ミア。帰ったら説教だ。
★
「リアヌ……」
思わず俺は女神の名を口にする。
絶対絶命の危機だと思った。
正直難しいと思った。
けれど、リアヌにマリアス、1組の生徒たち――これだけ大勢の人々に助けられたのだ。
この絶望的な状況だって、これだけの加勢があれば……!
「アシュリー。よく聞いて」
いつの間に頼もしくなった幼馴染みが、真剣な表情を崩さずに言う。
「この状況を予期して、リアヌさんが新しい技を教えてくれた。……うまくいけば、ミアちゃんを助けられるかもしれない」
「へ……」
それは願ったり叶ったりだ。
普通に戦おうにも、敵はミアの肉体そのものを人質に取っている。迂闊に攻撃してしまえば、キーアの二の舞だ。
……そのキーアだって、生き残れたのが幸運だったわけだからな。
「でも、この技には欠点があって……。長い間、準備が必要なの」
「そうか……」
それは致し方ないだろう。
高度な魔術だって、本来であれば十全な準備を要する。マリアスがやろうとしている技もまた、同じような部類だろう。
「わかった。俺が魔神を引き付ける。その間に頼めるか?」
「うん。それと――」
そこでふいにもじもじするマリアス。
「ん? どうした?」
目を丸くする俺に向けて、彼女はやっと、見覚えのある表情を見せた。
「会いたかった。久しぶり……アシュリー」
ほんの数秒だけ女の子の顔つきを浮かべるマリアス。昔の彼女ならすぐさまダイブしてくるところだったが、この危機的状況にあって、さすがにそれはしてこない。
「ああ。そうだな。随分久しぶりだもんな……」
「うん。それと……」
「ん?」
「この戦いが終わったら……えっと、話したいことがあるの。だから……絶対、みんなを助けよう!」
「お、おう!」
改まってなんなんだろうか。
だが、さすがにこれ以上のお喋りは許されない。起きあがった魔神ミアが、怒りもあらわにこちらを睨みつけてきているからだ。
「グルルルル……ガガガ……!」
紅の瞳をたぎらせ、魔神は片手を掲げる。
刹那、虚無の空間から突如にして巨大な鎌が出現した。長い取っ手に、ぐにゃりと歪曲した刃。まだ使用していないだろうに、なぜだか血液がポタポタと垂れている。
奴も戦う気に満ち満ちているようだ。俺も腹を括らねばなるまい。
「ミア……」
――私のことは気にしないでください。ぜひ……殺してください――
彼女の言葉を思い出しながら、俺は。
「おまえは絶対に助ける。その後、たっぷり説教してやるからな!」
「ガアアアアアアッ!」
そのとき、魔神が一筋の涙を流していたのは見間違いだろうか。
悪魔の胴間声を響かせながら、すさまじい速度で突っ込んでくる。
速い。
だが――対応できぬ速さではない!
「おるああああああああっ!」
振り下ろされる鎌をあえて避けず、剣で受け止める。
響きわたる金属音。
飛び散る火花。
本来であれば重量の多い大鎌が押し勝つはず。
だが、俺はびくともしない。
「そんなもんかよ……!?」
「ガガ……?」
「ミアはもっと強かった……。どこか謎めいていて、なかなか自分のことを話そうとしなかったが……。銃の腕前は本物だった」
「…………ググ」
「おまえなんか、ミアの足下にも及ばない。とっとと失せろ!」
皇神一刀流、神々百閃。
俺の放つ連続の突き技が、魔神を立て続けに襲う。
俺が剣を振るう度、金色の光彩が周囲を舞う。
「ググ……アァァァア……!」
魔神は鎌を盾代わりにして防御へ転じようとする。
が――させない。
なにもかもを忘れた俺の剣技は、魔神に有無を言わせない。
すべての技を魔神の本体に突きつける。
俺の周囲を、一際大きなオーラが包み込んだ。
さらにこみ上げる力を意識しながら、俺はひたすらに剣を振るう。
そして。
「グヌ……!」
魔神が膝をついた、その瞬間。
「いまだマリアス! やれーっ!」
「うんっ!」
マリアスの片手から、濃紺の可視放射が放たれ。
ミアの身体を、丸ごと包み込んだ。
やっぱり私、熱いバトルが好きです(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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私の作品を読んで、人生が変わるほど楽しんでいただけたら……これ以上のことはありません。
そしてまた、なろうは転生者がチートを授かってウハウハする作品だけがあるわけじゃないことをお伝えしたいと思っています。
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何卒!!