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第19話 やっちゃった!

 太陽が東の丘の上に昇る。


「もう彗星は見えないな」


 独り言を呟きつつ、俺は日課にしている朝のジョグのため庭園の中を通る小径を走っていた。

 雀がチュンチュンと鳴く清々しい朝の空気の中を快調に流す。

 夏至が近いからけっこう早い時間だと思うのに、使用人の皆さんはもう働き始めている。ご苦労様です。


 このデュロワールには、俺たちがよく知っている時計というものがない。

 日時計がメインらしく、日の出と正午と日の入りとそれぞれの中間に鐘が鳴るだけで、非常に大雑把だ。その他に水時計とかもあるらしい。あと、でっかい砂時計があるかどうかは知らない。


「聖女様、時計に関してはノータッチだったんだな。時計の知識が無かったのか、革命に必要ないと思ったのかはわからんけど」


 また独り言を零していると、誰かが剣の素振りをしているのが見えた。あのイケメンだ。

 無視して走りすぎようとしたけど、どうやら見つかってしまったらしい。


「やぁ、おはよう。君も朝から稽古かい?」


 朝からきっちり着込んだイケメンが爽やかに笑って声をかけてきた。白い歯が朝日を反射してキラリと光る。けっ。

 しょうがないので、足を止めて向かい合う。


「おはようございます。まぁ、魔法が使えないんで、せめて体力くらいはつけておこうかと思って」

「へぇ。それは感心だね」

「ジャルジェ男爵も朝から剣の稽古っスか?」

「アンドレでいいよ。こういうのは毎日やらないと鈍っちゃうからね」


 とちょっと照れたように笑う。白い歯が(以下略


「そういえば、マイから聞いたんだけど、君、『総受けのレン』っていう二つ名があるんだって? ぜひ、お手合わせ願いたいな」


 あいつ、何教えてんだよ。ていうか、


「あのぅ、お手合わせって剣のことですよね?」

「ん? 他に何の手合わせがあるんだい?」

「ですよね」


 よかったぁ。

 あっちの手合わせだったらどうしようかと思った。まぁ、どっちでも断る一択だけど。


「せっかくですけど遠慮しときます。アンドレさん、強そうだし」


 マジで。あの黒髪三人衆の中で、この人が一番強そうに感じる。


「ご謙遜。ま、気が変わったらいつでも言ってよ」


 それだけ言うと、アンドレはもう俺を気に留めることなく素振りを再開する。俺もさっさとその場を離れることにした。


 イケメンで王族で爵位もあって、でも地味な努力も怠らない。その上、こんな俺にまで気さくに声をかけてくれるとか、ほんとどんだけイイヤツだよ。あと、「マイ」って言ってたような気もするけど、それはまぁいいか。

 はぁ~と吐いたため息は、朝の爽やかな空気に溶けてくれた。



 ※  ※  ※



 汗を拭き、身支度を整える。

 俺たちが朝食を食べる習慣があるのは予め連絡されていたようで、使用人の案内で食堂に行くと、もうユーゴが来ていた。

 でもなんか元気がない。テーブルに肘をついて組んだ手に額を当てて俯いている。まるで祈りでも捧げているようだ。


「ユーゴ、オッス」


 声をかけると、ガバっと顔を上げたユーゴに腕を掴まれて窓際へと拉致された。


「な、何? どうしたん?」


 ユーゴは食堂の戸口に立っている護衛騎士のアレンを気にしながら小声で吐露する。


「あの……実は、朝目が覚めたら隣でソフィーが寝てて……裸で……」

「あー……」


 ソフィーのやつ、アレ実行しちゃったのか。


「昨夜ワイン飲んだせいだと思うんだけど、あんまり覚えてないっていうか、正直記憶が無いんだよ。ソフィーが僕とそういうことしたいって思ってるのに気づいてたけど、僕は日本に帰るんだから無責任なことしちゃダメだって我慢してたのに」


 ユーゴが世界の終わりみたいな顔をしている。めっちゃ後ろめたい。


「すまん、ユーゴ。実は、ソフィーにユーゴが寝てる間に裸でベッドに入っちゃえばって唆したの、俺なんだ」

「レン……」


 ユーゴがジト目で俺を見る。


「いや、ほんとにすまん。でもほら、覚えてないなら未遂かもしれないだろ?」

「……血がついてた」


 マジか。あいつ処女だったのか。


「シーツに?」

「……僕のにも」


 生々しいな。いや、よく知らんけども。


「あと、ちょっと匂いも」

「ストップストップ! わかった。皆まで言うな」


 これ以上は童貞の俺には刺激が強すぎる。


「と、とにかく、アレだ。男としては先を越されてちょっと悔しいけど、うん、卒業おめでとう」

「レン……」


 ユーゴが複雑な表情になる。


「僕、別に初めてじゃないんだけど……」

「え……」


 マジか! 童貞じゃなかったのか。


「そ、そう……」

「うん……」


 気まずい……。いや、待て。ちょっと待て。

 嫌な可能性が頭に浮かぶ。もしかして……。


「俺が魔法を使えないのって、……童貞だから?」


 普通逆だよね? 30歳まで童貞だったら魔法使いになれるんだよね?


