透明人間の独白
初めての方は初めまして、そうでない方は二度目まして。
solaと申します。
今回はある青年の独白です。
彼の話を聞いてあげてください。
へぇ、俺の話が聞きたいのか。いいよ、俺も誰かにぶちまけてみたかったし。
相当面白くて興奮する話だぜ、面白すぎて欠伸が出るし、興奮しすぎて聞く気をなくしちゃうかもな。←に指かカーソルを置いておけよ?
じゃあ、始めようか。
小学生の時、俺は神童だった。
今やどれほど頭が良かったのかなんて覚えていないが、とにかく解けない問題はなく、どんなテストでも一番だったことを覚えている。親も先生も、親戚も、大人はみんな褒めてくれた。テストの時間が楽しみで、テスト返しの時間がその次に楽しみだった。
中学生になって、俺は天才だった。
中学に上がっても何も変わらない。学校のテストに解けない問題なんてない。クラスメイトから勉強を教えてくれと頼まれ、先生よりわかりやすいとおだてられる。勉強を教えた相手は内心見下していて、どうして同じ授業を受けてこの問題が解けないのかがわからなかった。
ただ、3年生になり受験を控えた年、模試を受けて自分でも解けない問題があること、そしてそんな問題を苦も無く解く人がいることを知った。
高校生になった俺は優秀だった。
県内トップレベルの進学校に意気揚々と進学した俺は、自分程度の人間は特に珍しいものではないことを知った。学校のテストではクラス順位で自分の上に5~6人が並ぶ。今考えてみると悪くない順位だ。しかし当時の俺は自分の意義が、アイデンティティが、崩れていくような感覚を覚えた。
俺は必死で勉強した。結果クラスで6, 7番目だった順位は学年で6, 7番目となり、俺はどうにか俺を保つことができた。しかし俺には確実に敗北が刻まれ、徐々に自分を小さく評価していくようになっていった。
大学生である今、俺は、俺は何者でもなかった。
いつか言われた「神童」だの「天才」は過去の話、今の俺はどうにかして平均レベルの成績をつかむことに必死の量産型大学生だ。
周りを見る。みんな勉強ができるのは当たり前。その上各々で好きなものだとかできること、やりたいことに打ち込んでいる。俺から見るとさ、好きなものに打ち込んでる奴って光って見えるんだよ、鮮やかな色っていうかな…とにかく俺とは違うってわかるんだ。
俺か?もうわかるだろ?無色透明、何色でもないさ。打ち込めるような趣味も自慢できるような特技もない。グレースケールの世界を大した理由もなく過ごしているよ。
俺みたいな奴は、虎になっちゃうんだってさ。虎になって、人語を忘れて兎を食べて、友達に詩を読んで、それで、ゆっくりと死んでいくらしいぞ。
もしかしたら、そうなったほうがいいのかもな。このまま何者にも何物にもなれず、ボロボロにすり減ったプライドの亡骸を引きずりながら地を這うように人生を浪費するより、虎になって野生そのままに生きる方が楽しいかもしれない。
俺は今まで神童やら天才だったことはあるが虎になったことはないからな、もしかしたら向いているかもしれないしな。なんて…
ねぇ、誰か俺を認めてくれよ。誰でもいいんだよ。地球には77億人の人間がいるんでしょ、1人くらい、1人くらい。
俺は頑張ったよ、そりゃもっと頑張っている人はいるだろうけど、俺なりに、自分なりに頑張ったんだよ。結果はこのざまだけど。誰か、褒めて、認めて、見つけて…
あぁ、わかってるよ、わかっているんだ、俺なんだろ?俺を見つけてくれる「誰か」を見つけるより、俺が、この空っぽな透明人間を見つけて、認めてやらなきゃいけないんだよな。
本当は知っていたんだ、自分で自分をほめることが必要だって。でも今まではそんなことしなくてもよかった、だってテスト返しで十分だったから。でも、だんだんテスト返しじゃ十分じゃなくなってきて、誰も自分のほめ方なんて教えてくれなくて…
でも、そうだな、ずっと俺を見てきた俺なら、俺を見つけてあげられるかもしれない。
これからは俺が俺を褒めてあげるんだ、いいところを沢山見つけてやるぞ、いろんなことに挑戦してみようか、好きなものをもっと好きになるんだ。好きなもの、好きなもの… 俺は何が好きなんだ?
…好きなものなんて思いつかないな。いや、それどころか、俺は何が嫌いなんだ?子供の頃は好きなものも嫌いものもあったのに…いつから「好き嫌いのない」大人(子供)になっていた?そんなわけない、そんなわけない!俺は、だって、ゲームは!最近しなくなった、アニメ!見たことあるものを見直しているだけ、動画は、ただの暇つぶし、見たくて見ているわけじゃない…
そうか、俺は「やらなければいけないこと」と、「やるべきこと」しかしてこなかったから、「やりたいこと」「好きなもの」を見つけられなくなっていたのか、そういえばいつからか心が辛いだとか、嫌だだとかエラーを吐いても無視するのが上手になったな、エラーはエラーだものな、無視すればこうなっちゃうか。
よし決めた、まずは好きなものだ、俺を着色するために、世界を着色するために、俺の好きなものから探していこう。今まで無視してきてごめんな、一番近くにいたのにお前の声を聞こえないふりしてきた。これからは大事にしていくから、俺を、許してくれないか?
ああ、ごめん。君のことを置いて行ってしまったな、俺一人が喋ってばかりだったものな。でも、ありがとう。君のおかげで俺は少し前に進めそうだよ。もし、もしでいいんだ、また俺の話を聞いてもいいと思ったならまたここに来てほしい。今度はもう少し面白い話ができそうなんだ。
読んでいただきありがとうございました。
それにしても創作は難しいですね。でも、だからこそ、面白いですね
また別の作品を読んでいただけたら嬉しいです。