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レジェンド・オブ・シリル  作者: 転勤族
2/2

転移失敗?

文章書くのって難しいですね。

揺らいでいた視界がはっきりとして来る。

酒場での混乱が嘘のように消え去り、鳥のさえずりが聞こえてくる。

どうやらどこかの森の中に転移したらしい。

座標設定が曖昧なままの転移は非常に危険だ。下手をすると遥か上空、海の中、地面の中・・・

あらゆる所に転移してしまう。その場合助かるわけもなく即死する危険性が高い。

転移魔法の術式が完成されるまでの間、その手の事故は日常的に起こっていた。


俺は転移が成功したことにホッと胸を撫で下ろし、改めて周囲を確認した。

・・・・・何かおかしい・・・

俺の胸はざわついた。言い知れぬ違和感を感じるが、すぐにその原因に気づく。

「え・・・?明るい・・・?」

森の中とは言え日中ならば明るいのは別に不思議ではない。

ただ、ついさっきまで夕食を取ろうと酒場に居たはずだ。

「いったい何処に転移したんだ?」

しばらく呆然としていたがようやく我に返って自問自答した。

当然誰も答えは返してこない。

森の静寂と、たまに聞こえてくるのは鳥のさえずりだけである。


呆然としていても仕方ないので王都に帰るべく歩き出す。

と言っても現在地もわからない状態ではどうにもならないので、先ずは街道を探して闇雲に歩いてみる。

転移魔法で帰るのが一番早いが、現在地すら分からないのでは座標設定どころの話ではない。

死ぬかも知れないあんな博打は二度と打ちたくない。


歩き始めて数時間・・・・行けども行けども同じ様な景色の繰り返しに

「遭難」

の二文字が頭をよぎる・・・

エールをチビチビやりながら酒場のマスターと言い合いをしていたので夕食も取っていないことに気付くと、急にお腹が減ってくる。

とりあえず何処かで食べ物を調達しないと本格的に危ないと焦り始めた時、鳥のさえずりに混じって何か音が聞こえてくる。

耳を澄ますとそれは複数の人の声だった。何を言っているかまでは聞き取れないが、何か慌てたような感じに聞こえる。

「やった。助かった!」

俺は夢中で声のする方に走り出した。


俺は呆然としていた。この数時間の間にこれ程何度も呆然とする事態になるとは思わなかった。

目の前には森が開け街道が続いている。

そこに商人だろうか?馬車が止まっている。その周囲には武装した男達が4人。それを囲むようにして狼型の魔物が10匹ほどの集団で威嚇の声をあげていた。

「え?魔物・・・?何でこんな所に?」

これ程この場にそぐわない呟きも無いだろう。


魔物は家畜である。養殖場を逃げ出すことはそうそうあることではない。

ましてや野生の魔物など数百年前はともかく今どきいるはずがない。


俺の姿に気づいた男達は驚き、ひときわ背の高い髭面の男が

「早く逃げろ」

と叫ぶのと同時に一匹の狼型の魔物が俺に襲いかかってきた。

俺は咄嗟に火炎魔法の術式を起動し、喉笛に牙が届く寸前に炎の塊を狼に叩きつける。

狼が吹き飛び燃え上がるとそのまま動かなくなった。


今度は男達が唖然としている。狼型の魔物も動きを止めて俺を見つめ固まっている。

そして、俺も呆然としている。

何だこの状況は・・・・

俺だけでなく皆状況に理解が追いついていない。

我に返った男達が動いた。固まっていた狼の首筋に剣を叩き込む。

不意を突かれた狼達は次々に切り伏せられその数を3匹に減らした時点で逃げ出した。


「いやー。驚いた驚いた」

俺の背中をバンバン叩きながら髭面の男が言った。

狼型の魔物を倒した後野営の準備をして今に至る。

男は商人の護衛で雇われたらしく名を「ローベルト」と名乗っていた。

背中を力任せに叩かれた俺はかじっていた狼のもも肉を吹き出しそうになりながら

「何だって家畜の魔物がこんな所に現れるんだ」

と尋ねると、一瞬キョトンとした顔をしたローベルトは

