閑話3 聖女のタペストリー
【マイ視点】 聖女のタペストリー
ダンボワーズ城に来るのはこれで2度目。
前回は夕方も遅くに着いて、馬車酔いのせいで夕食もお断りしてベッドに直行したのよね。ていうか、馬車のあの振動なんとかならないの?
まぁ、今日も馬車の揺れはサイアクだったんだけど、こっそり自分に癒しの魔法をかけていたおかげで気持ち悪くならずに過ごすことができた。魔法ってスゴイ!
で、城主のジャルジェさんの出迎えを受けた後は晩餐まで部屋で休むように言われて、この城の侍女さんに案内してもらっているところ。
ダンボワーズ城には廊下というものが無くって、部屋同士が繋がってる作りになってるのよね。だから、移動する時は隣の部屋を通り抜けなくちゃいけないの。
そうやっていくつかの部屋を通り抜けて案内されたのが、私の泊まる部屋。
広さは20畳くらい? 壁はオフホワイト。茶系統のタイルの床とかチョコレートブラウンの梁がはしる天井とかと相まって、なかなか落ち着いた雰囲気。家具もシックな色合いで、なんとなく和のテイストを感じさせるわ。
それもそのはず。この部屋は前の聖女が亡くなるまで使っていた部屋で、彼女の遺言で当時のままを保っていると案内してくれた中年の侍女さんが言ってたけど、あのベッドで亡くなったのかもって思うとけっこう恐くない?
でも私が興味を持ったのは、そのベッドを挟むようにして壁に飾ってある2枚のタペストリーの方。
実は、前に王様に謁見した時もこの部屋に泊まったんだけど、あの時は馬車酔いが酷くてこんなタペストリーが飾ってあることに気づかなかったのよねぇ。
まぁそれはともかく、問題のタペストリー。向かって右側のやつには長い黒髪の女性が静かに立っている姿が描かれているの。
これ、前の聖女のサクラさんよね。たぶん。
合わせ襟の白い服に緋色の袴みたいなスカートをはいて、頭には金色のティアラを載せてるんだけど、これどっからどう見ても巫女の衣装ね。サクラさんの聖女のイメージって巫女だったのかしら? ないわー。私だったら恥ずかしくって着れないなー。
もう1枚の方はっと……。こっちもサクラさんね。服装はルシールの着ているものと同じ淡いピンク色のローブで、子供たちに絵本を読み聞かせているシーンかな。ルシールが言ってたけど、サクラさんて貴族だけじゃなくて平民の子共たちにも絵本を読み聞かせてたそうだから、きっとそれを描いているのかも。
でもねぇ、背景がちょっとイマイチなのよねー。なぁに、この縦ストライプにちょこちょこと横線や斜め線が組み合わせてあるあみだくじみたいな柄は。幾何学模様っていえば聞こえはいいけど、はっきり言って変。
一応、いろいろな色は使ってるみたいだけど、ちょいちょい微妙に色の変わってる線があるのよ。それがね、なんか文字みたいに見えちゃうの。パレイドリア現象だっけ? 要は錯覚。思い込み。ほら、あれなんかカタカナの二でしょ。それからホ。次がン……ん? ニホン?
え? ちょっと待って。
二、ホ、ン、二、カ、エ、ラ、ス、いやズね、ニ……。『日本に帰らずに』って書いてある!
よく見たら。背景の模様にびっしりカタカナが……。どういうこと?
とにかく、拾い出してみましょう。
『ワタシノナマエハナエバサクラデス』
なえばさくら。苗場咲良かな?
『ダイガクサンネンセイデシタ』
二十歳ぐらいだったのか。オバサンね。
『コノセカイニセイジョトシテショウカンサレ、ユウシャノタニガワカツトシトトモニ』
勇者は谷川かつとしか。漢字はわからないけど、こっちの人には発音しにくそう。
『ドラゴントタタカッタアト、ニホンニカエラズニノコッタノハ、セイジョトシテアガメラレ、ハンサムナオウタイシニキュウコンモサレテ』
ハンサムって何かしら? ま、いーや。先に進もう。
『コノオトギバナシノヨウナセカイデシアワセナジンセイガオクレルトオモッタカラデス』
なるほどねー。
『ケレドソレハゲンソウデシタ。ウマレタコドモガオンナバカリダッタセイデ、オウタイシノココロハワタシカラハナレテイキマシタ。カレガホシカッタノハワタシノマリョクヲウケツイダダンシダッタノデス』
何それ、ひっどーい! 王太子ってサイテー! 女性は子供を産む道具じゃないのよ!
『ツギニクルセイジョヨ。ケッシテオウゾクニキヲユルシテハイケマセン。オウゾクハセイジョトユウシャノチヲジブンタチノナカニトリコムコトシカカンガエテイマセン』
そっか。これサクラさんから私に宛てたメッセージなんだ。カタカナなのはここの人たちには気づかれたくなかったからなのね。背景の模様にカタカナを紛れ込ませてメッセージを送るなんて、やるじゃない。聖女様。
もう一つの方にも書いてあるのかしら。えーっと……。
『ソノゴ、ワタシハヘイミンノセイカツスイジュントシキジリツノコウジョウニツクシマシタ』
あ、この絵のことね。他にも現代の知識とか技術とかいっぱい広めたらしいもんね。それも平民に。まさしく聖女様って感じ。
『ヘイミンノセイカツスイジュンガアガリマホウニタヨラナイヨノナカニナレバ、ヤガテカレラハカクメイヲオコシテオウケンヲタオシテクレルデショウ』
は? 何、革命って? サクラさんて大学紛争とかそういう時代の人? 恐っ。
『デキルナラバ、ソノアトオシヲシテクダサイ。ソレガワタシノノゾミデス』
無理です。ごめんなさい。私、そこまでこの世界に深入りするつもりないから。
『ツイシン。ユウシャハアテニデキナイワヨ。ホントウニオトコトキタライロカニヨワインダカラ』
確かに。
白馬くんは大丈夫だと思うけど、問題は高妻くんよね。あの人、ルシールの前でいっつもデレデレしてるし、小間使いの女の子たちとも妙に仲がいいみたいだし。そのくせ、私にはセクハラまがいのことばっかりしてくるのよね。何? 私のこと好きなの? 小学生男子か。
まぁ、私が落ち込んでた時に気遣ってくれたりして悪い人じゃないみたいだから、世界のどこかに高妻くんのことを好きになってくれる人が一人くらいいるわよ。きっと。
それはともかく、高妻くんが悪い女の色香に惑わされないように私がしっかり彼のリードを握っておかないとダメね。
とりあえず、このメッセージは二人にも伝えてあげよう。
でも、追伸のところは高妻くんの分にだけ書こうかな。あの人にはしっかりと読んでもらわなきゃ。




