誰よりも近くて、誰よりも遠かった、あなたの背に届くために……!
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一方、リュアたちも激戦を繰り広げていた。
王国最強の剣士――オルガント・レインフォート。
彼はやはり手強かった。
五人がかりで戦ってもなお、決定打を与えることができない。
それどころか、明らかにリュアたちのほうが劣勢だった。
オルガントは軍幹部として、数え切れないほどの死線をくぐり抜けてきたのだろう。多勢に無勢の戦線など、何度も経験してきているはず。
だから――やはり、現実は厳しかった。
「ぐああああっ……!」
悲鳴をあげ、ガルムが大きく吹き飛ぶ。オルガントによって胸部を斬りつけられ、たまらず退いてしまったようだ。
「だ、大丈夫かガルム!!」
そうして着地したガルムの両隣には、すでにリックスとゴーラが片膝をついている。
二人ともガルムと同様、オルガントによって傷つけられ、一時的に撤退している。
「へ、へへへ……」
ガルムは片腕を押さえ込みながら、無理やり笑顔を浮かべた。
「……大丈夫だ。だが、やはりオルガント中将は強いな……」
「ああ……。俺たちとは次元が違う……」
そう。
それほどまでに父は強い。
一般人の持ちうる《常識》など、これでもかというほど突き破ってくる。
当のリュアも、オルガントの猛威にやられ、もはや剣を握ることさえ適わない。
「家族としての情を捨てる」という前置き通り、オルガントは真っ先にリュアを潰しにかかったのだ。
戦闘のポイントとなるのは、やはりキーア・シュバルツ。やはり《最強の転生者》というだけあって、その闘いっぷりは圧倒的だ。
現在も、キーアはオルガントと一騎打ちで激闘を繰り広げている。
「はあっ、たあっ!」
「むん! はっ!」
キーアとオルガントが宙を舞いつつ剣を撃ち合う。
両者からはそれぞれ、金色の煌めきが発せられていた。
二人が動くたびに、幻想的な煌めきが線を描いている。
二人が剣をぶつけ合うたび、美しい金属音が響きわたる。
「すげぇな。……あいつ、中将とやり合ってんぞ……」
「やはり化け物か……」
片膝をつきながら、リックスとゴーラがそれぞれ感想を口にする。
――オルガント・レインフォート。
五対一の戦いになってもなお、彼の強さは圧倒的だった。食い下がるリックスたちに一切動じることなく、冷静に、そして的確に対処していた。
そしてそんなオルガントに対し、キーアはほぼ互角の戦いを繰り広げている。
あれが、転生者か。
キーアにオルガント。
その戦いっぷりは、常人の理解をとうに超えている。なにか信じがたい力でも使っているのか、空に浮いたまま戦っているのだ。そんなこと普通できない。
「ああ……たしかに信じられん力だ……」
拳を握り締め、声を絞り出すリュア。
自分たち《現地人》にはとうていあり得ない境地だ。
もちろん、私だって父と張り合いたい。
でも――いくら努力を重ねたとて、《才能》がないから届かないなんて……
そんなの、あんまりじゃないか。
「でも、見てくださいリュアさん」
ふと、ガルムが素っ頓狂な声を出す。
「キーア様、とても苦しそうです。互角に見えて、実はかなり劣勢なのでは……」
「え……」
たしかにそうだ。
キーアの表情が少しずつ曇りつつある。
オルガントの猛攻に押され、徐々に後退しているような……
ガキン! と。
すさまじい金属音を響かせ、両者の剣が激突した。
「こんなものか! キーア・シュバルツ!」
「くうっ……!」
オルガントの激に、キーアは表情を歪ませる。
懸命に抗おうとしているようだが、やはり相手は最強の剣士。逆に押し返されている。
「まずい……。あのままじゃ……!」
ガルムが悲痛な声をあげる。
加勢したくとも、彼も全身が傷だらけ。身体が言うことを聞かない様子である。
それはリュアもそう。
オルガントに真っ先にやられ、全身の傷が悲鳴をあげている。腕をすこし動かすだけでも、燃えるような激痛に襲われてしまう。
でも。
「うっ……ああああ!」
キーアの壮絶な悲鳴が、リュアの耳朶を刺激する。
なにが転生者だ。
なにが現地人だ。
才能の有無は関係ない。
私は、私の守りたいもののために戦う!
「うおおおおおおおっ!」
気づいたとき、リュアは跳躍していた。
全身が激痛の信号を発する。
それを強靱な意思力で以て耐える。
オルガント・レインフォート。
誰よりも近くて、誰よりも遠かった、あなたの背に届くために……!
「な……!? リュ、リュア!?」
「うおおおおおおおっ!」
目を見開く父へ向けて、リュアは大剣を振りかぶった。
やっぱり私、熱いバトルが好きです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
さて、ただいまこちら、書籍を発売しております!
書籍版は編集部の方と激論を交わして、さらに面白くなっています!
また限定SSやカバーイラストのDLもつきますので、ぜひ買ってくださいますと嬉しいです!
私の作品を読んで、人生が変わるほど楽しんでいただけたら……これ以上のことはありません。
そしてまた、なろうは転生者がチートを授かってウハウハする作品だけがあるわけじゃないことをお伝えしたいと思っています。
一巻の売上によって続刊が決まります。
何卒!!