すべてのはじまり
迷宮。突如現れ人類に大きなものを与え俺から大切なものを奪った迷宮。
あの悲劇から彼女の時は止まったままだ。
そう、文字通り……。
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「おい、これ、やばくねぇ~?」
緊張感のない声である。人の何倍はあるだろう怪物の攻撃を軽々といなしながら男が言う。
「まぁ覚悟の上さ!誰かが死んじまう前に決断しねぇとな!なぁ、るるる!」
今度は狼男が喋っている。鋭い爪に大きな口で怪物と戦っているではないか。
「名前で呼ぶんじゃねぇ!ぶち殺すぞ!畜生が!」
るるると呼ばれた少女が怒鳴る。赤いフードにマスクで顔がわからないが、その鋭いまなざしは狼男に向かっている。目の前の怪物など眼中にないのだろうか。
「松ちゃん、怒鳴っちゃ駄目よ。……でもここらで潮時かな。みんな、覚悟はいい?」
後ろに一人控えていた灰色の髪をした女性が言う。彼女のひどく落ち着いた声にそれぞれが答える。
「いいよ~ん」
「いつでも来い!」
「うん、やっちゃって」
灰髪の彼女はため息のような深呼吸をすると言った。
「おやすみなさい……」
するとすべてが止まった。飄々と暴れていた男も、声の大きい狼男も、口の悪い少女も……もちろん灰髪の彼女も。
それだけではない。戦っていた怪物、傷口から滴る真っ赤な血、空気の流れまでもが止まっていた。
まるで時が凍ってしまったみたいに……。