女神の鼻くそ
「ははは……」
俺は思わず頬を緩めてしまう。
学園の生徒たちと、オルガント・レインフォートの闘い。
正直、かなり不安だった。
勝てる見込みは相当に薄い。だから俺がミアを助けて、オルガントと闘おうと思っていた。
だが――それは杞憂だったようだな。
この学園生活で、リュアやキーアだけじゃなく、1組の生徒たちも成長した。あの様子なら、まだまだ闘えるだろう。
「しかし……」
額に手をやりながら、俺は呟く。
「会場の外はすでに大騒ぎになっている。多くの冒険者も大勢いる。その状況で1組が加勢して来られたのは――おまえのおかげか」
「ふふ。そゆこと!!」
瞬間、背後から聞き覚えのある――そして妙に懐かしい声が聞こえてきた。
そして。
「やあっ!」
闖入者は銀色に煌めく細剣を掲げながら、神速でミアに突っ込んでいく。
俺の横を、銀の残像が駆け抜けていく。
――速い。
この俺ですら、影が瞬いているようにしか見えなかった。
「はああああああっ!!」
闖入者――マリアス・オーレルアは流星のごとき剣捌きで、細剣を突き出しては引っ込めていく。
あの技自体には見覚えがある。
皇神一刀流、神々(こうごう)百閃。
リアヌが俺に伝授した技を、彼女もまた使いこなせるようになったのだろう。
俺が驚いたのはそこではない。
「マリアス……とうとう達したのか……」
あの舞うような立ち回り。
繊細にして強力なる攻撃。
ステータスを見ずともわかる。
彼女もまた、神の領域に足を踏み入れたのだろう。
「グウウウウ!!」
突然の乱入に、さしもの魔神ミアも肝を抜かれたようだ。マリアスの剣撃を、すべてまともに喰らっている。
「はああっ!」
そしてマリアスが最後に一際強めな突き技を放つ。
「ガアアアアアッ!」
さすがに堪えたか、魔神ミアは大きく吹き飛んでいった。壁面に背中ごと強く打ち付けている。
「マリアス。申し訳ないが、彼女は……」
「わかってる。学園の生徒なんでしょ」
マリアスは魔神の動きを警戒しつつ、こちらに一瞬だけ視線を向けた。
「事情はだいたい聞いてる。彼女がユージーン大臣を撃って呑み込まれたことも、あのオルガント中将が転生者だったことも」
「そ、そうか……」
であれば多くを語る必要はないか。こちらとしては助かるが。
また女神様のトンデモ能力でこちらの状況を観察していたのだろう。
俺は周囲を見渡しながら、小さく呟いた。
「……なるほどな。他の邪神族がやってこないのは、彼女のおかげか」
「うん」
マリアスは改めて細剣を構えつつ、魔神ミアと対峙する。
「リアヌちゃんが頑張ってくれてるいまがチャンス……! 絶対、みんな助けて帰るよ!!」
★
「ふんだ。おぬしら、妾に対してこの無礼……断じて許さぬぞ?」
「くそっ……!」
「あいつ、化け物かよ!?」
リアヌ・サクラロードは天空から、緑色のローブを被った邪神たちを見下ろす。
王都。
叙任式の会場を、十人もの邪神族が囲っていた。
奴らの役割は基本的に見張り。
ホール内で戦っているアシュリーたちに加勢が来ないよう、強力な結界を張っている。
神族が相手では、たとえSSSランクの冒険者であろうとも適わない。
現にルラエンドという冒険者が何度も突破を試みたようだが、残念ながら徒労に終わったようだ。現在は邪神族にやられ、気を失っている。
だが――リアヌにとっては、そんな神族ですら赤子同然。一時的に結界をぶっ壊し、マリアスを向かわせるくらいは容易なことだ。
そして――自分は自分でやることがある。
「解せぬな。貴様ら……今度はなにが目的じゃ」
リアヌは厳しい目つきで邪神らに問う。
「この状況をつくりだすのが狙いか? まだ未成熟な魔神を呼び出してなんとする」
そう。
今回呼び起こされた魔神は、《悲哀と悔恨》を司る神。本来の力はシュバルツより遙か上をいく。
だが――いまの魔神ミアは本来より相当に弱い。
キーア・シュバルツと違って、ミア・フォーストはごくごく普通の一般人に過ぎない。そんな人間を宿主としたところで、得られる力はたかが知れている。
いまの魔神ミアは、かつてのシュバルツよりやや強いくらいか。これならアシュリーとマリアスの二人がかりで倒せる。
だからこそ気にかかるのだ。
邪神族の思惑がリアヌの予想通りであれば――おそらく、まだなにかがある。
「ふん。答える義理はないな。……って、なんだ?」
邪神が自身の頬をさすり、小さな屑をつまむ。
リアヌの鼻くそである。
「すまんすまん。さすがに腹が立ったからの、鼻くそを飛ばしておいた」
「おい! 汚いだろっ!」
急いで手を振り払い、屑を落とす邪神。
「安心せい。貴様の顔面よりは汚くない」
「お、おまえ……。言わせておけば……っ!」
「ほほほ。妾と戦う気かの? 身の程を知れ!」
余裕な笑みを浮かべるリアヌだった。
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