子たちはすぐに見つかった。


「やあ、はじめまして。僕は君たちのお父さまだよ」


 妻によく似た目を丸くして、顔を見合わせる双子はなんて可愛らしいんだ。


「今日は僕が迎えに来たんだよ。さあ、馬車に乗って」

「のりません」

「しらない人についていってはいけません、とお母さまが言っていました」

「待って。僕は君たちのお父さまなんだ。今まで会わなかっただけで、知らない人じゃないだろ? とにかく話ができるところに行こう」


 校内に戻ろうとする二人の手を少し強引にとると、僕は急いで馬車にのせた。もたもたしていたら、妻が来てしまう。お父さま、という言葉に息子たちの警戒も緩んだのか、歩き出してしまえば抵抗することなく馬車に乗ってくれた。


 幸いにも馬車が走り出すまでに、妻は学校に到着しなかった。

 僕は自宅ではなく実家の伯爵家に向かった。両親を驚かそうと、取り次ぎを待たずに息子たちを連れて家の奥に進んだ。父はおらず、事情を知った母は、泣きながら二人を抱き締めた。

 待ち望んで諦めるしかなかった、僕の子供。母の感動はひとしおだ。


 それにしても、息子たちはなんだってずっとビービー泣いているんだ。馬車に乗せてからずっとだ。

 こんなに泣いて、この子たちはどこかおかしいんじゃないか。子供は親の言うことを聞いて、おとなしく座っているものだろう。それとも妻の躾が足りないのか。

 そうかもしれないな。所詮は女手一つの子育てだ。妻は器用ではないし。金はあっても愛情も教育も行き届かないんだろう。


 どちらにしろ、ゆくゆくは伯爵家の跡継ぎとして、立派な人格者に育てなければ。

 妻は僕の手など必要ないと言っていたが……そんなことはないよな。


 ああ、うるさい。子供の甲高い声は耳に障る。

 僕はメイドに子供が喜びそうな菓子をありったけ用意するように告げた。





  ◇◇◇◇◇





「もう帰った……?」

「えぇ、随分前に教室を出ましたよ。会いませんでした?」

「はい」

「それは変ですね。少し探してみましょうか」


 いつもの時間に息子たちを迎えに行ったものの、待ち合わせの玄関前にはいなかった。

 しばらく待ってもやってこないことに不安を感じ、教員に確認をすれば、すでに下校しているという。

 その後、手の空いている教員を集めてもらい、私も学校の敷地内を探してみたが、息子たちは見つからなかった。


 誘拐――その可能性に体が震えた。


「お母様、落ち着いて。お顔が真っ青です。まずは座ってください。今、警官隊を呼んでいますから」


 その後は、何がなんだか解らない。私は言われるまま椅子に座り、震える手を校医がしっかりと握ってくれていた。


「まだ誘拐と決まった訳ではありません。教員が引き続き校内をさがしていますから。今は待ちましょう」

「何でこんなことに……」


 すでに下校時間から一時間以上は過ぎていた。話が広まったのか、捜索の人数は増え、広い敷地内を隅々まで探してくれていたが、見つからない。

 そうこうしている間に警官隊が到着した。

 私の家庭の事情や日頃の子供たちの様子など、聞かれたことは全て正直に答えた。

 私や担任の話を聴きながら、警官隊の隊長は次第に表情を曇らせていった。


「これは一般的な話なんですが」


 隊長は言いにくそうに首の後ろに手をやり、下を向いた。


「子供の連れ去りで、一番多いのは離婚した家族なんですよ。まずは元のご主人の話を聞きましょうか」

「そんな……あの人が……?」

「ずっと接触のなかった父親が、突然接触してきた。あなたに交流を拒まれて、強行手段に出たのかもしれません。しかし、まだ推測の段階です。まずは確認をしましょう。我々は元のご主人の子爵邸に参ります。護衛をつけますので、お母様はご自宅で待機してください」

「いえ、私も一緒に参ります!! お願いです、連れていってください!!」


 元夫が連れ去ったのかもしれないと聞いて、黙って待っているなど、できない。それに、事情聴取のための訪問なら、警官隊は元夫に無理強いはできない。扉の向こう側で対応されてしまったらおしまいだ。私なら、彼を油断させられるかもしれない。

 私の説得に、隊長はしぶしぶ納得してくれた。

 隊長の馬を先頭に、私の馬車、隊員たちと続いて子爵邸に向かった。


 子爵邸に夫はいなかった。執事によると、朝外出したきりで、まだ帰宅していない。

 辺りはすでに夕焼けを過ぎていた。

 子供たちには知らない人にはついていかないよう、繰り返し教えてきた。うっかり元夫について行ってしまったとしても、そろそろ冷静になって母親を恋しがるころだろう。そんな子供を二人も、育児経験のない元夫が相手にできるとは思えない。

