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悪魔になった私の冒険録  作者: 炭酸水
4/15

朝ごはん

■■■■■■

目を開けると視界いっぱいにカルアの顔があった。



「ご~は~ん」



私が目を開けたのを確認したカルアは私の服を持ってきた。



「早く服着なよ!どのみち裸だと風邪引くよ!」



そういえばシャワーを浴びたまま寝たのだった。



私はのそのそと布団からでて服を着た。



記憶は無いが着替えは出来るようだ。



一般的な常識は忘れていないのか?



つまり私が失ったのは『思い出』の様だ。



かなり重要な事に気づけた私は思わずにやける。



「ナツって全然しゃべらないよね」



呆れた顔をしてカルアは言った。



「へ?」



「その割にずっとなんか考え事してる」



「まぁそうなんだけど」



「そんなことよりごはんよ、ご~は~ん!お腹空いて死にそう!」



「聞いてきたクセに……」



驚くほどに自分勝手なカルアに嫌気がさしてきた。



実際私は考え事が多い。



少しは喋るようにしようと思う。



「とりあえずご飯食べに行きましょうか」



「やった~!」



カルアは部屋中をスキップして回る。



朝から元気なことだ。



昨日買った髪止めを付けるとカルアと私は部屋を出た。




#

「ごめんなさいね~、いま満席なんですぅ~」



宿から一番近い定食屋に行くことにした私たちは衝撃の事実を告げられた。



「え~、ならどれぐ……」



「待たれますかぁ~?30分ぐらいかかりそうですけどぉ~」



店の売り子はなんともだらしなく言った。



私の言葉を遮った事はノータッチのようだ。



「あ~、じゃあもういいです」



少し腹が立ったのと、店内から漂う食欲を誘う香りが朝食を急がせた。



カルアは隣でぎゃあぎゃあ言っていたがこれ以上ここにとどまる意味もあるまい。



きっと次の店ではもう朝食にありつけるだろう。



ーーしかし、そんな考えは甘かった。



そこから8店舗連続して満席が続いた。



なんでもこの辺りは宿屋が密集していて、モーニングタイムは客足が滞ることはないとのこと。



逆にピークを過ぎればすっかすからしい。



しかし、私たちはもう待てる自信はない。



カルアは店を巡る度に食欲が刺激され続け、食欲が膨れ上がり、もはや血に飢えた野獣状態である。



私はぐぅ~と鳴るお腹を隠すので精一杯である。



次こそはと飯屋探して歩いていた時だった。



「これはこれは、麗しいお嬢さん。またお会いしましたね」



振り替えると昨日迎えてくれた紳士的な老爺が立っていた。



ニコニコと優雅に微笑む様子に切羽詰まっている私は少しムカついたがほんの少し残っている理性で我慢する。



「あはは、こんにちは」



「その様子からして食事処をお探しですかね?」



どの様子から?!とツッコみたい気持ちを抑えて答える。



「その通りです。どこか空いているところ知りませんか?」



「でしたらあちらの青い屋根のところはいかがでしょうか?私も先ほどあそこで済ませて来たのですがなんとも絶品で。天ぷらなのですが衣がふわふわでまるで天使の羽衣の様で…」



聞いていると涎が溢れてきた。



隣のカルアはもう我慢できなくなったのか走って向かって行く。



「カルア待って……あぁ、もう!」



「はっはっは。子供は元気が良いことですね」



懐かしむ様に老爺は微笑む。



「それではありがとうございます」



私は会釈してからダッシュでカルアを追いかけた。



頭の中は天ぷらでいっぱいだった。



#

「美味しかったぁ~!」



カルアは満腹になり、膨らんだお腹を叩きながら言った。



ぽんぽんと心地よい音がなった。



「ほんとだね」



カルアに微笑みかけると花が開くような笑顔で返してくれた。



「今日はなにするの?」



「今日は貴方の親御さんを探すのよ」



「親御さんって?」



カルアは首を傾げて言った。



「お母さん、お父さんの事よ。誰にだっているのよ。もちろん私にだっていたはずよ。覚えては無いけど」



「ふ~ん」



カルアはあまり悲しげな表情を覗かせる事もなく、ただ私の話を聞いていた。



「子供は親と一緒にいた方がいいのよ」



カルアは私の話に飽きたのか私の髪に付けていた髪止めを凝視していた。



「昨日カルアも買わなかった?」



そう言うとカルアはポケットから私とお揃いで買った髪止めを取り出した。



慣れていないのか付けるもすぐに滑り落ちてしまう。



カルアはしょぼんとする。



私は落とした髪止めを拾ってやり、髪に付けてやった。



「ありがと!」



カルアは右にくるくると三回転回った。



髪がフワッと浮き上がる。



「そんなに喜ばれるとなんか恥ずかしい」



「ぐっへへ、もっと恥ずかしくしてやる~」



カルアはぴょんぴょん跳ねて見せる。



(元気いっぱいで可愛いなあ)



恥ずかしさよりも幸福感と守ってやりたいという庇護欲が溢れる。



「まぁいいや。今日は商会長さんのところに行くよ」



「……?おっけー」



いまいちピンと来ないらしい。



大人しくついてきてくれるならそれでもいいのだが。



「行こっか」



私はカルアに手を差し出す。



それに反応してカルアは私の手を握った。



#

「その手の情報は役所に言った方がいいですよ」



商会長は地図を持ってきながら言った。



「役所…ですか?」



「『ギルド』って呼ばれているんですけどね。お金さえ払えば失せ物に失せ人、道案内にボディーガード。魔物の間引きまでやってくれる公共組織なんですよ」



「へぇ~、すごいですね」



商会長は地図を広げた。



羊皮紙に店の名前や住所が精密に描かれている。



「マルカンのギルドはここですね」



鉛筆でマルカンのギルドに丸を付ける。



次に今いる商会の支部に丸を付けた。



「どうぞ。この地図使ってください」



「あっ!いいんですか?」



昨日町で価格を見たがやすやす買えるような値段ではない。



「昨日の熊がですね、ナツさんから買い取った時の金額の10倍で売れましてね。あっはっはっはっは」



商会長は嬉しそうに笑う。



確か渡されたときに「これがあれば半年は過ごせるはずです」って言ってたがそれの10倍となればとんでもない価格だろう。



「それでしたらありがたく頂きますね」



「また何か困り事がありましたらご相談ください。それと、また魔物を狩った時はうちの商会をご贔屓に。切断面が綺麗で高く売れるんですよ」



「それではありがとうございました」



(そう言えばカルアはどうしているんだろう?)



横を見ると一心不乱に机に置かれたお菓子を頬張っているカルアがいた。



「さっき朝ごはん食べてたのに…」



思わず呟いた。



「このぐらいの歳の子はいっぱい食べて成長するんですよ」



商会長は優しく諭す。



私の会話で自分の事だと気づいたのかこっちを向いた。



「ほぉかふぇるお?」



全然何を言っているのかわからない。



「とりあえず口に食べ物をいれたまま話すのはやめましょうね」



「おふぇん(ごめん)」



カルアはそう言いつつも新たにお菓子を口に放りこんだ。



私は大きなため息をつく。



そんな私たちの光景をニコニコと商会長は見ていた。

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