町ブラ旅
「ささ、お嬢さんがた、こちらからお降りくださいまし」
町に着くといかにも紳士的な老爺が出迎えてくれた。
エスコートに従って、馬車から降りると色とりどりな町の活気がを感じた。
旅芸人が白い鳥を飛ばし、屋台の店員は威勢良く客を呼び込む。
値切る老婆もいれば、走り回る子供もいる。
そして、何よりみな笑顔である。
「はははっ、すごい活気でしょう?」
商会長は旅芸人に拍手を送りながら言った。
「マルカンは初めてなんですよね?でしたら楽しんで来てください。本当に良い町なんですよ。領主がしっかりしていて、飢えや貧困が無いんです。だから治安も良くて我々のような非力な商人でも安心して商売できるんです」
それはまた嬉しそうに言った。
「やった~!行きましょ!」
「うわぁ!」
カルアは私の手を引っ張って行く。
商団の皆は笑顔で手を振って見送ってくれた。
道中の馬車のなかでビッグベアーの買い取りを行って貰っていたため、お金はある。
しかも、うちの者を助けてくれたからと言って宿まで用意してくれるそうだ。
人助けはしておくものだと思った。
カルアに連れられるままに歩いていると突然甘い、香ばしい香りに立ち止まった。
香りは路地の端にひっそりと佇む屋台だった。
「そこの綺麗なお嬢さん。うちの串焼きはどうだい?ここらではうまいって評判なんだぜ~」
屋台の男は話しかけてきた。
そう言う割には並んでいる人も回りで買って食べている人もいない。
「私食べたい!ナツも食べようよ!」
カルアは串焼きを指差して跳び跳ねる。
そういえば起きてから何も食べていない。
カルアも欲しい欲しい様だし、とりあえず買うことにした。
「あはは、すみませんね。連れがお転婆で。2本くださいな」
私は財布から銀貨を一枚取り出し、渡した。
男はそれを横に置いてあった箱に入れると屋台から出てきた。
「こんな綺麗なお嬢さん達が買ってくれるんだったら何したっていいぜ!ほら、どうぞ」
男はしゃがんでカルアと同じ高さまで目線を合わせると串焼きを手渡した。
「おっちゃん!ありがと~!」
カルアは勢い良くかぶりついた。
見ててこちらが気持ちのいい程の食べっぷりだ。
私も一口かじる。
肉厚が良い割に、柔く、刃物で物を切るが如く噛みきることが出きる。
肉の甘さとソースの辛みが絶妙にマッチして、思わず頬が緩む。
クセになるこの味。
気づくと食べきって無くなっていた。
「これ、おいしいですね!もう一本貰えますか?」
純粋にお腹が減っていたこともあり、思わずもう一本オーダーしてしまった。
カルアはかぶりつきこそ良かったものの、一本目をしがしが食べている。
美味しそうに目を細めている。
可愛らしいことだ。
「ははっ!そんなに美味しそうに食べられたらかなわねぇや。ほれ、一本負けといてやる。だからまた来てくれよな」
男はウィンクしながら言った。
「ありがとうございます!また来ますね!」
私は貰った一本を大切に食べながらまた屋台をうろつくことにした。
その後二人は色々な露店で買い物をした。
時には異邦から来た民族のアクセサリーだとか、どんな食材でも美味しくなる魔法の調味料やマルカンで流行りの髪につけるおしゃれグッズなどなど、とにかく買い物を楽しんだ。
気がつくと日が落ちて、暗くなっていた。
町は昼間とは違って大人の雰囲気が漂う。
屋台はみな片付けられ、変わって酒屋に活気がこもる。
立ち寄ってもいいのだが私とカルアには似つかない雰囲気だ。
だから道を一本逸れて人一人いない道を通っていた。
「そろそろ、帰りましょっか」
カルアはもう眠たそうにうとうとしていた。
(そう言えばこの子何処のこなんだろう?1日連れ回しちゃったけど大丈夫かな?)
「カルア。寝る前に聞くけどお家は何処なの?」
カルアは必死に目を開くも目を閉じてしまう。
とうとう歩く足もおぼつかなくなってきた。
「寝ちゃってるか。親がいたとしたら明日商会長さんに聞けばいいし。もしいないなら一緒に旅したら良いし。今日は寝かせてあげよう」
カルアをおぶると商会長が用意してくれた宿までのんびりと歩いた。
明かりひとつない暗がりの道を夜空を見上げながら歩く。
今日の楽しかった出来事がフラッシュバックしてくる。
起きる前の記憶は思い出せないがその後の記憶はスルスルと思い出せる。
「お…にく……お……いし……い」
カルアは寝言を漏らす。
後ろを見ると笑顔で眠るカルアが私の服にかぶりついていた。
(ふふっ、かわいい)
ずり落ちてきたカルアを持ち直すと、また歩き始める。
宿についた私はそっとカルアをベットに寝かせると、シャワーを浴びた。
なんだかんだ初めて自分の体を見た。
まず、体型が良かった。
ビックベアーを倒した時から動かしやすい体だとは気づいていた。
直接見ると出るとこは出ていて引き締まるところは引き締まっていた。
ひとつ言うならば胸は引き締まる方に入っていた。
次に髪だ。
歩きながら度々見えていたがマジマジとは見なかった。
まるで鏡のように輝く白銀の髪。
払うと螺旋を描いて元の位置へと戻っていく。
だがなぜか頭が痛んだ。
なにか思い出せそうな気もした。
だが、それよりもカルアのことが気になった。
カルアも私と同じ白銀の髪をしていた。
色んな疑問が浮かんできた。
しかし、難しいことを考えている内にどうでも良くなってきた。
私は決めたではないか。
新しい私なんだと。
何のしがらみもない自然、だからナツだと。
私はちゃっちゃとシャワーを済ませると、ぐっすり眠っているカルアに抱きついて暖かさを感じながら寝た。