第四話 鹿と猿
ギフト。それは迷宮に対抗する術として神が人間に与えた最終手段、と言われている。迷宮が出現してからぽつぽつと特殊な能力を持った人が表れ始めた。この能力というのは本当に人それぞれで無茶苦茶な能力から何の役に立つんだと言ったものまである。最近だとその人の特徴に寄った能力が宿るともいわれている。
「まぁそうだ。今のは俺のギフトの【灰かぶり】だよ。灰色のフードをかぶることで限りなく気配を消せる、みたいなギフトだ。姫城のギフトは?」
「私のか?私のギフトは【覇道】と言ってな。前に進む限りすごい強くなれるぞ」
やっぱりな。こういう強くなれるとかいうフワッとしたギフトほどチートと世間では言われている。ゲームなどと違って明確な倍率がわからないからこそ本当にどこまでも強くなってしまう場合が多いのだ。
「まぁ後退したり逃げたりすることができないから不便なギフトではあるが、私の性にはあっている」
「だからあんなにずんずん進んで行くのね。なんか納得したわ。じゃあお互いのギフトの確認も済んだし攻略しちゃうか。それで森林型の迷宮だからこのまま探索っていう感じになるんだけど二手に分かれよう。俺が広く探索して核を見つけてくる。その間姫城はこのまま進んで行ってくれ……いやここで待機でいいや」
「ふむ、よくわからないがわかったぞ」
いつも俺一人で配信しているときはカメラを持って探索するのだがせっかく姫城がいるのだ。探索中は配信を任せてみるのもいいだろう。
≪ナイス
≪姫城さんの戦闘もっと見てみたいわ
≪サクッと見つけてきて
≪かわいい
コメントも上々なご様子だしこれでいいだろう。ただ今まで確認できたモンスターはレッドディアー、モンキーだけというのが気になる。従来ならベアーとかの動物型モンスターが出てくるのだがどうにも種類が少ない。ディアーとモンキーは弱い部類だから別にいいんだけどさ……。
「すぐ戻ってこれるかはわからないけど大丈夫?」
「あぁこの程度ならば問題ないだろう」
だろうな。向こうからレッドディアーの軍団がきているが姫城は気にも留めていない。早速カメラを設置してからフードをかぶる。
「じゃあなるべくここから動かず、さらにカメラから遠ざかりすぎないように戦っていてくれ」
「ふふ、注文の多いやつめ」
そういいながらデカすぎる漆黒の大剣をすらりと引き抜く。ただそれだけの動作が本当に絵になってしまう。きっと姫城はこれからとんでもないことになるんじゃないだろうか。
「じゃ、頼んだぞ」
「うむ」
姫城めがけて突進するレッドディアーを横目に迷宮の核を探しに行く。迷宮には核があってそれを破壊することで攻略完了となり迷宮は消える。まるでそこには何もなかったかのように。迷宮につぶされたはずの建物も人も何もかもすべて元通りになる。理屈ではどうにもならない。災害と同じだ。
しばらく走っているとだんだんモンスターの数が増えてきた。相変わらずディアーとモンキーしかいないが核が近いということだろう。核の近くには大抵ボスモンスターがいてそいつを倒すというのがセオリーだ。スネーク系統やマッドベアーがよく見られるボスではあるな。さて今回は……。
キギィィィ!!!
お、向こうにモンスターが集まっているな。ボスも一緒にいてくれると嬉しいんだが……。
フードを被りなおし慎重に近づいていく。ギフトも万能じゃない。知性の高いモンスターや完全に目があったりしてしまったときはばれてしまうことだってあるのさ。
彼が抜き足差し足でたどり着いた先にはそれは奇妙な光景が広がっていた。木々の中にある少し開けた場所に集まっているレッドディアーとレッドモンキー。その数は20、いや30はくだらないだろう。それら……いや彼らの視線の先には一際大きなディアーにまたがったモンキー!!持っている錆び付いた剣を掲げて何かを叫んでいる。呼応するように狂喜乱舞するモンスターたち。振り下ろされた剣先には気の影に隠れている人間、茨野灰。
え、もしかしなくてもばれてる?まっずいぞ。知性がかなり高いうえに新種のモンスターだな。ただ迷宮の核は見えた。あいつがボスで間違いないがとりあえず雑魚から逃げないと死ぬ。いやまさかばれるとはなぁ。カメラもないのにピンチだよ。骨折り損のくたびれ儲けどころの話じゃないぞ。
一方そのころの姫城さん……
「ふむ、暇だな。灰は元気だろうか」
彼女の傍らにはモンスターの死体の山が出来上がっていた。