信じられないかもしれませんが、そのなんでもお金で解決しようとするちょっとズレてるお嬢様が俺の彼女なんです
「好きです、付き合ってください」
放課後に体育館裏に呼び出しを受けて、まさかと思ったら本当に告白だった。
お相手は白百合陽菜。白百合グループの会長の孫娘で正真正銘のお嬢様だ。
何を隠そう俺、佐々木勇太郎は彼女の事が好きなのだ。
品行方正。どんな人にも分け隔てなく接して、白百合の様な笑顔も素敵だ。学校で一番人気な女子が白百合さんだ。
正直、告白されるのはメッチャ嬉しい。
「も、もちろんだよ!」
「本当ですか! ありがとうございますっ」
白百合さんがにこりと嬉しそうに微笑んだ。
「これからよろしくお願いしますねっ」
「うん!」
ああ、可愛いなぁ。
細指を合わせて嬉しそうに笑うその姿はまさしく芸術作品の様だ。
こんな人と付き合えるなんて夢の様だ。
「ではとりあえずーーーー」
足元に控えて置いてあったアタッシュケースを開いた。そこには大量の諭吉さんがいて。
「一億円ほど用意しました」
「なんで!!?」
思わずツッコんでしまった。
白百合さんは不思議そうに首を傾げて答えた。
「恋人料ですが?」
「恋人料!?」
何その単語、聞いた事ない!
「私なんかと恋人になってくださるのですから、恋人料を払うのは当然の事かと…………はっ、もしかして足りませんでしたか? なら後二箱は用意できるので今すぐにーーーー」
「ちょ、待って待って!」
「何でしょうか?」
「恋人料は、普通は無いよ!」
「そうなんですか!?」
「そうなんです!」
「恋人料を払うのが普通だと思っていたのに……!」
白百合さんは心底驚愕してるみたいだ。
ていうかあと二箱って三億円じゃん。
恋人料なんて聞いた事ないし、三億円なんてもっと聞いたことないよ。
「ですが、なら私はどうすれば? 佐々木君とずっとお付き合いしたいのに……」
多分、白百合さんの家庭の環境が影響してるのかな。
大人の世界はお金の関係が多い。お金が無くなって、それまで仲良くしていたのに急に態度が変わる、なんて事は日常茶飯事だったんだろう。
そういうのを目の当たりにして、白百合さんはお金を払わないとみんな離れていくと思ったんだ。
恋人になる俺の事も。
でもそれは間違ってるよ。白百合さん。
「んー、そりゃあお金は大事だけどさ。恋人に一番大事なのは好きって気持ちだと思うよ」
「好き……?」
「えっとさ、白百合さんはその、俺のこと、す、好きなんだよね?」
「もちろん、大好きです!」
そんなに真っ直ぐな目で言われても照れるな。
「俺も好きだよ」
「はうっ!」
「じゃあさ、白百合さんは俺と付き合って何がしたいの?」
「え、それは……一緒に登下校したり、一緒にご飯を食べたり、一緒にデートにいったりーーーー」
「それってさ、白百合さんはお金目的で俺と付き合ってるわけじゃないでしょ?」
「も、もちろんです! 私は佐々木さんが好きでお付き合いしてるんです!」
「俺もだよ」
はっ、とする白百合さん。
白百合さんも同じ気持ちなら、俺の気持ちも分かってくれただろう。
「俺はお金が欲しいから白百合さんと付き合いたいわけじゃないよ? 白百合さんと一緒にいたいから、白百合さんが大好きだからお付き合いしたいんだ」
「っ、はい……」
「だからね恋人料はいらないよ? 俺は白百合さんと付き合って、イチャイチャしたいだけなんだから」
「わ、私もイチャイチャしたいです!」
「一緒だね」
「そうですね」
二人で笑い合った。
そうだよ、結局のところ付き合いたい=イチャイチャしたいなんだから。
お金がなくてもイチャイチャは出来るんだ。
「じゃあとりあえず、一緒に帰ろうか」
「はいっ!」
その日、俺は白百合さんと手を繋いで一緒に帰った。
真夏日のせいなのか、俺と手を繋いでいるせいなのかは分からないが、白百合さんの頬は赤く染まっていた。そしてそれは俺も同じだった。
次の日、俺はとんでもないものを目にした。
「ねえ、白百合さん、今月の友達料まだなんだけど?」
「遅れたから延滞料もちょうだいね〜」
屋上に続く普段は誰も来ないような階段にいたのは、昨日から恋人になった白百合さんと取り囲むギャル風の女達だった。
「ご、ごめんなさい、これでいいですか……?」
