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これよりはじまるはミッドウェー海戦。日本海軍が大敗北を喫した史実を彼女らはどう塗り替えるのか?

――1942年6月14日――

嶋田繁太郎海軍大臣に扮する響は作戦旗艦「大和」に乗艦し大海原をかけていた。もちろん周辺警戒は怠っていないが、それでも作戦海域に近づくにつれ緊張感は増していくというものだ。

 これから行われる作戦は日本海軍のほとんどすべての艦艇を動員することとなった作戦だ。これが失敗すれば日本は滅びる。その中で高まる緊張感を一身に受けるはこの少女なのだ。緊張しないという方がおかしいだろう。

 その時、唐突にぽんぽんと肩をたたかれる。慌てて振り向いてみれば今回の作戦で、艦隊指揮を執ってくれている、山本五十六長官だ。

 「嶋田大臣殿。そんなに緊張しないでください。私はあなた方の素早い動きと兵員の士気を高めたあの演説に感服しております。大丈夫ですよ。私がこの作戦を必ずや成功させて見せます。」

 どうこたえようか逡巡し口をゆっくりと開く

 「そうか。頼むぞ五十六。私はここに乗っていることしかできないがいいのか?」

 「大丈夫です。あなたの演説を皆が聞いていましたから。あなたがここにいるというだけで士気も高まるというものです。」

 「そういうものか。」

 「そういうものです」

 「そんなものたちを死なせるわけにはいかないな」

 「そうですね。」

 偉そうな口調というものはどうも疲れると思い始めた響のところに、船員が駆け込んでくる。いや正確には五十六のところに。だ。

 「長官!周辺警戒をしていた水上偵察機より入電!『敵潜水艦を発見。発見の報は打たれていないが時間の問題だろう。』とのことです!いかがいたしますか?」

 「すまない大臣。私は仕事に戻らさせてもらう」

 「そうか。頑張ってくれたまえ」

 そう響はうなずいた。


 隣にいる船員はまたも聞いてくる

 「それで長官。どうされますか?」

 ここで取れる選択は静観して敵軍に大規模侵攻がばれるか、撃沈して隠ぺいするかの二択だ。どちらにしろ敵軍と当たることにはなるのだが、敵に情報のアドバンテージを与えるわけにはいかない。軽く覚悟を決め口に出す。

 「第十駆逐隊を向かわせろ。撃沈するんだ。絶対に艦隊発見の報を撃たせるな。」

 「はっ!」

 だがこれでは時間稼ぎにしかならない。早急に動かねばならない。


 響は悩む。敵の潜水艦をどうしたものかと。五十六長官は沈めようとするだろうがこちらの情報を誤ってつかませるのもいいのではないかと。この艦隊には旧式空母を含む艦隊がいる。それを見せるのもいいのではないか。そう考えた響はさっそく五十六を追い声をかけた。

 「すまない五十六君。少しいいかね。」

 「どうされましたか。大臣」

 「敵の潜水艦に誤った情報をつかんでもらおうと思うんだ。」

 「というと?」

 「第四航空戦隊に空母隊、第九戦隊、第六駆逐隊を合わせた欺瞞艦隊を敵潜水艦に発見してもらおうと思うんだ。」

 「なるほど。しかしそれでは空母三隻の護衛としては少なく見えるので疑われるのでは?」

 「だからこそすべて軽空母なのだよ。

 「なるほど。それなら・・・・わかりました。やってみましょう。」

 「頼んだぞ。」

 「はっ!」


 作戦を伝え終わった響は悩む。また悩むのだ。階級が高いと考えることがあまりにも多い。本当に作戦は成功するのか。本当に上陸は成功するのか。この海戦に意味はあるのか。考えても仕方ないとわかっていても、考えて今うのは人間の性なのだろうか。


 ――2時間後――

 艦隊はとある無線を傍受する。完全な解読は不可能であったが、発信先と一部解読に成功。潜水艦からの発報で内容は敵の小規模な襲撃部隊を発見したとの報。これで、米海軍の空母部隊がこちらへのアドバンテージをとったとばかりに出撃してくるだろう。

