竜族の起源と進化の歴史
ワイバーン、龍、ドレイク…
この世界で、いわゆる「ドラゴン」と呼ばれる生き物には共通の祖先が存在する。
それが、古竜と呼ばれる生物である。
古竜は我ら人族が生まれるよりもずっと遠い昔、この世界の生態系の頂点に立った生物であり、大きく分けると三つの種族に分類される。
ヒレ状の手足を持ち、水中生活に適応した「古代水竜種」
腕と一体化した翼を持ち、空を飛ぶ「古代飛竜種」
発達した足を持ち、地上を支配した「古代地竜種」
古代水竜種と古代飛竜種の手足は体の側面から生えているのに対し、古代地竜種の手足は体の真下に生えている。これは、地上で巨大な体を支えるためではないかと推測されている。
古竜たちはかつてこの世界で繁栄を極めた種族であった。
しかし、ある時期を境に姿を消してしまったのである。
だが、今からおよそ五千年前に起きた大規模な魔力爆発によって引き起こされた時空間の乱れにより、彼らは再びこの世界に姿を表した。
当時の大気中の魔力濃度は現代の約10倍であるとされ、高濃度の魔力を長期間吸収し続けた古代たちは恐るべきスピードで進化を繰り返し、今からおよそ二千年ほど前に現代の竜族と近い姿へと変化したとされている。
また、ほとんどの竜族の喉元に存在し、周囲の魔力を取り込み火や水のエネルギーに変える器官である換魔孔もこの時期から大きく発達し始めたとされている。
古代水竜種には大きく分けて二種類の姿が存在する。
体と同じくらい長い首を持つ首長族と、強靭な顎を持つ海竜族である。
首長族は魔力爆発からおよそ千年後を境に龍と水竜の二つのグループに分離したとされている。
一部の首長族は餌を求めて活発に陸上へと上がり生活するようになった。やがて、首長族のヒレのような手足は陸上生活にも適応した形となり、体も細長い形状へと変化していった。
だが、この段階ではまだ古竜の頃の面影を色濃く残しており、現在の龍とは大きく異なる姿だったと言う。
しかし今から四千年ほど前、一部の個体に魔晶体と呼ばれる特殊な器官が備わった。これは周囲の魔力を自在に操ることが出来る器官であり、これを利用し飛行を行うことが出来るようになったのである。
龍は翼が無くとも空を飛ぶことが出来るのはこの魔晶体の力によるものとされ、現代では一般的に魔晶体を持つ竜族を龍と定義している。
また、体の側面から生えた龍の手足は首長族から進化したことを示す痕跡の内の一つである。
そして陸に上がること無く水中で生活し続けたものは水竜と呼ばれる生物へ進化した。長い首と発達した手足は首長族と変わらないが、水竜は首長族のものよりもはるかに長い尾と頭上に一本の長いツノを持つ。
その美しい姿から古来よりその姿を象った装飾品が数多く作られたり国の象徴として国旗に描かるなどとして親しまれており、現在でも水竜をシンボルとしている国は存在する。
海竜族は当時から姿を変えず、現代でも広範囲の海域に生息している。
しかし今から二千年ほど前に水竜との交雑により、一部の個体が細長い形状へと進化したのである。水竜の細長い体と海竜の凶暴さを併せ持ったこの生物はシーサーぺントと呼ばれる。
その細長い形状は龍に酷似しているが、シーサーぺントは魔晶体を持たない完全水生の竜族であり、龍とは全く異なる種族である。
古代飛竜種はワイバーンの祖先となった種族である。
かつての古代飛竜種の尾は短く、現代のワイバーンとは大きく異なる姿であったとされている。なぜ最初は短かった古代飛竜種の尾が長くなったのかについては未だ解明されておらず、今でも研究が続けられている。一説によれば、この長い尾は空中でバランスを取るために発達したのでは無いかと推測されている。
実際に、通常のワイバーンと病気により尾を失ったワイバーンの飛行を比べた実験を行った際には尾の無い個体は無風の状態では通常の個体とほぼ同程度の飛行能力を発揮したものの、強い風が吹く場所では通常の個体と比べると安定感が著しく低下したという。
古代地竜種は竜族の中で最も一般的な種であるドラゴンの祖先となった種族である。
二足歩行で鋭い牙を持つもの、硬い鎧のような鱗に覆われたもの、背中に帆のような構造をもつもの、非常に長い首と尾を持つものなど、古代地竜種は他の古竜と比べると遥かに多くの姿を持つ。
そして、この内背中に帆のような構造をもつものがドラゴンに進化して行ったとされている。
この帆は本来、体の表面積を増やして体温を調整するために使われていたのでは無いかと推測されている。最初は一枚だけだったが進化を繰り返すうちに背中に二枚の帆をもつ種族が出現した。この二枚の帆がドラゴンの翼の原型となったとされている。やがて、この帆は角度や向きをある程度自由に変えることが出来るようになり、四千年前頃から高所から飛び降りる際に帆を横向きにして滑空する種族も現れはじめた。
そして、この滑空のための帆を持った種族の出現を皮切りに、竜の背中に帆は体温調整のためでは無く、飛行のためへと進化していくようになったとされている。
そして何世代もの進化の果てに、竜はようやく自由に空を飛ぶことが出来るようになったのである。
翼を得たドラゴンは餌を求めて活動域を広げ、火山・高山・雪原・砂漠などの様々な環境へと適応して行った。
なお、一部ではケツァルコアトルやナーガなども竜族の一部とされることがあるが、彼らの祖先は古竜とはまた違ったものであり、分類上では全く異なる生物である。
初めまして、あるえるむです。私の妄想と空想全開の文章を最後まで読んで下さりありがとうございました。
自分が初投稿の未熟者というのもあるのですが、まだまだ2300文字にも満たないの短編なのに、想像していたよりもずっと書くのが大変で、改めて長編小説を書く人たちの凄さを実感しましたね。
いずれは長編ファンタジー小説も書きたいとは思っているけど、本当に出来るのか私…?