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閑話2 小間使いの楽しみ

ジゼルは11話に出ていたペネロペの代わりに来た小間使いの子です。

 【ジゼル視点】 小間使いの楽しみ



 (わたくし)、ジゼルと申します。

 このロッシュ魔法学研究所で使用人として働いております。そつのない働きぶりで評価をいただいております。


 先日、この研究所に勇者様と聖女様とレン様がいらっしゃいました。


 はい? レン様とは何者かとお尋ねですか?


 レン様は勇者様や聖女様と同じ国から来られた方ですが、聞くところによるとどうやら手違いで来てしまったようです。事前にお伺いしておりましたお客様の人数はお二人で、レン様の分はご用意しておりませんでしたから間違いございません。

 それにとても信じられないことですが、レン様には魔力が全く無いのだそうです。それでどうやって生きていけるのか不思議でなりませんが、レン様は変わった方なので大丈夫なのかもしれません。


 はい、そうです。レン様はとても変わった方でいらっしゃいます。


 勇者様と聖女様の小間使いにと、王都の王族の屋敷で働いていた使用人がわざわざ呼ばれました。

 聖女様付きのフローレンスは地味顔ですが、いろいろなことを知っていて、さすがは王族の使用人だと皆感心しております。勇者様付きのソフィーはあか抜けた綺麗な顔と初々しい色気を持つ娘で、ちょっと靴の中にイガイガの実を入れてやろうかと思ったほどです。

 ですが、レン様にはそのような専属の小間使いがおりませんでしたので、私たち使用人をまとめているエマさんが急遽ペネロペという子にそれを命じました。ペネロペは王都出身だそうですから、彼女が選ばれたのでしょう。


 そのペネロペが使用人同士の情報交換の場で――。いえ、世間話ではございません。情報交換です。そこでペネロペが語ったことですが、レン様は私たちのことを『めいど』と呼んでいらっしゃるのです。レン様のお国の言葉で女性の使用人のことなのだそうです。もっとも、勇者様や聖女様は私たちをそのようにお呼びされておりませんが。

 他にも、私たちの口にはめったに入らないあのおいしい白パンに、こともあろうかハムとチーズと野菜を挟んでいっぺんに食べると言う信じがたい行為に及んだことも報告されております。

 また、言葉巧みに誘導して使用人のスカートをめくろうとしたともめくったとも聞き及んでおります。


 けれど、ペネロペはレン様のことを好意的に思っているようでした。それは、あの悪評高い『夜のお世話』を求められなかったからだそうです。一部にはペネロペに食指が伸びなかったのだろうと揶揄する声もありますが、彼女がその話をする時の表情からレン様が彼女のことを大切に思っていらっしゃるからだとわかります。

 実際、レン様は私たち平民の使用人を見下すようなことはなさらず、いつも気さくに接してくださいます。一方で、アンブロシス様や王都からいらっしゃったクレメント様たちにも変にへりくだった態度をとることもございません。もちろん継子(エリタージュ)でいらっしゃるルシール様にも。

 ああ、そのルシール様ですが、これは決して他の方には言わないとお約束していただきたいのですが、時々レン様のことを盗み見てはため息を吐いていらっしゃいます。いったいレン様はルシール様に何をなさったのでしょうか。私、とても気になります。


 残念なことに、あれほどレン様を慕っていたペネロペは急に実家に帰らねばならなくなりました。そういうことは偶にあるのでたいして問題ではないのですが、あのレン様のお世話をする小間使いがいなくなりました。これは大問題です。

 既に私たち使用人の間ではレン様は変わった方だと知れ渡っておりましたので、その小間使いが生半可なことではないことは誰もが承知しておりました。ですから、ペネロペの後釜など誰もやりたがらないに違いありません。

 ならば、そつのない働きぶりで評判の不肖私ジゼルがその役目をお引き受けするほかないでしょう。そう覚悟しておりましたところ、意外にもほとんど全ての使用人が手を挙げたのです。全く、皆どういう神経をしているのでしょうか。あきれるばかりでございます。

 まぁ、このような田舎の使用人たちにはそうそう娯楽があるわけではございませんので、レン様は私たちにとって格好のおもちゃ、いえ、刺激を与えてくださる貴重なお方であることは否定いたしませんが。


 それで、レン様の小間使いを誰がするのかという話ですが、ここはひとつ平等に順番にしましょうということになりました。

 一番手は私です。

 はい。皆で平等にということですので私も参加しておりますが何か。


 たいへん残念ながら、私がお世話した時には、レン様はいたって普通のお方でした。全く何をなさっているのでしょうか。いつものように変わったことをしやがれでございます。

 その後も順番に小間使いを替わっていったのですが、これといった収穫はなく、誰もが落胆し、レン様の奇態を独り占めしたペネロペを呪い始めた頃、ついにある子がその幸運をつかんだのです。


 その子は就寝の挨拶をして部屋を出た後、こっそりっと戻って扉の隙間から覗いたのだそうです。とても褒められた行いではないのですが、今は不問にいたしましょう。

 そうしてその子の眼に映ったものは、ベッドを起き出して部屋の中をうろうろと歩き回るレン様の姿でした。それだけならばことさら騒ぎ立てるほどのことではございませんが、 やがてレン様は奇妙な踊りを踊り出したのだそうです。

 その子はその踊りを皆の前で再現してみせました。


 まず初めに、右手を腰の横のあたりで上下に動かします。10回ほどそうしてから、今度は左手を同じように動かします。それが終わると、両手を腰の前で交互にやや角度をつけて上下させます。

 そして、そのままゆっくりと歩き出したと思ったら、いきなりくるりと体を回転させて、手を上下させながら小走りで進み、最後に片手を上げて高く飛び上がります。


 なんと奇妙で奇怪な踊りでしょう!

 やはりレン様は変わったお方でした。


 このレン様の奇妙な踊りですが、いつの間にか使用人の間で流行り始めていました。田舎の使用人にとっては、このような奇妙な踊りでもさえも十分に娯楽となりえるのでございます。


 けれど、この踊りがやがてデュロワール中で踊られることになるとは、この時の私は想像すらしなかったのでございます。


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