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しん君とハットリ君

作者: ハシバミの花

お笑いコントです。

 暗闇

 ホーホーとフクロウの声

 舞台の上手(かみて)から、ハイキングの格好をしたハットリが現れる。


ハットリ「久しぶりの山歩きに夢中になって、こんなに暗くなってしまった。早く山を降りないと、土地勘のある自分といえど遭難してしまうかもしれないぞ」


 おそるおそる周りを見渡しながら、舞台中央に進むハットリ。


しん君「ばあ」

ハットリ「うわああああああああああああああああ!」


 スポット照明に照らされたしん君の顔が、唐突に自分の顔の真横にあらわれ、ハットリが仰天する。


ハットリ「うわーびっくりした! 何? 何でそんなとこに潜んでんの?」


 胸元に持った懐中電灯をしきりに明滅させて自分の顔を照らすしん君。


ハットリ「はいカチカチしない懐中電灯をカチカチさせるのやめて顔怖いから」

しん君「ねえ君、誰?」

ハットリ「お前こそ誰だよ。こんな夜更けに山に潜んで」

しん君「僕のこと知りたい? ウフフ」

ハットリ「ウフフじゃない。誰」

しん君「僕ねー、僕しん君!」

ハットリ「しん君って、四十がらみのいい年した男が」

しん君「四十じゃないよ! 僕クレヨンしん君」

ハットリ「自分のことオラって呼んでみてくれる?」

しん君「君の名は?」

ハットリ「なんかやだな、男からその聞かれ方するの。俺か、俺はハットリ」

しん君「ハットリ君」

ハットリ「何?」

しん君「ばあ」

ハットリ「はい顔カチカチしない懐中電灯おろして」

しん君「ねえハットリ君、僕といっしょにこの下山コースをアバンチュールしようよ」

ハットリ「下山をアバンチュールしないし、いっしょに歩かないよお前みたいな得体の知れないやつとは」

しん君「ハットリ君意地悪だね。僕をこんな暗い山の中においてゆく気なんだ……」

ハットリ「ええ~……わかったよ案内するよ。そんな普段着でこんな山奥に来て、どうせお前、山の歩き方も知らないんだろうし」

しん君「お、せいかーい。さすがはハットリ君ー」

ハットリ「いやそんな、君ってよく観察してるゥーみたいな顔してチクチク指差されても腹立つわ」

しん君「昨日はねーすっごい慌てて宿を出たから、山越えの準備してなくてちょっと迷っちゃった」

ハットリ「まさか昨日から山いるの? ご家族心配してない?」

しん君「友達すっごい心配してると思う。いっしょに来たサカイ君とかホンダ君、途中でいなくなってるし」

ハットリ「遠足ではぐれたのか……その年でそのオツムの出来じゃ親御さんも心配するだろうなあ」

しん君「父親はもう死んでるから平気!」

ハットリ「ぜんぜん平気じゃないよね!」

しん君「それも殺されたってさ!」

ハットリ「朗らかに言っちゃったよ!」

しん君「いえーい」

ハットリ「イエーイじゃないよ、なんだそのバッチグーみたいなゆっくりサムズアップ。ウインクもやめて……もう黙ってついて来いよ。ちゃんと安全な場所まで案内するから」

しん君「ハットリ君、いい人だね」

ハットリ「よく言われるよ。好きになった女の子から」

しん君「ウフフ、ハットリ君、もてないんだね」

ハットリ「ウフフ、しん君、ちょっとのあいだお口チャックしようか」

しん君「お口チャック!」


 暗転し、足音が響く。

 再びライトが照らすと、二人は舞台中央で足音にあわせ歩いている。


しん君「ハットリ君は、お家どこなの?」

ハットリ「近所だよ。山降りてすぐ」

しん君「今晩泊めてよ」

ハットリ「ああ、もう時間も遅いもんな。いいよ。うち田舎だから家は広いし」