 夕闇を感じさせる薄暗い街中を、今度は伯爵邸にむけて馬を走らせた。


 伯爵邸に到着すると、執事はあっさりと私を迎え入れてくれた。どうやらあらかじめ、そのように命令されていたらしい。

 案内されたのは談話室だった。元夫と元義母が平然と私を歓迎する素振りに反吐が出る。

 私は拳を握りしめて、元夫に尋ねた。


「子供たちはどこですか」


 こちらが冷静さを取り繕っていることが面白いのか、ふたりはニタニタと笑いながら顔を見合わせた。


「隠しても無駄です。あなたが二人を連れ去るのを見た人がいます」

「なんだ。バレているのか」


 鎌をかけただけなのに、元夫はあっさりと引っ掛かって白状した。


「君が悪いんだよ。僕の子供なのに僕を排除しようとするから」

「だからって誘拐するなんて……」

「誘拐!? バカだなぁ。そんな大袈裟なもんじゃないだろ?」


 元夫の言いぐさには、反撃したいことばかりだが……ここはまず、子供たちの身の安全が優先だ。


「……子供たちに会わせてください」

「もちろん。と言っても、泣きつかれて寝てしまったよ」


 子供の躾がなっていないだの、泣き虫は伯爵家にふさわしくないだの、ペラペラと下らない話をしながら、元夫と元義母は私を二人のいる部屋に案内した。この人たちは、十年経っても何も変わっていない。相手の気持ちや常識など考えず、いつだって自分のしたいことが最優先だ。


 元夫は部屋の明かりをつけ、私を促した。


「ごらん。傷一つつけていないよ」


 ベッドの中で、子供たちは並んで寝ていた。二人とも目の回りが赤く腫れぼったくなっている。相当泣いたようだ。だが、確かに見たところ怪我をした様子はなかった。


 私は窓辺に駆け寄ると、窓を開け放ち、ずっと握りしめていた警笛を思い切り吹いた。


「ちょっと、何をしているの!!」


 あわてて元義母が突進してくるのをギリギリでかわし、私は子供たちに覆い被さりながら、笛を鳴らし続けた。


「お前、このバカッ!!」


 元夫が髪を掴み、無理やり顔をあげさせようとする。警笛を奪おうとするのを手で守り、私は笛を鳴らし続けた。


「くそッ、くそッ、止めろ!!」


 右に、左に。元夫はベットに上がって私の頭を大きく揺さぶる。絶対に負けない。子供たちを潰さないように被さりながら、私は夫の攻撃に耐え、笛を吹く。


 ――どうか、早く来て!!


 屋敷に入る前、警官隊の隊長は私にこの警笛を渡した。子供たちを確認したら鳴らし、それを合図に警官隊が突入する手筈だった。

 ガツッ、ガツッ、と後頭部を拳で殴られ、痛みに呻く。緩んだ口元から元夫は警笛を取り上げて投げ捨てた。


「ったく、何のつもりだよ!」


 髪を捕まれて元夫の方に顔を向けられる。


「あなたがしたことは誘拐よ。ここには警官隊と一緒に来たわ」

「な、何を言って……」


 にわかに部屋の外が慌ただしくなる。警官隊と思われる大勢の足音と、怒号、屋敷の者と思われる叫び声も聞こえた。

 顔をひきつらせてドアに駆け寄った元夫と元義母に、突入した警官隊が鉢合わせた。ぶつかってよろけた二人を、警官隊があっという間に拘束した。


「現行犯ですね。覚悟してください」

「冗談じゃないわよ! 私は孫に会っただけよ!!」

「学校帰りに家族の承諾もなく連れ去れば、立派な誘拐ですよ」

「そ、そんなぁ……」


 起き上がる私の目の前で、二人は両手に縄をかけられた。どっと疲れを感じて、子供たちの足元に腰をかけた。

 元夫に掴まれ、振り回されて、髪はぐちゃぐちゃに乱れていた。殴られた後頭部はまだ痛んでいる。


「子供って、すごいわ」


 すぐ側でこんな大捕物があったというのに、子供たちはまだぐっすり夢の中だ。

 なんだかおかしくなって、笑ってしまった。





  ◇◇◇◇◇





「なんで、どうして!! おかしいだろ、こんなの!!」


 誘拐騒動で逮捕された僕は、廃嫡のうえに貴族の身分を失って開拓地おくりになった。僕に与えられていた子爵の位は弟に代わり、将来受け継ぐはずの伯爵位も弟に譲られることなった、と見送りの場で父から伝えられた。


