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可愛すぎる妻

ストレリチアを労り、愛でるアザレア。

そんなアザレアに対し、何かできることはないかと思ったストレリチアは──




 アザレアは何も言えなくなったストレリチアが哀れだった。


 未だ裏切られた傷が、癒えていないのだ。

 だから、不安で仕方ないのだろう。


 約束を破られ、忘れられた。

 ストレリチアはただひたすら恋人を信じ、約束を守り、己の貞操を守り続けてきた。

 それ故に、傷は深い。


 だからこそ、抱くという選択肢はアザレアは除外したのだ。

 それこそ、ストレリチアの心に傷をつけかねないからだ。


 心と体、両方に傷を負う。

 決して癒えぬ傷を。


 それは己への不信に繋がることをアザレアは理解していた。


 裏切られた時の傷は、未だストレリチアの心に残り、喰い込み、傷をつけている。

 ストレリチアは苦しくてたまらない、不安でたまらないのだ。


 だから、彼女が「裏切られた」と思うような行動をアザレアは避けたかった。

 だが、そればかりを気にしていては、ストレリチアは未だ残る傷によって苦しみ続ける。



 ストレリチアはやっと前に進めた、だが傷が彼女を苦しめている。

 けれども、アザレアは理解している。


 その傷の痛みに打ち勝たなければ、彼女は復讐をすることができない。

 本当の意味で、過去を切り捨てることができない。

 前を見て、アザレアの愛への不安を無くすことができない。


――さて、どうするべき、か――


 アザレアは色々悩んだ結果の末――


「リチア」

「は、はい……」

「……明日の朝、覚悟しておくといい」

「……分かってます」

 アザレアはストレリチアが全く理解していない、勘違いしているのも分かって続けた。

「其方の花嫁衣裳――ドレスの制作に明日から入る。故に、覚悟せよ」

「は?」

 間の抜けた声、表情に、アザレアは笑う。

「式を挙げる為のドレスだ。其方の為のな、ちょうどいい。其方の兄も呼ぼう、妹の祝いの席に全く関わらせないと其方の兄の事だ、其方に対してむくれそうだ」

 何処か引きつり困惑した表情のストレリチアを見てアザレアは彼女の頬を撫でる。

「リチア、大変だろうが、頑張るといい」

「え、えと、その、アザレア様、は?」

「まぁ、私も衣装は作る――が、式で美しくあらねばならぬのは私ではない、其方だ。故に――メイド達の手入れがより厳しくなると思うぞ?」

「う、うへぁ……」

 困り果ててるストレリチアの額に、アザレアはそっと口づけをした。

「という訳だ、もう眠るといい。本当はもっと愛でたいのだが、それは落ち着いてからにしよう」

「……」

 その言葉を聞いたストレリチアは何か考え込むような仕草をしはじめた。





 アザレア様の言葉に、私は若干憂鬱になりつつも、少しの期待が胸を温かくしていた。


 何をお返ししたら、いいのか。

 何をお返しできるのか。


 と、考えたところで、私ができること等少ない。


 少し前まで行っていた手合わせや指導の方に行くことも今はできなくなっている。


 でも、これはアザレア様に直接お返ししているわけではない。

 アザレア様は私に直接声をかけ、気にかけ、手配してくださっているのに、私は間接的にしかできなかったし、今はそれもできない。


 そして私は、体を差し出すという事も今はできない。


 この身一つしかないのに、どうすればいいのだろうと、悩んでしまう。


 考えて、考えて――


 私は、自分からしたことのない事を思い出す。

 少しためらってしまう事。


 けれど、私は少しでも前に進みたい。

 もうあの男の言葉を思い出して傷つくのは嫌だった。


「……アザレア様」

「どうした、眠れな――」

 アザレア様の服の襟を掴んで、首を伸ばして、触れるだけの口づけをした。


 やってしまってから、はしたない女と軽蔑するだろうかと、不安になった。


 アザレア様は、あっけにとられた表情をして、そして口を手で覆って、顔を伏せた。

 肩が震えている。


――ああ、駄目、だったのかな――


 そう考えていると、肩をがしっと掴まれた。

「あ、アザレア、様」

「其方、本当、もう其方は……」

 顔は良く見えない、伏せてるから。


 少ししてから、アザレア様は顔を上げた。

 笑っているが、何か怖い。


「……前言撤回だ、今日は寝かせぬ」

「へ?!」

 アザレア様の言葉に、私の顔は引きつる。

「覚悟せよ」

「え、その、ちょ――?!?!」



 アザレア様の言葉通り、私は寝かせてもらえませんでした。

 約束は守ってくれていたのだけども、約束に含まれてないあらゆることをされた。


――お嫁に行けない――


 いや、もうアザレア様の妻なんだけど、そんな気持ちになった。





「――陛下。許可が出るまで部屋に立ち入るなとはどういう事ですか」

「まぁ、その何だ。ストレリチアにはせぬと言ったが……まぁ可愛すぎたのでな、愛ですぎた結果べそをかかれた。そっとしておいてやれ」

 アザレアは別室でもくもくと書状等に目を通し、ペンを走らせていた。

「――お前達の事だ、其処迄したのなら何故しない、と疑問に思っているだろうな」

「いいえ、そんな事はございません」

 アザレアはペンを置いた。

「余の妻は、体を平気で他の男に開く雌に恋人だった男を奪われたのだ。余は妻に体目当てだとは思ってもらいたくない、それでは妻を裏切ったあの雄と同列になる」

「そのような事は……」

「妻は――未だ深い傷を抱えている、それでも必死に前へと歩もうとあがいている。泣き寝入りするのは楽かもしれない、だが妻は復讐を選んだ。復讐の後に忘れ去るのかどうかは私もしれぬが――妻は、ストレリチアは選んだのだ、愚者共に己を嘲笑った事を償わせてやると決めたのだ、それに不満はなかろう」

「勿論でございます」

 配下の言葉に、アザレアは笑みを浮かべる。

「そう、妻は決めた。そして復讐の種は一つは蒔かれ、芽吹くのを待っている」

 アザレアは配下の方を向いた。

「芽吹くのが楽しみだ」

 アザレアは愚者達が「魔王」と呼ぶ時の笑みを浮かべた、その時――


 コンコン


 扉をノックする音が聞こえた。

「――どうしたストレリチア?」

 アザレアは少し不安そうな声で、扉をノックした存在に語り掛ける。

 ガチャリと扉が開くと、綺麗なドレスに身を包んだストレリチアが入って来た。

 べそをかいた跡がまだ目元に残っており、赤いままだ。

 そんな状態なのに、自分の元にやってきた理由がアザレアは気になった。


――文句なら散々聞いたのだが――


 まだ、言い足りなかったのかと、思いながらストレリチアに視線をやると彼女は静かにアザレアに近づいてきた。

「あのアザ――……モルガナイト陛下。教えていただきたいことがございます」

「良いとも、私が答えられる事なら」

 アザレアがそう答えると、ストレリチアからの質問は意外なものだった。


「あの――初めてお会いした時、私には加護がある、とおっしゃられていたはずです。ですが、私は神殿でそのような加護を持っている等言われておりません、どういう事でしょうか?」


 詳細な説明をすっかり忘れていた、ストレリチアの加護に関する質問だった。








一歩ずつ近づく二人。

そして突如尋ねた加護について、その真意は?

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