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勇者だった恋人を寝取られたので故郷に一人帰ったら……?!

魔王を倒すためにストレリチアは幼なじみで恋人の勇者に選ばれたカインと仲間と旅をしていた。

魔王の国に入る直前、カインから別れようと言われてしまう。


聖女として一緒に来ていた女に寝取られたのを理解した彼女は嫌気がさして、パーティを離脱し村へとドラゴンに乗って一人帰還するが──




 生きていると、何が起きるか分からない、そう思わされたよ……





「――だから別れたい」

 恋人で、勇者に選ばれて、魔王の国の前まで旅をしてきた幼馴染――カインにそう言われて私の頭は真っ白になった。

 カインの隣には、一見大人しそうな申し訳なさそうな顔をしている聖女サマことコーネリア王国の王女ダチュラが居る。





――それ、今いう事?――


 と、この時は思ったが、後々これは「この時言ってくれてありがとう!!」と心の底から感謝することとなるとは思いもしなかった。





 他の仲間達がカイン側にいて頷いている。


 理解できた。


 こいつ等、ダチュラがカインを寝取るのに、裏でダチュラに協力していたんだと。


 最悪だ、と思った。

 あんなに頑張って一緒に戦ってきた仲間に対する仕打ちが、これかと。

「――うん、分かった。じゃあ私此処で故郷に帰るから後は貴方達だけで魔王退治頑張って」

 私は感情的にならないようにそう言って、何とか無表情のまま私の移動手段――他の仲間に懐かなかったドラゴンのローズを呼び出すと、背中に乗っかってその場を去った。





「うわぁあああああああああああああ!!」


 いつも以上の速さで飛ぶローズの背中の上で、私は手綱を握りしめて、泣いた。

 ローズの背中の上は魔法で保護されているので、風圧で落ちる事はない。

 だから、泣いた、泣きじゃくった。



 ずっと一緒だった幼馴染に、裏切られた、仲間に裏切られた。

 全員が私を騙していた。


 その事実に私は耐えられなかった。

 今まで苦しい事は山ほどあったが、信頼してきた味方からの裏切りには耐えきれなかった。


 カインも突っぱねてくれればいいのに、ダチュラからの熱心なアプローチ、あまつさえ夜這いまで受け入れて、そして周囲はダチュラが王女で、魔王を退治したら次期国王になれるなどとそそのかしたりしたり、ダチュラの容姿を褒めて、私の容姿や性格を貶して、そして二人をくっつけたのだ。