「喚くな、みっともない」


 それが父からの最後の言葉だった。


 母は子供を監禁した罪で有罪となり、両親は離婚した。そうすることで伯爵家と誘拐事件を分離し、実家は降格を免れていた。

 母の行き先は知らない。監禁は誘拐より罪が軽いから、受刑地が違うらしい。


 僕は毎日、固く石ころだらけの土地を鍬で耕す。

 手足には豆ができ、日に焼けて肌も髪もボロボロだ。必要最低限の生活用品を与えれ、道具も衣服も、傷めば自分で修繕しなければならなかった。


 与えられた土地を全て農地にできれば、僕の刑期は終わる。でも、それがいつになるか解らない。

 石ころを拾う手を止めてぐるりと周囲を見渡せば、四方八方はどこまでも続く荒れ地だ。木の一本もない。所々草が生えるだけの、何もない土地に、僕の土地だという印の柵がある。家を起点に延々と続くその先がどこにあるのか、僕は知らない。


 若かった頃、元妻との結婚生活を「何もなくてつまらない」と嗤っていた。なんと愚かだったのだろう。

 本当に何もないのは、今の生活だ。

 あの頃はいつも隣に元妻がいた。常に手の届くところに誰かの温もりを感じられることが、どれ程幸せなことなのか。できることなら、馬鹿だった自分を殴ってやりたい。


 僕は再び鍬を振るう。掘り起こした土の中から石ころを拾う。拾う。拾う。


 昨日、監視役が食料品を持って来たので、壊れた井戸のポンプの修繕を頼んだ。次に来た時に直してくれるらしい。それまでは簡易的な釣瓶で組み上げるしかない。


 僕は水を汲んで、それを何度も布と木炭を使って濾過してから火にかけた。煮沸しなければ飲めない水があるなんて、知らなかった。

 井戸の水をそのまま飲んで、ひどい下痢で寝込んでも、誰も助けてくれない。その時はたまたま定期巡回の監視役が来たので、薬をもらい、飲み水の作り方を教えてもらった。


 監視役以外に、ここには先生が定期的にやってくる。僕が犯した罪の重さを説き、罪を犯した僕の弱さを諭し、更正に導いてくれる人だ。

 初めは鬱陶しいだけだったけど、今では訪問日が待ち遠しい。


 それほど、ここには何もない。

 誰もいない。

 獣さえ現れない。


 ただ、どこまでも赤い大地と青い空が広がるだけだ。






  ◇◇◇◇◇






 誘拐事件から月日が経ち、騒がしかった私たちの生活も平穏を取り戻した。

息子たちも学校を休むことなく、毎日元気に通っている。


 一度、元義父が謝罪に訪れたが、私は不要だと伝えた。その代わり、子供たちが持つ伯爵家を相続する権利を放棄する手続きを、粛々と遂行した。

 元夫の子爵家は元義弟に代わり、順当にいけば、そのまま彼が伯爵家を継ぐことになるだろう。私の子供たちの権利は不要なはずだ。


 同時に私の籍を実家に戻し、元子爵夫人を卒業した。離婚後も元夫の姓を名乗り、長らく元夫の元妻とその子供として中途半端になっていた私の家族の拠り所を、伯爵家と完全に切り離した。

この先再婚しない限り、私はずっと実家のご令嬢だ。おばあちゃんになっても? それはちょっと面白い。


 最後まで「妻が」「息子が」と言い続ける元義父に、私は言った。


「私はお義父様のそういう、たとえ家族であっても自分のこと以外は()()()()()と言わんばかりの態度が、ずっと嫌いでした。だって、すごく()()()ですもの」


 足枷になる存在は全て切り離し、伯爵家としては全て終わったことにしたつもりでも。

 たとえ当事者がそう思っても、貴族社会はきっと事件を忘れない。伯爵家も子爵家も、今まで以上に立ち回りが大変になるだろうけど。

 私は赤の他人だから、どうでもいい話。


 勢いで承諾してしまった離婚から十年。

 私の生活は、ようやく上向きになっている。

 趣味から仕事に発展したレース編みは、作品を売るだけではなく貴婦人の嗜みとして教授を請け負うようになった。これで、定期的に賃金を得られるようになり、やっと親のすねかじりから脱出できた。


 時折舞い込んでくる再婚話は、全て断っている。もう結婚はこりごり。夫の稼ぎに守られて安寧を享受する生活に、魅力はない。

 それよりずっと、自由の方が私には重要だもの。


 〈終〉

あらすじにも書きましたが、こちらは友人とのおしゃべりが元になった小説です。

決して体験談ではありません。


と、思ったけど、お医者様とのやり取りは、私のことでした。産婦人科でダンディーな先生と延々おしゃべりをしていた女…それは私です。

そんな深刻な話ではなく、原因不明の第二子不妊ってやつでした。その後、授かりました。


こんな、恋愛要素皆無のお話ですが、異世界恋愛部門で6/2日刊ランキング2位、ありがとうございます。

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