第15話 出立
誤字報告ありがとうございます。
ロッシュ城にイケメンがやってきた。
爽やかに晴れ渡った朝の空の下、本館(俺たちが寝泊まりしている建物)前の広場で、ユーゴとマイ、アンブロシスさん、ルシールの前に揃いの鎧とマントをまとった総勢20名の騎士たちが整列している。彼らが俺たちを王都まで護衛してくれるデュロワール騎士団第13分団の騎士たちだ。昨日の夜にこのロッシュ城に到着したため、挨拶が今朝になったらしい。
そして、彼らの前に立っている一人の騎士、この分団の団長、アンドレ・ヴォ・ジャルジェと名乗った若い男がそれだ。
背が高く、広い肩幅にがっしりした上半身とすらりとした長い脚。
黒い髪を長く肩の下まで伸ばし、憂いを秘めた瞳は紫に輝き、すっと通った高い鼻と引き締まった口元が凛々しさを引き立てている。
青い胸当てには銀の装飾が施され、腰に巻いた太めの革ベルトに提げられた長剣の柄には真っ赤な魔法石が目立つ。長い脚には白いタイツと黒の編み上げのブーツを履き、飾りのついた青いマントをどこからともなく吹いてきた風が優雅になびかせていた。
なんだこの少女漫画から抜け出てきたような奴は! 黒姫とかポ~っとなってるぞ。
しかも、名前に『ヴォ』が入ってるのは爵位を持ってる人なんだって。
イケメンの上に地位まであるとか。けっ。
クレメントさんたちに交じって離れた場所で見ていた俺がジト目を向けていると、アンドレは居並ぶ騎士の中から4名を呼び出した。
「勇者様の専属の護衛にはアランとヴィクトールが、聖女様の護衛には女騎士のサフィールとジャンヌがお付き致します」
十代後半から二十代前半くらいだろうか。揃いも揃って美男美女だ。
黒い癖毛の長髪で長い揉み上げが特徴の精悍な顔つきの騎士がアラン。
ウエーブのかかった金髪で甘いマスクの騎士がヴィクトール。
カールした黒髪をショートカットにした小柄ですらっとした女性騎士がサフィール。
長い金髪を後ろで一つに編み込んでいて体のラインの凹凸が際立つ美人がジャンヌ。
彼らはそれぞれ名乗って騎士の礼を執る。
ユーゴたちも名乗りを返して、さあ解散かと言う時、アンドレが黒姫の前に歩み出た。
「聖女様がこのように美しい方だとは思っておりませんでした」
甘く微笑んでそう言うと、やおら跪き黒姫の右手を取った。
「私の命に代えても聖女様をお守りすると誓います」
と、その手の甲に口づけをする。
俺の後ろにいたイザベルさんから「はぁ~」と羨望のため息が漏れた。
えーと、何だこれ。
アンドレはスッと立ち上がりもう一度騎士の礼を執ると、振り返って騎士たちに出発の準備をするように命令した。準備ができ次第、すぐに出発するとのこと。なんとも慌しい朝だ。
やれやれと思っていると、黒姫がたたっと走り寄ってきてぺしぺしと俺の肩を叩く。
「ねぇねぇ、今の見た? 見た? ほんとにあるのね、手の甲にキスとか。なんかもう、お姫様になったみたい。それに、あのアンドレって言う人、もうこれぞ騎士って感じじゃない? あと、マジでイケメン!」
えらいはしゃぎようである。
「そうだな。俺は黒髪の騎士の方が気になったけどな」
「え、あのショートヘアの女の騎士? うわ、やらしい」
半眼ですすっと距離を取られる。ブーメランという言葉を教えてやりたい。
「ちげーよ。アンドレとアランとか言う奴もだよ。あの3人、かなり魔力量ありそうだぞ」
「へぇ、こんなに離れててもわかるの?」
「あー、なんか最近、だんだんわかるようになってきた。レベルが上がったのかな」
黒姫に「またわけのわかんないこと言ってる」と呆れられた。
「で、どれくらいなの? その魔力量」
「たぶん、ルシールに近いか同じくらい」
「黒髪っていうのが怪しいわね。勇者の子孫とか?」
「そうかもな」
こそこそと話をしていると、ユーゴもやってきた。
「何話してるの?」
「あの黒い髪の毛の騎士がいるだろ。あいつら、もしかしたら勇者の子孫かも」
「高妻くんがね、凄い魔力量だって」
「へぇ、そうなんだ。でも」
と、ユーゴは彼らに視線を向ける。
「僕たちほどじゃないでしょ」
一瞬、その言葉に薄ら寒いものを感じた。しかし、それを問い直す間も無く、
「勇者様、聖女様。そろそろ出発いたしますので、こちらへ」
呼びかけられて、ユーゴは「じゃあ」と離れていった。