「え、まさか、そんなこと……無いよ……たぶん」


 ユーゴも否定してくれたけど、安心できない。


「どうしたの? 朝から二人で暗い顔して」


 振り向くと、黒姫が不審そうにこっちを見てる。


「いや、俺が……」


 慌てて口を閉じた。

 何言おうとしてんだよ、俺。やっぱ、非童貞魔法使い説のショックが大きいのか。


「高妻くんがどうしたの?」


 黒姫が心配そうに聞いてくる。


「えっと……あ、俺が聞いた話でユーゴと王女様が結婚するっていうのがあったから、そこんとこどうなのって話してただけだよ」


 適当に誤魔化すと、「ふーん」と興味の無さそうな相槌が返ってきた。セーフ。

 そこへイザベルさんが入ってきて話を拾う。


「王女と言うと、第二王女のクラリス様ですか?」


 王女様、クラリスって言うのか。泥棒さんに心を盗まれそうだな。


「クラリス様はまだ11歳ですよ」


 お巡りさーん、こいつでーす!

 脳内でユーゴを緊急確保している間にも、会話は続く。


「ですので、結婚ではなく、婚約でしょうか」

「でも、王女様なんだろ? ユーゴなんかと婚約していいのか?」

「先の勇者様も王女様を娶っていますからね」


 「なんかって」とユーゴが落ち込んでるがスルー。


「じゃあ、護衛騎士のサフィールさんのお祖母さんって王女様だったのか」


 独り言のつもりだったのに、イザベルさんが耳ざとく教えてくれる。


「あ、彼女の祖母はその時聖女様の護衛をしていた女騎士だったはずです」


 なんですとぉ?

 うーむ。もしやとは思うが……。


「あの、他にも奥さんとかいたりしたんですか?」


 こそっと聞くと、イザベルさんはちょっと憐れんだ目で俺を見る。


「レン殿には全く縁の無い話になると思いますが、先の勇者様には王女様を始め、公爵家のご令嬢姉妹に隣国の姫君、先程の女騎士、それに侍女。他にはドラゴンとの戦いで身寄りの無くなった平民の娘たち。それから……」


 おいおい。据え膳喰いすぎだろ。そりゃ、サフィールのお祖母さんもサクラさんも嘆くわ。

 ていうか、それ俺がやりたかった『異世界に召喚された俺がチートで無双してドラゴン倒しちゃったけど帰らずにハーレム作ってもいいですか』じゃん。くっそー。


「し、白馬くんは大丈夫よね?」


 黒姫がかなり引いた様子でユーゴに確認する。


「え、だ、だ、大丈夫だよ……。たぶん……」


 あからさまに狼狽えるユーゴに黒姫の疑念の視線が突き刺さる。

 けれど、運良く朝食が運ばれてきて、その話題はうやむやのままになった。よかったな、ユーゴ。




 朝食での話題は今後の予定だ。

 俺たち3人とここにいないアンブロシスさん、アンドレと専属の護衛騎士4人を残して、クレメントさんたちと他の護衛騎士団員は今日これから王都へと出発する。


「えーと、俺たちっていつ王都に行くんだ?」


 実は、俺はクレメントさんたちと一緒に行く予定だったんだけど、黒姫たちが「三人一緒じゃないとダメ」と強硬に反対してくれたおかげで今ここにいるわけだが、この先のスケジュールを全く知らされていない。


「午後の鐘の頃に王都に行ってくそうよ」


 答えてくれたのは黒姫。


「あ、意外と早い。ていうか、じゃあ、なんで別々に行くわけ?」

「あのね、私も昨夜初めて聞いたんだけど、転移魔法って言うので王宮に行くんだって」

「転移魔法?」

「ここにある魔法陣から王宮の魔法陣へあっという間に移動できる魔法だって言ってたよ」

「そんな便利なものがあるのなら、わざわざ馬車なんて使わなくてもいいのにね」


 ユーゴは説明する横で、馬車に弱い黒姫が文句を言う。ま、それができない理由があるから馬車が使われてるんだよな。

 予想どおり、転移魔法は転移できる場所や一度に転移できる人数が決まっていて、その上多量の魔力を使うらしい。そして何より、ここの転移魔法は王宮に繋がっているので王族しか使えないのだとか。


「ふーん、王族専用なのか」

「王族専用ってことは、当然王様も使えるんだよね」


 ユーゴが何かを思い出すように言った。


「だろうな」

「もしかして、この前王様に謁見した時もそれ使ってここに来たのかな?」

「ああ。わざわざ王都から馬車で往復8日間とか言ってたことあったな。そっか、あの時も転移魔法使って来てたのか」


 その話をしてる時に誰かが何か言いたそうな雰囲気があったけど、そういうことだったのか。まぁ、あの時は黒姫がそれに感心して王様に好印象を持ってたから言い出せなかったんだろうな。


「うー。なんかずるい」


 黒姫も思い出したようだ。


「でもまぁ、4日も馬車に乗るよりはいいから許す」

「だよな。しかも王族専用ってのをわざわざ使わせてもらえるんだもんな。逆に感謝するべきだぞ、黒姫さん」

「……なんか偉そうに言ってるけど、私が言ってあげたおかげで4日間馬車の刑にならずに済んだのは誰かしらね? 高妻くん」

「はいすいませんちょーしのってました」


 テーブルに額をこすりつけて謝っておく。


「でも、感謝はするべきかしらね。王族でもないのに使わせてもらうんだから」

「かもだけど、僕たちにはそれだけの価値があるってことじゃないかな。ドラゴンと戦うために召喚された勇者と聖女だもん。むしろそれくらいしてくれて当然だよ」


 ユーゴがさらりと言ってのける。

 確かにそのとおりなんだけど、そこに俺入ってないよね。ユーゴの態度がそこはかとなく冷たく感じるのは気のせいですか?

 やっぱりアレか。ソフィーに朝チュン作戦を教えたのがダメだったか。いいじゃん、あんなカワイイ娘とやれたんだから。非童貞の考えることはわからんなぁ。

 ああ、早く非童貞になりた~い。


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