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閑話6 再び眠れぬ夜

【ルシール視点】 再び眠れぬ夜



 『夏の日』が終わった後、アンブロシス様から至急シュテフィを連れて王宮に来るようにと知らせがあったので、ダンボワーズ城の転移魔法を使って久しぶりに王宮へやってきたのが今日のこと。

 お披露目の前夜に憑依魔法を使った事件があったとのことで、魔物の魔石を研究しているシュテフィが呼ばれ、内務省のルメール殿と共に何人かとの話し合いの後、当の憑依魔法を見破ったレンの話を聞くことになりました。


 ダンボワーズ城で別れてからそれほど日にちが経っていないにもかかわらず、レンの印象はずいぶん変わっていて少しばかり胸が高鳴ってしまいました。

 レンと初めて会った時の印象は……印象は……、その、私の記憶にあるものとは少々違う形で……。ハッ。いったい私は何を言おうとしているのでしょうか

 と、とにかく、レンはどこか自信なさげで頼りない感じの少年でした。けれど、今日のレンはルメール殿やシュテフィと対等に話のできるしっかりした若者に成長していました。

 それでも、髪の毛の色が途中で変わっていたりひと房だけ色が違っていたりと、おかしなことをしでかすところは全然変わっていませんでしたけれど。


 レンとの話し合いが終わってみんなで部屋を出ました。

 私の前を歩いているルメール殿とシュテフィがまた軽口で言い合いをしています。この二人は仲が良いのか悪いのかよくわかりません。

 ふと、レンが私に並ぶようにしてきました。

 触れそうなほど近くにレンの体を感じて、思わず肩に力が入ってしまいます。

 できるだけ歩調を合わせようとしていると、レンがそっと私の耳元に口を寄せて囁きました。


「ちょっと二人だけで話したいことがあるんだけど」


 心臓がドクンと跳ねました。

 二人だけで話したいこと?

 な、何でしょうか?

 よくわかりませんが、殿方が女性と二人だけでする話というものはとても特別なもののような気がします。

 私は息をするのも忘れてレンの顔を見つめました。

 レンは優しげな黒い瞳でわたしの答えを待っています。

 私は慌てて顔を伏せました。これ以上彼の顔をまともに見ていたらどうにかなってしまいそうだったからです。今も顔じゅうが熱く火照っています。かろうじて「はい」と答えるのが精一杯でした。


 けれど、どうしましょう?

 今すぐにというわけにはいきません。

 だって私、湯浴みは今朝にしただけで汗をかいてしまっているし、髪も整っていません。それに服装だっていつも着ているローブです。こんな格好でレンと二人きりになるなんてできません。万が一なことが起きないとも限りませんし。何が万が一なことなのかはよくわかりませんが。ああ、頭が混乱しています。

 と、とにかく、今はダメです。


「で、ですが、私はこの後実家に顔を出すように言われているので、お話は明日の午後でもよろしいですか?」


 嘘ではありませんよ。

 前々からお父さまには王宮に来て顔を見せるようにとしつこく言われていましたから。

 お母さまが亡くなりお姉さまの行方がわからなくなって以来、お父さまは私の心配をしすぎる気がします。


「うん。いいけど」


 レンも今すぐにというわけではなかったようです。快く承諾してくれました。

 ほっとしました。

 これで明日の午前中にたっぷりと時間をかけて支度ができます。何が起こっても大丈夫です。


「では、迎えの者をやりますので。……お待ちしております」


 本当に、お待ちしていますよ、レン。



 ※  ※  ※



 何か思っていたのと違いました……。


 レンの話は憑依魔法のことでした。それも、王女殿下に憑依魔法をかけた犯人が私かどうか確かめるためでした。

 その結果、めでたく私にかけられた疑いは晴れましたし、思いもしなかった姉の生存がわかったことは僥倖でした。


 けれど、何か違うのです。

 あのような言い方をされたら、もっとこう大事なお話があると思うじゃないですか!


 私が朝早くから侍女たちに手伝ってもらってハーブを入れたお湯で湯浴みをして一番上等の石鹸で体を念入りに洗いサクラお婆様秘伝のシャンプーとリンスも使って、それから髪には綺麗な艶の出る香油を塗りお気に入りの香水をつけてお化粧もして、それからそれから、お姉さまが着ているのを見てとても羨ましく思っていた夏の初めの候の空の色のドレスを拝借して靴もそれに合わせたものを選んでもらって、あとはお父さまが隠している国外から取り寄せたお茶と王都で評判のお菓子を用意させたことは全て無駄だったのでしょうか。

 いいえ。レンはこのドレスのことを可愛いと褒めてくれましたし、この黒髪もニホン人でもめったに見ないほど艶があって綺麗だと言ってくれましたし、私のこともこんなかわいい子は見たことがないとまで言ってくれました。それはとてもとても嬉しかったのですけれど。けれど!


 ああもう、私の馬鹿!

 そして、私に無駄な期待を持たせたレンも馬鹿です!

 彼はきっと私だけではなくマイや使用人の子たちにも自覚も無しに思わせぶりな言葉を振りまいているに違いありません。

 レンは女性の敵です!

 レンなんてもうユーゴとくっつけば良いのです! ユー×レンです! 気弱そうなユーゴがレンにだけは強気で迫るのです。

 アンドレでも良いです。最初は嫌っていたはずの二人がいつのまにか惹かれ合ってつきあうことに。

 ルメール殿もありでしょうか。大人の魅力でレンを翻弄するのです。

 いろいろな組み合わせを考えるだけで、体が火照って目が冴えてしまいます。


 ああ、やっぱりレンのせいで今夜も眠れません!


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