 これで作戦成功率は跳ね上がった。この戦争に希望が持てる。響は小さくガッツポーズをした。


その報告がもともとの作戦を崩すことになるとはつゆ気づかずに。


 同時刻。敵空母艦隊発見の報を受けたアメリカ艦隊は大わらわだ。

 確かに日本海軍の艦らしきものが日本で訓練をしているのは英国のスパイからの情報をもらっていたため知ってはいた。しかし空母三隻と少量の護衛艦のみで来るとは思っていなかった。どんな艦隊で迎撃に出るか。罠である可能性も考えもっと大規模な艦隊を出すか。防衛部隊の中でも意見は割れた。最終的にはアリューシャン諸島防衛用の空母ワスプを残した状態での出撃と決まった。

いくら小規模艦隊といえど奇襲されなくてよかった。と、真珠湾攻撃を回想しつつ思う将校はおおかった。アメリカ海軍は空母エンタープライズ、ヨークタウン、ホーネットを含む大艦隊を日本海軍に向けて出撃させた。正規空母三隻もいれば負けるはずはないと信じて。

 

―――1942年6月15日未明―――

早朝警戒に出ていた十三試艦上爆撃機から敵艦隊発見の報が入る。全艦隊は速やかに陣形を複縦陣を組み、アリューシャン諸島攻撃の任を負った第一艦隊と輸送艦たちは分離。南雲機動部隊、連合艦隊は敵との決戦に挑む。第一航空戦隊「赤城・加賀」、第二航空戦隊「飛龍・蒼龍」、第四航空戦隊「龍驤、祥鳳」、第五航空戦隊「翔鶴・瑞鶴」は一斉に艦載機を発艦させた。

 内訳は零式艦上戦闘機114機、九九式艦上爆撃機124機、九七式艦上攻撃機156機。どこから見ても圧巻の航空隊が補足したアメリカ艦隊の後方から襲い掛かるために迂回し飛翔していった。

 響は全艦に見えるよう高々と旗を揚げる。その旗の示す意味は、


 『皇国ノ興廃コノ一戦ニアリ。各員一層奮励努力セヨ』


この作戦に参加した将校の日誌にはこうある。 

「千載不朽ノ命令ニ、全軍深ク感激シ一死奉公コノ時ト士気旺盛ニ天ヲ突ク」


 二時間ほど後。いつも通り静かだったアメリカ軍空母エンタープライズの艦橋は一瞬で喧騒に包まれる。それは、唐突にレーダーに映った400機近い大量の機影だ。潜水艦から受けた報告は現在進んでいる方角だったはずなのに自分たちの後ろから敵機が現れるということは回りこまれたのか。そう勘違いしたアメリカ海軍空母戦隊はひとまず進路をそのままに敵艦の方向―そう思っているだけだがーから逃走するように輪形陣に陣形を変更しつつ全速前進する。目指す先は自分達を飲み込む死地であるのはまだ誰も予期しえないことだった。


―――攻撃隊―――

 母艦から飛び立ってから二時間ほどした後、敵艦の後方に到着した。敵艦は速度を上げ自分達から逃げるような進路に進んでいく。そしてその状態で戦闘機らしきものを発艦させつつ、陣形を変えていくのも見て取れた。

 数分後。敵艦の戦闘機が迂回して上昇しつつ攻撃隊のほうまでやってきた。しかし、長きにわたった大規模演習と昼夜兼行で行われた厳しい訓練。そして、しっかりとったことで疲れを付記と出した休養。それが合わさったうえで数の有利がある、日本海軍航空隊が。たった今上がって来た上で、高度の有利も、機動性の有利も、速度の有利も、数の有利も。一つとしてない航空隊はなすすべなく海の藻屑とされていった。

そうしてさらに数分後。攻撃隊は敵艦の対空攻撃の範囲内に入る。いくら訓練された精兵といえど、飛来する砲弾を的確に回避する事は不可能に近い。もちろん。それができる一部の精鋭もいることにはいるがごく一部の話である。

 話がずれたが、損害は避けられない対空砲火の中に飛び込んだ航空隊。戦闘機は上空で敵機が出てきたら撃墜する任を負っている。まずは第一次攻撃が開始される。艦上爆撃機による航空爆撃だ。厳しい訓練を積んだ中で命中精度が格段に強化された上に、急襲による同様の中での急降下爆撃。第一中隊の爆撃は八割ほどが命中。空母の甲板を貫通し炎上させ、滑走不能にし、重巡洋艦の対空砲を破壊。駆逐艦二隻を大破、航行不能にするという大戦果を挙げた。しかし、代償も大きかった。