「あーはっはっっは。魔法使い様にかかれば危険なウェアウルフも家畜扱いか」

と大笑いしながらまた背中をバシバシと叩く。

「あの程度の魔法は誰でも使えるだろうに・・・」

ローベルトは目を細めさっきと打って変わった訝しげな声で

「シリル。お前さんの言う通り魔法使いなら使えるだろうな」

「だが、あの発動時間はありえない。術式構築の時間もなくいきなりファイヤーボールとは、俺も長年冒険者をやっているが見たことない・・・」

「シリル・・・お前さん・・・何者だ?」

「え?この辺りでは当たり前じゃないのか?俺のいた王都では誰でも出来て当たり前のことのはず・・・」

「へぇ・・・お前のいた王都って凄いやつがウジャウジャいるんだな。どこの王都だ?」

ローベルトが感心したように聞いてくる。

「何処の王都って・・・王都なんてリンドしか無いじゃないか・・・」

「リンド??」

ローベルトが黙り込む。

あれ?俺変なこと言ったか?

しばらくすると呆れたようにため息をつきながら

「あのなーシリル・・・いくらなんでも1000年も前に滅んだ旧魔法文明の都を持ち出さなくてもいいじゃないか。いくら俺がバカでもそれくらいは知ってるぞ・・・」

ローベルトの言葉に背中から冷たい汗が吹き出す。

1000年前に滅んだ?ついさっきまで俺はリンドにいたはず。

そもそもここは何処だ?本当に転移は成功したのか?

ローベルトが俺をからかっている可能性もあるが理由がない。


急に黙り込んだ俺を見て心配そうにローベルトが覗き込む。

「どうしたんだ?顔色が悪いが体調が悪いなら今日はもう休め」

「あ・・ああ・・そうさせてもらう・・・」

絞り出すような声でそれだけ答えると俺は少し離れた所に横になった。


目をつぶりながら自分の身に起きたことを全力で整理してみる。

あの時王都で起こった強力な魔力反応。そして地震。転移した後のことは分からないが、あの時何かとんでもない事が起こっていたのは事実だ。転移魔法には座標軸の設定はあるが時間軸の設定なんてない。そんなこと人間に出来ることではない・・・

不完全な転移魔法にあの時の謎の魔力が作用して予期せぬ時間軸の移動が起こってしまったのだろうか・・・?

ダメだ。考えがまとまらない。

情報が少なすぎる段階で判断出来ることではないので考えを一旦保留することにして眠りについた。


翌朝目覚めると、馬車は既に出発準備を終えていた。

「シリル!いつまでも寝ていると置いていくぞ!」

と言うローベルトに声に目を覚ます。

「今のうちに出発すれば今日中にはベルタ王国の王都セントレアに着けるだろう。運賃代わりに護衛してくれるなら乗って行ってくれ」

俺は馬車に乗り込み日が沈む前にはセントレアに到着した。


その道すがら怪しまれない程度に情報収集をした結果、現在置かれている状況を大まかに把握することが出来た。それは認めたくない現実でもあった・・・

俺のいた王都リンドは1000年前に謎の爆発により消滅。魔法文明は崩壊し、どこからともなく溢れた魔物達によって人間は駆逐され今や人間の生存圏は大陸の4割に縮小している。人類の魔法文明は大きく退化したが、旧魔法文明の遺跡を発掘すると大量の魔道具が見つかりそれを活用して細々と生き残っている状況だ。ただ、魔石がないと魔道具は動かないし、魔法も発動しないので魔石を得たり遺跡を調査するために冒険者と呼ばれる人々が重宝されていると・・・・


ローベルトの話が本当であれば大体の想像はつく。

王都が消滅したのであれば、王都で集中管理していた家畜の養殖場が制御不能になるはず。

制御不能になった養殖場から家畜の魔物が溢れ、魔石の供給がなくなった王国はあっさりと滅んだのであろう。どんなに優れた魔法使いや魔道具も魔石がなければ何の役にも立たない。

だが・・誰が何のためにどんな手段であの王都を消滅させたんだろう?そんな事が人間の手で可能だろうか?


























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