第三話 ギフト
「おい、姫城、ちょ、待ってくれ!」
「む、なんだ」
「いや、サクサク行き過ぎじゃない?」
「ダメなのか?」
「うーん問題はないんだけど……」
そう問題がないというのが問題なのだ。これはただの攻略じゃない、配信しているということを忘れてはいけないのだ。ピンチになりすぎて画面が血で染まるような放送事故は論外としても、画面が短調すぎるというのも考え物なのだ。
あの現最強ギルドの『神々の円卓』でさえ可憐に立ち回ったりカメラが追いつくまでとどめは待ったりと工夫しているのだ。それに比べて姫城は何だ。やぁ!とかおるぁ!とか言いながらモンスターを薙ぎ倒していってるだけじゃないか。うん、実に爽快だな!
……じゃなくて!さすがに退屈が勝るんだって!もう三十分もこの状態だ。しかも姫城が早すぎて小走りな分画面がブレブレで見にくい。その証拠にほら、コメントも可愛い!と強すぎwwwと草しかないじゃないか。
「……いや何でだよ!なんで配信開始と同じテンションでコメントしてるんだよお前ら!」
≫いや急にうるさ
≫かわいい
≫お前誰や
≫かわいい
こいつら……。ここの配信主が誰か忘れてしまった諸君がいるようだ。嫌でも思い出させてやろう。
「姫城!ちょっとストップ!こっちきて!」
なんだ?と振り向いて何ともないようにこちらに来る。一応ここ一級迷宮なんだけどな。赤色の軍服のような鎧には返り血一つない、目立たないだけか?
「ちょっと交代だ。カメラ役やってくれないか?ここにカメラがついてて映してるだけで大丈夫、後画面の端に流れてるのがコメントね。まぁ見ている人の感想だと思ってくれればいい」
「ほうほう、了解した」
物珍しそうにスマホをいじる姫城。本当に疎いようだな。迷宮が出現してから急激に発展した魔法技術だから使いこなしている人は少ないけどここまで疎い人はたぶんもっと少ない。まぁ持ってるだけだし大丈夫だろう。
さっきから見ていてわかったがやはり森林型の迷宮は大きいモンスターが少ない。だいたいが凶暴なシカやらサルみたいなモンスターで構成されているのだろう。俺の独壇場だ。俺のギフト【灰かぶり】のな……。
灰色のフードをかぶる。これがトリガー。両手に短剣を構え靴に仕込んだ刃も出しておく。これで四刀流。【灰かぶり】は灰色のフードをかぶることで相手から認識されにくくなるというギフトだ。注視されたり視認されてしまうと台無しになってしまうが最初の奇襲はほぼほぼ成功する。
と、いうことはだ。最初の一撃で殺せるような小型モンスター相手には……。
ズシュッ……ザシュッ……ズブッ……
無敵というわけだ。レッドディアーが6匹。配信映えするように思いっきり血が噴き出る方法で首を切った。その分返り血を浴びてしまったな。【灰かぶり】の寿命が縮まってしまったがこれで姫城に対抗できただろう。
「おーい。ちゃんと撮れてたかー?どうよ俺のギフトは、結構やるもんだろ」
そう言ってひょいと画面をのぞき込んでみるとコメントが恐ろしいことになっていた!
≫姫城さんの使ってる武器って何製ですか?
≫姫城ちゃんって個人配信やってないの?
≫ギフト教えてや
≫https://bokuarasidao.com/userwrittingnovelmanage/updateinput/wno/13827819/
あ、荒れてる……。そして俺のことなんかそっちのけで姫城の質問コーナーが始まっているではないか。いったいどうしてこんなことに……って同接10万⁉そりゃ荒れるわ。
「おぉ、灰!助けてくれ!このコメントっていうのは何なんだ!さっきから質問攻めにあってて困っているんだ!あ、好きな食べ物は春菊だ」
「食の好みが渋いな。じゃなくて!……いや、まぁいっか」
モンスターを相手にしているときはあんなに頼もしかったのにコメント一つで考えられないくらいあたふたしてるぞ。まぁ初めて配信して10万人も集まったらそうなるか。
「にしてもさっきの動きはすごかったな。灰のギフトなのか?」
感動した。やっぱり姫城ってめちゃくちゃいいやつなんだな。天然すぎるところが少々あるけど。10万人の視聴者が見ていなくても見てくれていたなんて……。あとめちゃくちゃかわいい。
「お前ってめちゃくちゃいいやつなんだな……」
ポカーンとしているが姫城と距離が縮まった気がした。……勝手に。