しん君「友達んちに泊まるの久しぶりだ。僕ね、友達の家に泊まるの得意なんだ」

ハットリ「友達の家に泊まるの得意ってなんだよ。そんなやつ、いるのかよ」

しん君「子供のころから大人になるまでずーっと友達んちで泊まってたから、僕!」

ハットリ「いたよ! 驚き禁じえないほど得意だったよ! そんな才能この世に存在するんだね。感心したわ!」

しん君「でも大人になって渡り歩いた友達二人、ケンカしちゃって、生き残ったのオダ君だけだった」

ハットリ「オダ君怖いなー。相手死んじゃってるよー。こいつのそばにいるのやだなー」

しん君「あのころは楽しかったなー。でもそんなオダ君もついに、てんてんてん」

ハットリ「テンテンテンじゃないよ? オダ君どうなったの?」

しん君「でね、みんなでわーって山登って降りてくる途中で、山狩りにあっちゃって、みんなでわーって逃げて」

ハットリ「山狩りにあっちゃったんだ! 話ずいぶん飛んだね! それは怖いよね! オダ君もそこにいたのかな?」

しん君「気がついたらハットリ君おびやかしてた」

ハットリ「ああそうだね! 散々におびやかされたわ! そんな軽い思いつき一つで俺はあんなに驚かされたのか……はい怖いから顔に懐中電灯カチカチしなーい」

しん君「ハットリ君いい人でよかった。今夜の宿も取れたし。女の子にはもてないし」

ハットリ「しん君ちょっとお口チャックしようか。はいホッペふくらまさないでークチビル震わせてブーって音鳴らさないでー。君本当いくつよ」

しん君「んー満年齢で39歳!」

ハットリ「なんで満年齢?」

しん君「だって数え年だと40歳じゃない。僕40歳になんて死んでもなりたくない」

ハットリ「お前は子供か。ボブ・グリーンか」

しん君「ボブ誰? ボブ、友達?」

ハットリ「40歳になりたくないって言って、お誕生日おめでとうの電話に出なかったやつだよ」

しん君「ふーん、ハットリ君物知りだね。ちょっと賢くなった。ありがとう」

ハットリ「どういたしまして」

しん君「ハットリ君いくつ?」

ハットリ「……満年齢で、40歳」

しん君「……ごめんね、僕ハットリ君を傷つけるつもりなかった」

ハットリ「いいよ、お前が嫌がってたから言いにくくなってただけだし。別に40歳とか気にしないし。怒ってないから慰めるようにそっとつかんだその手をはなして」

しん君「でも目元に涙にじんで」

ハットリ「ないから! たとえ涙にじんでも、そこはそっと見逃すべきとこだから!」

しん君「ハットリ君、あれホタルかな?」


 しん君が前方を指す。


ハットリ「んん? いや、まだ六月頭だから季節じゃないしホタルはあんなに光らない」

しん君「……じゃあさ、山狩りかな」


 遠くから、オオウオオウと届くときの声。

 ハットリが緊張した面持ちでしん君を見る。


ハットリ「おい、あれ追っ手のかがり火か。お前、山狩りにあったって言ってたよな」

しん君「言ってない」

ハットリ「言ってたよ」

しん君「言ってたとしても僕じゃない」

ハットリ「言ってたとしたら、お前だよ(笑)。他に誰いるんだよここに」

しん君「意地悪。ここにハットリ君がいるじゃない」


 見つめ合う二人、秒針の音が三つ響く。


しん君「ハットリ君そのいやらしい目、僕の肉体を狙ってるね? イヤン」

ハットリ「そんなワガママボディとワガママメンタル、俺の手にはもてあますわ」

しん君「僕、自分がセクシーだって知ってるから。ワオ、モーレツ」

ハットリ「うん何かなそのポーズ。二足歩行覚えたトドかな? 気持ち悪いゴマカシしなくていいよ。言いたくないんだろ? 密告したりしないしちゃんと泊めてやるし、安全なところまで送ってやる。最初にそう約束したろ」