 最悪だった。


 名誉なんていらなかった、ただカイン――愛していた恋人が傷つくのがいやだったから頑張ってきた。

 なのに、この裏切り。

 私は割り切ることも耐えることもできなかった。


 故郷に帰るのも辛いが、帰れる場所は其処しかないので私は其処に帰ることにした。


――英雄は色を好むってか?――

――もう勝手にしてよ!!――


 自暴自棄になっていた。





 夕暮れ時、故郷のロメリア村に真上に着くと、村の中央広場にローズを着地させる。

 村人達が皆、何事かとやってきた。

「ど、ドラゴン?! ん? おお、おお、リチアではないか?! ど、どうしたのだ? カインと一緒に旅に出たはずでは?」

 村長が驚いた顔で私を出迎える。

「……明日事情を話します、ですから今日はそっとしておいてください、村長……ああ、この子は私の相棒です、だから安心してください」

「う、うむ。分かった、明日事情を聞かせておくれ」

「はい」

 私は顔を隠したまま答えると、ローズに大人しくしているように言う。

 ローズは頷いて、その場に丸くなり、すやすやと眠り始めた。

「リチアお姉ちゃん、どうしたの?」

「……ごめんね、明日、明日ちゃんと言うから」

 近寄る子ども達に申し訳なさそうにそう答えると、私は早足で、少し離れている場所にある家へと向かった。



 家の扉の鐘をならす。

「……どちら……リチア?! おい、リチアどうした?! 何でそんな泣きはらして?! 何があった!?!?」

 兄が驚いた表情で私を出迎えた。

 兄は私を家に招き入れ、魔装防具を外すのを手伝ってくれ、そして椅子に座らせてお茶を出してくれた。

「……兄さん」

「どうしたんだ? お兄ちゃんにいってみな?」

 兄は優しい口調で、向かいの椅子に座って私に問いかけた。

 どっと、涙が再びあふれ出した。


「仲間に裏切られたああああああ!! カインを寝取られたあああああ!!」


 私はテーブルに突っ伏しながら再び泣いた。



「……リチア、それは辛かったねぇ、辛いねぇ」

 私の叫び声に起きてきたお祖母ちゃんが、私の隣に腰を掛けて、私を抱きしめて、頭を撫でてくれた。

 私はお祖母ちゃんの胸の中でしくしくと泣いた。

「……」

 一通り話を聞いた兄は暫く黙ってから家を出て行くのが音で分かった。


 それから十分も経たない内に、家の扉が乱暴に開くのが聞こえた。

「……?」

「リチアちゃん、ごめんなさい!! 息子が、カインが酷い事をしてごめんなさい!!」

「すまない、リチアちゃん!!」

 そこにはカインの両親――ベルおばさんと、アルスおじさんがいた。

 ベルおばさんは顔を手で覆って泣きじゃくり、アルスおじさんは床に額をつけて私に謝っている。

 ちらりと兄を見れば、兄は何とも言えない表情をしていた。



 結論から言うと、ベルおばさんは私とちょっと似ていた。

 つまり、ベルおばさんも昔偶々この村を訪れた貴族の娘に、恋人を寝取られて連れていかれたそうだ、その上結婚式の招待状迄送られたとか。


――ああ……あの馬鹿実の親の傷えぐったのか……――


 アルスおじさんはその時の事をかなり覚えているらしく、傷心のベルおばさんの人間不信を必死に取り除き、苦労の末結婚し、そしてベルおばさん一筋で、今も尽くす良い夫だ。

 ベルおばさんも、夫であるアルスおじさんの優しさと一途さに何とか立ち直り、そして今も自分を「一番」と愛してくれる夫に献身的だった。

 故に実の息子が、ベルおばさんの過去の傷をえぐる行為をしたことがショックだったようだ。


「ごめんなさい、リチアちゃん、本当にごめんなさい」

 泣くベルおばさんに、私は何も言えない。

「申し訳ない、リチアちゃん。本当に、本当に申し訳ない」

 謝るアルスおじさんに、私は何も言えない。

 だって、二人は悪くないのだ。

「……あの、村長には」

「言ってください、私はカインを――いや、あの馬鹿を勇者とも息子とも扱わないことにする!! アイツは妻の心の傷を抉り、リチアちゃんを裏切った!! 私にはそれがどうしても許せない!!」

 私は、おばさん達は息子を擁護すると思ったけども、違った。

 二人は擁護しなかった、それが少し救いだった。

 なのに、私の頭の中で何かがざわめいているような感覚がおきて、それが苦しかった。



 翌日、兄とベルおばさん、アルスおじさん、私で村長の家を訪れ、全部話した。

 村長はがくりとうなだれ、村長の奥さんは顔を真っ赤にして怒り、息子さんは顔を引きつらせている。

 何故かと思って、少し考えて思い出した。

 ベルおばさんは村長と親戚なのだ。

 つまり、ベルおばさんの事件の事をよく覚えているうえ、村長はベルおばさんを自分の娘のようにかわいがってきたのだ。

 村長の家の息子は一人だったし、村長の息子はベルおばさんを姉のように慕った。


 その時の事件と同じような事態を――よりにもよって村の誇りとして送り出したカインが再現してしまったのだ。


「……カインが今後村に戻ってきても、見知らぬ他人として扱おう、決して祝福などせん。死んだとて死体を求めぬ、ワシらはあの馬鹿者とはもう無縁だ」


 村長の重い声に、私以外の全員が頷いた。


 ああ、私には味方がいるんだと、少しだけ安心できた。





 そして、私が村に戻ってから七日が経った。

 その間私は家の仕事や村の仕事を手伝ったりして日々を過ごしていた。

 兄が余計なことを考えない様にと次から次へと私に仕事を押し付けるので、有難かった。 だが、僅か七日の平穏は突如破られた――


 血相を変えた、この国の――リュヒテル王国の兵士が私を訪ねてきたのだ。


「勇者カイン・ジュダス様と共に旅に出た村娘――いえ、魔法剣士ストレリチア・アウイナイト様ですか?!」

「……はい、元、ですが」

 聞きたくない名前に眉を顰めつつ、私は畑仕事の手を止める。

 兄は渋い顔をしてこちらを見ている。

「私に何の用でしょうか?」

 兵士は青い顔のまま、私に近づき耳打ちした。

 その声は震えていた。


「――勇者一行が敗北し、捕えられたと――」


「……は?」

 予想もしてなかった内容に、私は間の抜けた声を出した。





恋人を寝取られ、仲間に裏切られたストレリチア。

だけども、元仲間が捕まったと知り、どう行動するのでしょうか?

もしくは行動せざるえないのでしょうか?

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