そう言って白百合さんは財布の中から数枚の諭吉を取り出して渡した。
「うん、いいよ!」
「これで今月も私達は友達ね!」
「は、はいっ!」
そう言って女達は去って行った。
白百合さんはそれでも嬉しそうに笑って手を振って見送っていた。
俺はあまりの驚きにその場で立ち尽くす事しか出来なかった。
その日の昼休み。
白百合さんと一緒に食べる約束をしていた俺は屋上のベンチに座って、さっそくさっき見たものを切り出した。
「白百合さん、さっきのって……」
「ああ、見ていたんですか? あれは友達料ですよ」
「友達、料…………?」
「友達には月にお金を払わないといけないんですって! でも今月は払うのが遅れてしまって、あと少しです友達じゃなくなるところでした」
っ、その瞬間俺には怒気が湧き上がった。
白百合さんは嬉しそうに友達料の事を話すんだ。
そんなのは、ありえないんだよ。
友達料なんて普通は思い付かない。友達になるのにお金なんていらないんだ。
俺に恋人料を払おうとしたみたいに、多分白百合さんは家庭環境の影響でお金で解決しようとしてる。
それを逆手にとって、ただ友達が欲しいだけの白百合さんの気持ちを弄ぶ事を俺は許せなかった。
「白百合さん、それは間違ってるよ」
「え……?」
「よく考えてみて。白百合さんの周りにお金を求めて来る人ばかりなの?」
「い、いえ、受け取って貰えない事もあって……」
「ならその人達が本当の友達だよ」
そうだよ、みんながみんなそうじゃないんだ。
お金が欲しいじゃ無くて、純粋に白百合さんと友達になりたい人だって沢山いるんだ。
「もうアイツらにはお金を払っちゃだめだよ」
ぽろぽろと涙を溢す白百合さん。
きっと怖いんだ。お金を払わなくなって友達が離れていくのが。
「大丈夫だよ、白百合さん。お金が理由で離れていく奴なんて、友達じゃないんだ。お金じゃなくて白百合さんと友達になりたい人も沢山いるよ」
白百合さんの不安が落ち着くようにぎゅっ、と抱き締めてあげる。
「はあ!? もうお金を払わないってどういう事よ!!」
俺達は白百合さんにお金を要求した女のところまで来ていた。
女、飯田さんが机を強く叩いてその音に驚いて白百合さんもびくっとなる。
駄目だ。怖いのはわかるけど、はっきり言わないと。
「その、友達は、お金を…………」
「はあ!?」
「ひうっ!」
「ウチらはアンタなんかと友達になってやってんのに、何よその態度!」
お前こそ何だその態度は俺の彼女に何言ってんだぶち殺すぞ、とは言えない。
これは白百合さんが拒絶しないと意味がない事なんだ。
拳を握り締めて我慢する。
「わた、私は……私は、友達料は払いません!」
教室の外にも聞こえるくらいの大きな声で拒絶した。
流石にここまでハッキリと拒絶されるとは思ってなかったようだ。
「なっ、何よ! ウチらとは友達じゃなくて良いって事!?」
「ふざ、ふざけんなし!」
飯田さんともう一人の女も声を上げた。
二人とも猛烈な顔をして逆ギレしている。
と、その時だ。
「ふざけてるのはそっちでしょ!」
ガタンっ、と一人の女子が立ち上がる。
「白百合さんに何て事言ってるのよ!」
「は、はあ!? こんな女と友達になってやってるんだから友達料くらい当然でしょ!?」
「そんなわけないでしょ! お金を払って続く関係なんて恋人じゃないわよ!」
「そうだ!」「そうよ!」と聞き手に回っていた周りの生徒達も立ち上がって飯田さんに抗議の声していく。
完全な飯田さんのアウェイだ。
「くそっ、ウチらは悪くないからな!」
「バカ! ブス!」
捨て台詞を残して逃げる様に飯田さん達は教室から飛び出して行った。
すると最初に立ち上がった女子生徒が白百合さんのところに集まって。
「白百合さん、私達はずっと友達だよ?」
「ありがとう、ありがとう……っ!」
その後も教室のみんなが泣いている白百合さんのところに集まって励ましたりした。
今日、白百合さんに本当の友達が出来た。
お金で続く仲ではない、本当の友達だ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
短編での投稿ですが、多くの反響を受けると連載版の投稿も考えております。また作者のモチベーションアップにも繋がりますのでブックマークや高評価、感想など是非よろしくお願いします。