しん君「ハットリ君、いい人だね」

ハットリ「女の子にはもてないけどな。しかしやばい数のかがり火だな」

しん君「ねえハットリ君」

ハットリ「なに?次は何なの?」

しん君「僕、かがり火が迫ってくるの怖すぎて、うんちもらしちゃった」

ハットリ「何か臭うと思ったわ!」

しん君「ちゃんと家に泊めてね」

ハットリ「うちにあがる前に、玄関の蛇口でお尻洗えよ」

しん君「玄関に蛇口あるんだ! ハットリ君ちすごいねー」

ハットリ「田舎だからな。蛇口とトイレと畑だけはあっちこっちにあるよ」

しん君「田舎ってすごいね。この山なんていうの?」

ハットリ「山? 知らないよ。あっちが小川城で向こうが亀山」

しん君「へー。じゃあこの電柱はきっと亀山モデルだね!」

ハットリ「きっとそうだね!」

しん君「ハットリ君!」

ハットリ「何! 山狩りにあってるのにお前声大きいよ!」

しん君「僕の画像撮ってよ!」

ハットリ「え、なにその横ピース」

しん君「撮って! 撮って! うんちもらしたとこ撮って!」

ハットリ「シモネタ大興奮って小学生か! スマホしかないけどいい? 判ったよ。はいチーズ」

しん君「フンヌ!」


 しん君、シャッターのタイミングですごい顔をする。


ハットリ「うわ、なんだこの顔、めちゃくちゃ不機嫌じゃん。しかも何で片足空気イス?」

しん君「わーよく撮れてるー。この画像ちょうだい。あとで絵描き呼んで描かせようっと!」

ハットリ「そのしかめっ面を? モデル悪くね?」

しん君「シカミ顔って言って。モデル最高だし、ハットリ君すぐ意地悪言う」

ハットリ「好きにしたらいいけど、横ピースだけはやめとけ」

しん君「分かった。横ピースはなしにする」


 着信音。


ハットリ「あ、ごめんLINE入ったからスマホ見させて。お、やった! 祖母ちゃんがご馳走用意してくれるってさ」

しん君「本当? 嬉しい! ねえこの辺の名産って何? タイのてんぷら?」

ハットリ「この辺? 有名なのはエビとか牛かな。何でタイ?」

しん君「タイ大好き。生で食べたいぐらい」

ハットリ「おどり食いか。死ぬぞ」

しん君「シェキシェキ」

ハットリ「いやおどり食いっておどって食うもんじゃないし」

しん君「あー楽しみだなー。おいしいお酒、あるかなー」

ハットリ「お前、そのずうずうしいとこ直さないとそのうち友達なくすぞ」

しん君「友達は多いから平気! ハットリ君はいい人だから、僕が出世したら玄関のお守りまかせるね。入り口にハットリ君の名前付けてあげるよ!」

ハットリ「……マサナリ入場口?」

しん君「ハットリ君、思ったとおりに古風な名前だね」

ハットリ「思ったとおりは余計だよ」



 山を降りる二人。遠ざかる足音。

 舞台暗転。

 照明が点くと病床に伏しているハットリと、その枕元に見舞うしん君の姿。



しん君「半蔵、半蔵、気は確かか?」

ハットリ「……これは、殿。ご足労を、かけましたな」

しん君「そのままでよい。お前が倒れて、うわ言を語り始めたと聞いたのだ。足労などであるものか」

ハットリ「出会ったあの夜の事を、思い出しておりましたよ、家康様。信長めが光秀に討たれ、殿が大坂をお逃げになった、あの伊賀越えの道々を」

しん君「で、あろうな。貴様のうわ言、しばし聞いておった」


 しん君が可笑しげに笑う。


ハットリ「あれから、様々ありましたが、殿、どうやらここまでにてござる」

しん君「寂しいことを言うな半蔵。今しばらく、この家康を助けよ」

ハットリ「好物のタイ、きちんと火を通されませ」

しん君「嫌だよ。タイを食べるなら、やっぱり生が一番おいしいし」

ハットリ「しん君。悪食で死んだら、お腹痛の泣き顔を撮らんと、地獄でスマホを構えて待っておりますよ」

しん君「ハットリ君。君は最期まで意地悪でいいやつだね」



   おしまい

※この物語は、徳川家康の神君伊賀越えの逸話をもとに、多くの俗説を混ぜて構成されております。

 作中の知識の開陳による社会的信用の毀損等の保証には、一切応じられませんのでご了承ください。

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