きっとこれが、運命の……恋!? ―何度だって君を捜し、出会い、そしてきっと恋をするー 【21】
「………思い出したの!?」
「ああ………」
お嬢さまの問いかけに、オレは小さく、でもハッキリと頷いた。
まだまだボンヤリしているところもある。けど、思い出したこともたくさんある。
「オレは、エリアルド・ユリアス・ヴェインライト。この土地を治める領主の跡継ぎだった。そして、君は…」
「セラム、よ。思い出したのね。リオン」
お嬢さまが、その若草色の眼を伏せた。
静かに、彼女の肩をつかんだままになっていたオレの手を離す。
「まだ、全部思い出せたわけじゃない。だけど、君のことは、君のことだけは思い出せた」
「そう………」
立ち上がったお嬢さまが、寂しげに笑った。
……なんだ!? 思い出してほしくなかったのか!?
オレは、つい今しがた思い出した、自分のなかに蘇ってきた記憶に喜んだが、彼女はそうではないということなのだろうか。
オレが思い出したのは、オレの前世の記憶。とでも言えばいいのだろうか。
昔の、幼い頃の思い出とは違う。
今の、このリオンとしての身体で経験したことではない、大昔のこと。
オレの前世の話。
オレはこの土地を治める領主、ヴェインライト家の長男、跡継ぎ息子だった。
彼女は、セラム。
森で暮らし、薬草を採ることで生計を立てていた。
森のなかで、彼女に出会い、そして恋をした。
オレは、毎日のように城を抜け出し、彼女に会いに行った。
彼女も、オレをうれしそうに迎え入れてくれた。
領主の息子と、森の薬師。
オレが絵のなかに描いたのは、前世の記憶。前世で出会った彼女の姿だった。
身分も環境も違う二人だったが、お互いを想う気持ちは一緒だった。
けれど、今のお嬢さまの反応は。
どう見ても、オレが思い出したことを喜んではいない。
しばらく眼を閉じ、じっと何かを考えているようだった。
……何を!?
「リオン」
眼を開けた、お嬢さまがオレの名を呼んだ。真っ直ぐにオレを見つめる瞳は揺るぎない。
「アナタを、解雇いたします」
………………え!?
一瞬、なんて言われたか、理解できなかった。
「え!? 今、なんて……!?」
「絵の依頼は、ここまでです。絵も完成したことですし、契約を終了したい。そう申しているのです」
お嬢さまの声は、とても硬い。
「いや、オレが描いたのは……」
お嬢さまではなく、彼女の前世、セラムの姿だ。
「それでも、契約はここまでです。報酬はキチンと払いますから、安心してください」
ニコリともせずに、淡々と述べられる。
……どういうことだ!? 頭がついていかない。
あれほど、オレを振り回していたお嬢さまが!? 突然の解雇!?
「では……」
お嬢さまが、クルリときびすを返した。オレと話すことは、それ以上ないといった態度。
「待てよっ!!」
あわててその腕をつかむ。
「どういうことか、説明してくれっ!!」
「どういうこともなにも。先程述べたとおりですわ」
「しかし、絵が。まだ絵は完成してないぞ」
すがるように、絵のことを持ち出した。
「ええ。でも、私、これ以上契約を続行する気はありませんの」
……それは。
「オレが、前世を思い出したから……か!?」
お嬢さまの腕をつかんだ手の力が抜ける。
オレは、彼女のことを思い出せて、うれしいと思っている。互いに想いあっていた、あの記憶を取り戻すことが出来てよかったと思っている。けど、お嬢さまは、そうは感じていない、ということか。
「私、生まれ変わってまで前世の縁を引きずる気はありませんの。現世では、また新しい恋をしたいですし、新しい幸せをつかみたいの」
森の薬師ではなく、大富豪の一人娘として。
オレの恋人ではなく、見知らぬ誰かの恋人に。
「だから。私たちは、このまま別れることにいたしましょう。それぞれの新しい人生を、新しい道を進みましょう!?」
「………それで、いいのか!?」
絞り出すように、呻くように問うた。
「ええ。私は、アレクシア・フローラ・ハーグリーヴスであって、セラムではないのですから」
過去の、前世の思い出は必要ない。
「さようなら、リオン・グリーンバリー。故郷に戻られても、お元気で」
オレは、彼女を思い出せたこと、彼女を見つけることが出来た喜びに溢れ始めていた心を、その彼女自身の言葉で奈落へと突き落とされた。
急に契約終了となったオレを、心底不思議そうにお屋敷の面々は見送ってくれた。
あんなになついていてのに!? なにがあったんだ!?
訝しむ彼らに、まさか本当のことも言えず、「絵を描きあげたから」とだけ言っておいた。
実際、絵は描き終えている。
アレクシアお嬢さまではなく、セラムではあるが。それでも、未来のお嬢さまを描いたのだと言えば、それで通じそうな絵には仕上がっている。
「まあ、またお嬢さまが依頼をなさるかもしれねえし。気を落とすなよ」
そうジョージが言ってくれた。
そんなことは起こらないだろうと思いつつ、彼に感謝を述べる。
ハンスさんは、お嬢さまからの報酬だと言って、ズッシリと重い袋を持ってきてくれた。
中に入っている金貨は、おそらくだが、オレが数年は遊んで暮らせるだけの金額だ。
あの絵の対価にしては高額で、オレとしては、受け取りたくもない金だったが、故郷の両親のことを考えて、その思いをグッと飲み込んだ。
これだけの金があれば、両親を楽させてあげることも出来る。
エノーラ嬢は、「こんな急にだなんて、なにかおかしいわ」と不思議がり、「本当はとてもお優しい方なのよ。今はちょっとどうかしているんだわ」と、お嬢さまの擁護にまわった。
「大丈夫です。お嬢さまの良さを、オレも知ってますから」
エノーラ嬢を安心させるためにも、オレは笑う。
「故郷に戻られても、お元気で」
涙ながらに見送ってくれたエノーラ嬢。そして屋敷の人たち。
だけど。
オレがお屋敷を立ち去るその時も。
お嬢さまは、アレクシアは、その姿を見せてくれることはなかった。
やっと、ニュータグ、「転生」がつけられました。長かったぁ~。
そうです。これは「異世界 (で) 転生」の物語なのですよ。前世で恋人同士だった、アレクシア(セラム)と、リオン(エリアルド)の物語。冒頭の謎物語は、二人の前世での出会い~恋愛までのお話。ここでようやく繋がることが出来ましたが…。でも、メデタシメデタシになるには、もう少し謎を解かないと。
これからも、どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m