城門の内側にこげ茶色の箱型の馬車が4台と幌馬車が2台並んでいて、その周りに馬の手綱を引いた騎士たちが待機している。
馬車に乗るのは俺たち三人とアンブロシスさん、その付き人、護衛騎士。あと、ソフィーとフローレンスも同行する。ルシールは残念ながら居残りだ。別れるのが惜しい。
2頭立て馬車は四人乗りで、それぞれ主人と付き人と護衛騎士一人という編成で乗って、残った一台に俺とソフィーとフローレンスが乗ることになっていた。
予定ではすぐに王都に向かうのではなく、まずダンボワーズ城に向かうとのこと。この前ユーゴたちが行ってきた所だ。そこから改めて王都パルリに出発するらしい。まぁ、その辺のところはお任せするしかない。
さて、乗りますか。
扉を開けて、レディファーストでお先にどうぞとメイドの子を先に乗せようとしたら、そんなことできませんときっぱりと断られてしまった。
しょうがないので俺から乗る。席に座ろうとしたら、ソフィーの声がした。
「レン様、引っ張り上げてください」
馬車というのは思ったよりも高いところに床があって、踏み台があっても簡単に乗れない。しかも、女子はスカートが長いから余計に乗りにくい。
はいはいと引っ張り上げる。なんかいいように使われている気がしないでもない。
ついでだからとフローレンスも引っ張り上げたところで予想外の人の声がした。
「レン、私も引っ張り上げてくれ」
「あれ? シュテフィさんも行くんでしたっけ?」
引っ張り上げながら問うと、
「レンのいないここに残っていてもつまらないだろう?」
と、片目を瞑って見せる。
あ、これ絶対後で問題になるやつだ。
「さて、お邪魔するよ。お嬢さん方」
俺の隣に座ったシュテフィさんがソフィーたちに向けて気さくに声をかける。
とはいえ、相手は貴族。平民のソフィーたちの笑顔は硬い。
微妙な空気のまま、ようやく馬車が動き出す。
やっぱ揺れるな。
と、城門をくぐったところで何かに引っかかれるような痺れるような痛みが体中に走った。
「いだだだだっ」
「どうした、レン」
真っ先に心配してくれたのはシュテフィさん。いや、でもなんか嬉しそうな顔してるんだけど。
「や、なんか体中に激痛が走って」
「どんな感じで?」
「ど、どんなって……」
戸惑ってると、横からシュテフィさんがほらほらと迫ってくる。
えーと、何かわかりやすい例えってないかな……。あ、城の庭園にあれがあったっけ。
「ええと、バラの垣根を裸で突き抜けたような痛さでした」
「ほう」
シュテフィさんは何やら思い当たる節があるみたいだ。
けど、対面座席の二人は違った。
「レン様って裸でバラに突っ込んだことあるんだ。痛そう……」
「レン様にそのようなご趣味があったとは」
「ねぇーよ、そんな趣味! わかりやすく例えようとしただけだろ」
断固として異議を申し立てたけど、聞いちゃいない。「またレン様の奇態収集が増えたね」とか言ってる。そんなもの集めるんじゃありません。
「レン。それはもしかしたら結界かもしれないね」
シュテフィさんの言葉で向き直る。
「結界、ですか?」
「ここの記録に、砦を守るために結界を張ったとあるんだ。レンはそれを体で感じたのじゃないかな」
「他の人は何も感じないんですか?」
「古い物だからね。もう結界の効果はそれほど残っていないんだろう。普通の人には全く影響無いはずだ」
「そうなんですか」
そこの二人! 「やっぱりレン様って普通じゃないんだ」とかこそこそ言わない!
「それにしても、裸でバラの垣根を突きぬけるか……。うん、実におもしろい」
「や、そんなことしたことないですからね、ほんと」
念を押す横からソフィーが口を挟んでくる。
「そうなんですよ。レン様って本当に変なことばっかり言ったりしたりするんですよ」
「ほう、例えば?」
シュテフィさんも興味深そうに聞き返す。
「私たちのことを『めいど』って呼ぶし」
「パンにハムやチーズを挟んで食べてます」
「ペレネロペを使って私たちのスカートをめくろうとしたんですよ!」
「夜に部屋の中で奇妙な踊りを踊っているのを見た子がいます」
次々と暴露されていくけど、思い当たることばかりで頭を抱えるしかない。いや、奇妙な踊りは知らんぞ。
まぁ、おかげでシュテフィさんとちょっと打ち解けられたみたいだから良しとしよう。