 数十機は被弾により攻撃を断念しそのまま帰投。うち数機は撃墜された。精鋭を数人失うというのは、大きな損害であった。また修理に必要な物資もばかにならない。

 一方そのころ、響率いるミッドウェー作戦用大艦隊も多数の敵機に襲われていた。先の空母三隻が放った攻撃隊である。気づかぬうちに偵察機に発見されていたようだ。雲の合間を縫って現れた敵航空機に対して、艦隊は予備で残しておいた戦闘機を発艦、また弾幕を張り始めた。先の敵艦隊攻撃時の敵戦闘機がそうであったように、高度の有利も、機動性の有利も、速度の有利もない状態での迎撃は非常にリスクが高い。幸い、今回の作戦では大量の空母がいたため戦闘機の数では大体同数であるが、この不利は大きい。だからこそ、弾幕を張り、少しでもこちらのふりをなくす狙いだ。しかし、万全の対策をし、作戦を立てようとも、損害は避けられないものだった。響の耳に近くの電信員から、報告が半ば叫び声のような声を持って飛んでくる。

 「暁被弾!主機に直撃、航行不能!」

 ここで気を取り乱してはいけない。などと考えているうちに隣からはきはきした声で命令が飛ぶ。五十六長官だ。

 「雷に護衛をさせ下がらせろ。後方の補給部隊に修理できる船がいたはずだ。」

 「了解!」

 「申し訳ありません!被弾の報告が相次いでいるため列挙させていただきます!」

 「かまわん早くしろ」

 「瑞鶴が甲板に直撃。発着艦不能。伊勢、日向ともに魚雷が命中。浸水中。」

 「瑞鶴の艦載機は翔鶴に着艦させろ。伊勢、日向はとりあえず対空戦闘に集中しつつダメージコントロール。それまでは周りに援護させろ。」

 「はっ!最後に・・・・」

 「なんだ、早く言え。一刻を争うこともある。」

 「それが。駆逐艦『風雲』、軽巡洋艦『長良』に前者は魚雷一発が艦首に命中。速度が落ちたところに爆撃が第一砲塔弾薬に誘爆。爆沈。後者は風雲乗員を収容しようと近づいたところで風雲への追撃に放たれた魚雷二発が直撃。ダメージコントロールをする間も無く轟沈しました。」

 「……まさか。」

 「申し訳ありません。近くで観測していた『電」からの報告なので間違いないかと。』

 「……そうか。敵の状況は?」

 「現在味方航空隊が優勢。間もなく敵は撤退すると思われます。」

 「わかった。早急に敵を撃退し、『風雲』『長良』の生存者の救出に入れ。」

 「かしこまりました」

 「大臣。申し訳ありません。二隻の損害を出してしまいました」

 「気にするな。船はどうとでもなるが問題は何人が生き残ったかだ。あれだけ練度があるんだ。失うのは惜しい。」

 「ですな。早急に敵を撃退して救出にかかりましょう」

 この攻撃は、先の潜水艦にこちらの方向を知られたのが原因だと響は薄々察していた。おそらく、見たという方向に艦載機を差し向け、攻撃する算段だったのであろう。自分の判断が、数百の戦死につながる。それを心から理解してしまった。一切の損害を出さずに作戦を成功させる。なんてことは不可能である。しかし、それが現実となった時に心にできた傷は深かった。

 ――数十分後――

 かくして、損害甚大で敵機は撤退し負傷者の救出は終わった。負傷者を収容し、被害甚大の艦は後方支援部隊のところまで下がった。しかし、攻撃を完了し帰投しようとしていた攻撃隊から報告が入る。半ば狂乱の域に達した報告が。

 「アリューシャン諸島後方400km!敵の大艦隊を発見!このままではアリューシャン諸島を攻撃中の第二艦隊と交戦状態に入ります!」

 報告を受けた響は動揺する。ありえないと。歴史通りならあり得ない。間に合わせとはいえ海軍の暗号を使ったなら解読はされていないはず……だと。


 To be continued……



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