第二話 配信を始めよう
迷宮。それは突然人類の前に現れた産物。そこに善も悪もない。何の前触れもなく建物として現れ、攻略してしまえば何もなかったかのように消え去る。外観は真四角の建物であることがほとんどだが中に入ってみるといろんな環境が広がっている。まさに迷宮と言ったレンガの迷路や凍てつく大地、高貴な城の中など……。
今回は森林型の迷宮のようだな。良かった、得意な方だ。
「配信開始!……とその前に。おい、ちょっと待てって!」
素知らぬ顔で進んでいく姫城を呼び止める。ん?という風に振り返るが配信しないなら一体何しに来たんだこいつは!
「あんた、本当に配信しないんだな?」
「うむ、そのスマホとやらも使い方がよくわからないからな」
「そ、そっか。でも結構な頻度で迷宮に潜ってるんじゃないか?」
「お、そうだぞ。よく知っているな」
よく知ってるも何もこいつ有名人だ、悪い方向に。人が配信しているところに現れてはモンスターというモンスターを蹴散らして撮れ高を破壊する……撮れ高を破壊せし者!こんな奴とこんな大事な場面で……!
「ちなみにだけど、なんで配信しないのにここ来たの?」
「私の友人がな、目的達成のためには絶対出たほうがいい!と言うもんで来てみたわけだ」
「へ、へぇー。ここ来るの結構苦労したんじゃないかな?」
「いや、何回か黒服の男と迷宮に潜ったくらいだな。みんな優しかったぞ」
これが俗に言う無自覚無双か。ここまで清々しいと何も思わないな。というかここにきてもまだ配信しないならマジで何しに来たんだこの女は。
「その目的って何なんだ?『神々の円卓』に入りたいのか?なら配信しないと意味ないと思うぞ」
「いや、私の目的は『神々の円卓』ではない。『おとぎの』の再興だ」
「マジか……」
ギルド『おとぎの』……。迷宮が現れたばかりで世界が混乱していた時に結成された伝説のグループ。まだスマホもなく配信もなかったために全容を知るものは少なかったことが相まって伝説となっている。
ただ『おとぎの』は五年前のあの事故で……。
「本気なのか……?」
「ふふふ、本気も本気。超本気だ」
ふふん、となぜか誇らしげに笑う姫城。でもこうなったら道は一つしかない。こんなところで巡り合えるなんて運命じみたものを感じる。
「じゃあ俺と組んでみないか?俺も『おとぎの』のあの事故に因縁がある。とりあえずこの迷宮の間だけでも……」
「うむ、賛成だ。ただ難しいことは友人に任せてある。ここを出たらまた話し合おうじゃないか」
よし!あのブレイカーと組めたのはデカい!とりあえず早く配信始めなきゃ、結構出遅れてしまった気がする。
俺だって一級のウォーリアーだ。いつもの配信にもだいたい2、300人くらいは来る。今回は大型イベントだからもっと来てくれるはずなんだがどんなもんなんだろう。
「よし、映ってるー?大丈夫そうね。どうもーKAIでございますよー。ごめんなさいねー結構遅れちゃったかも!でもその代わりにサプライズでーす。今回、なんと!あのブレイカーさんと潜りまーす!」
「ふふふ、灰はなかなか面白いな。突然一人でぺらぺらと喋りだしてさ」
こいつ、人が頑張って盛り上げているところに茶々入れやがって。いいから早く自己紹介をしろと促す。
「む、このカメラに向かって話せばいいのか?これはいったいどういう仕組みなんだ?」
何だ何だという風にカメラに近づいてくる姫城。猫の目の前で指を擦ったりしてあげると寄ってくることがあるだろう。あれだ。
「近い近い!軽くでいいから自己紹介だけしてくれ!時間なくなっちゃうぞ」
「む、それはまずいな。私の名前は姫城。そうだな、好きな動物はマンボウだ。よろしく頼む」
会って間もないのになんだか頭が痛くなってきた。自己紹介で好きな動物を最初に持ってくるっていうのはどうなんだ?無難に食べ物とかでいいじゃないか。というかマンボウは魚だろ!いや、魚も動物だから間違ってはいないんだろうか……?
いやいやいや、どうでもいいんだそんなことは。そして今ので再確認できたが姫城はやはり可愛い。最初は美人というイメージだったが可愛い寄りの人間だったな。その証拠にほら
≪かわいいが過ぎる
≪これってあの荒らし?可愛すぎるんやが
≪こーれ可愛いです
≪かわいい
コメント欄も大盛り上がりのようだ。同接は、えっと……1万か!さすがは円卓主催だな、軽く緊張してきたわ。
「おい、時間が無くなっちゃうぞ。早くいくぞ」
「おーわるいわるい」
※ ※ ※
「なぁ今日のさ円卓オーディションおもろいらしいよ」
「あーあれな。正直ジョーワン一択やろ、他に人気な配信者いたっけ?」
「いやそれがさ、ブレイカーが配信してるらしいんだよ」
「えーブレイカーってあの荒らしだろ?なんで今更……見る気しねぇよ」
「まぁまぁ、一回見てみ?ほら」
「え、まって綺麗すぎんか……やば……惚れるわこれは」
「だろ?これはクるね。だってもう同接が……えー……じゅ、10万人……?」
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