きっとこれが、運命の……恋!? ―何度だって君を捜し、出会い、そしてきっと恋をするー 【13】
森を駆ける。
馬の背から見る世界は、飛ぶように背後に流れていく。
木々に囲まれて、真っ直ぐではない、平坦でもない場所を駆け抜けていく。
馬を御し、木立ちの隙間をくぐり抜ける。時折垂れ下がった枝に、己の上半身をかがめる。
手には弓。
使い慣れたその弓は、手綱とともに、よく手に馴染んでいた。
馬の躍動にあわせて、自分の鼓動も跳ね上がる。
もう少し。
もう少しだ。
馬の駆ける先が、明るくなっている。おそらくそこは、森のなかでも開けた、見通しのいい場所に違いない。
そこでなら、弓をつがえて狙いやすくなる。
無意識のうちに、グッと弓を持つ手に力がこもる。
静かに感情が高ぶってくる。
もう少し。
あともう少し。
獲物を狙うのはあの場所だ――――。
* * * *
唐突に目が覚めたオレの目の前に広がっていたのは、朝の光に満ち溢れた世界だった。
ガラス越しに差し込む、白い光。その光は、眩しく世界を包み込む。
ベッドの脇にあるランプは、その光のなかで、輝きを失っている。
……オレは、いったい!?
かすかに戻りつつある記憶のなかを探る。
料理長のジョージに頼まれて、薪を取りに行ったことは覚えている。
屋敷の外れにある薪小屋。森に近いその場所で、夕焼けに染まる木々を見たことも。ボンヤリと記憶の片隅に残っている。
けど、その先が曖昧だ。
森を見た。
しかし、その先、オレは何をしたんだ!?
思い出そうとしても、その欠片すら見つからない。
気がつけば、このベッドの上というふうに、記憶が抜け落ちている。
大事なものを見つけた気がする。大切なものを見た気がする。
そして、ここで誰かに会ったような気がする。何か言われた気がする。
しかし、その全てが「気がする」だけで、「見つけた」「会った」と言えなかった。
もどかしい。
失くしてはいけないものが、この手からこぼれ落ちているような、そんな感覚に襲われる。
……………………!? なんだ!?
オレは気づかぬままに、グッと拳を握りしめていたらしい。目が覚めて力が抜けたのだろう。指先にまで血が流れ、じんわりと軽い痺れが末端を襲う。
何を、握ろうとしていたんだ!? 手のなかに、何があったんだ!?
わからない。
抜けた記憶とともに、そこに大事なものがあった気がするだけだ。
軽く手を開いたり握ったりをくり返す。そうすることで、手のなかにあった違和感が消えていく。
しばらくはベッドの上で過ごしたが、そのうち体調に問題はなさそうだったので、ゆっくりと身を起こす。
いつまでもこのままでいるわけにもいかない。
……昨日のこと、ジョージに謝っといたほうがいいだろうな。
何があって、どうなったのかはわからなくとも、彼に謝るべきだとなんとなく思った。
心配をかけてるかもしれない。迷惑をかけたかもしれない。
そんなことを考えながら、オレは部屋を後にした。
「なんだ、オメエ、何にも覚えてねえのか!?」
朝食という大仕事を終え、一段落したジョージが、鍋を片付けながら笑った。貫禄のある腹が、声にあわせてユサユサと揺れた。
「オメエ、あの森のなかでひっくり返ってたんだぞ!?」
「森ぃっ!?」
まったくそんな記憶がない。
「オメエが、薪を取りに行ったっきり、帰ってこねえからよ。心配して捜したんだ」
そしたら、なんとオレは森のなかで倒れてたそうで。記憶にないものの、迷惑をかけたのは確実なので、何度も頭を下げておく。
「いやまあ、見つかってよかったけどな」
ジョージが、火にかけていた小さな鍋から、カップにミルクを注ぐ。
ほれと、手渡されたカップからじんわりとぬくもりが手に伝わる。
その温かさが無事な証拠のようで、オレはゆっくりとミルクを飲み下す。ぬくもりはすみずみまで行き渡り、身体が冷えていたことを実感する。
「あんなところまで森に入って行ってるんだからよ。オレたちゃあ、てっきり獣にでも襲われたか、それとも魔女に魅入られたかって思ったんだよ」
「魔女ぉっ!?」
オレの声がひっくり返った。
なんだ、その時代錯誤なネタは。
「あ、オメエ、バカにしてんな!?」
「ああ、えっと………」
バカにするっていうか、呆れてるっていうのか。
魔女だなんて、そんなの子どもを怖がらせるのに使うお話だろ!?
「この街にはな、昔、人々を苦しめた恐ろしい魔女がいたって伝説があるんだぞ!?」
ジョージが、やけに真剣な顔で話し始めた。
「疫病を流行らせ、街の人たちを次々に殺したっていう、とんでもない魔女だよ」
「まっさかぁ~」
「いやいや。ホントだぞ。その魔女を倒したのが、あの街にある教会、聖ディアーネ教会の聖女さまなんだからよ」
オレの向かいの席に、ジョージが腰を下ろす。手には同じく、ミルクの入ったカップ。
「この街の人間で、この伝説を知らねえ者はいねえ。魔女が、自分の正体を聖女に見破られた腹いせに、街に疫病という呪いをかけたんだ。それを聖女ディアーネさまが神のお力を借りて、打ち払われたって話だ」
「魔女は、どうなったんだ!?」
ミルクを飲むことを忘れ、ジョージに問うた。
「そりゃ、決まってるだろ。火刑だよ、火刑。火あぶり。魔女ってもんは、大抵そういう結末だろうが」
当然とばかりの言葉に、一瞬、胸がざわつく。
「でも、それだったら、もう森に魔女はいないんじゃないのか!?」
滅ぼされた魔女が、いつまでも森でどうのっていうのは、聖女が魔女を倒した時点でなくなるはずでは!? ざわついた心を鎮めるかわりに、正論を口にした。
「まあ、そうなんだけどよ…」
ジョージの歯切れは悪い。
「それでも、あの森に入っていく酔狂なやつは、この街にはいねえよ。そりゃあ、入り口近くで薪を取ったりはするけどな!? 奥深くなんて、不気味だから、誰も入りたがらねえ」
滅ぼされたはずの魔女の呪いが残っているかもしれない。そんな迷信めいたものが、街には存在するらしい。
自分の親に近い年齢のジョージにこうも真剣に話しをされると、「嘘だあ」の一言では片付けにくくなる。オレは、この街をことをジョージほど知っているわけではない。知らない街での暮らしは、その街の住人の言うとおりにしておいたほうが、なにかと安全だったりする。言い伝えには、それなりの理由もあるのだから。
オレは、手のなかで生ぬるくなってしまったミルクを一気に飲み下した。
「もしヒマなんだったら、オメエ、一度教会へ行って来いや」
「教会!?」
「聖女さまのご加護でもお祈りしてこい」
ジョージの後ろで、ミルクを温めるのに使った炎が、かすかに揺らめいてみせた。
冒頭に…!? なシーンが入っておりますが、あまりお気になさらずに。一話の冒頭に書いた、街の伝説と同じく、そのうち意味のわかるものになるかと。(別作品のデータが混じったわけではなくってよ) ホント、すこーしずつヒントとなる単語が、逸話が混じり始めてます。何がどう絡んでいるのかは、二十一話以降で。それまでは、PVが低空飛行すぎても、お口チャックでヒミツ厳守です。
これからも、どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m




