転生者に、抗え③
リュアは驚愕を禁じえない。
ゴーラ。
リックス。
ガルム。
いずれもリングランド魔術学園における1組の生徒で、かつての《試合》でやりあった仲である。
だが……彼らは今日、通常の授業があるはず。しかも招待券がないと叙任式には入れないのに……いったいなぜ……
「ふふ。やはり疑問か、リュアよ」
ドヤ顔で問いかけてくるゴーラ。
少々むかついてしまったが、ここは素直に頷いておく。
「簡単なことさ。つまんねえ授業なんか抜け出して、裏口から式に参加しようと思ってな」
「な……!?」
ぎょっと目を見開くリュア。
「なにを言うんだ貴様! 栄誉ある魔術学園の生徒として、あるまじき所行だぞ!」
「お、おいおい。落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるか!」
たしかに――そうだ。
1組の連中、叙任式と聞いた途端、ヒソヒソ話していた記憶がある。
どうせよからぬことを企んでいるんだろうと思ったが……こういうことか。
「まったく、貴様らという男は……」
リュアは額に手をあて、ため息をつく。
だがその不良っぷりに助けられたのも事実。ここは大目に見ておいてやろう。
「つんでれもえーさん。ありがとうございます。正直助かりました」
「いえ! 不肖ガルム、キーア様のためならなんでもやりますので!」
「それはえくぞちっくですね」
脇ではキーアとガルムが相変わらずの漫才を繰り広げている。
なんというか……二人とも個性が突き抜けているので、会話が絶妙に噛み合っていない。
「しかし、さすがに驚いたな」
ゴーラが後頭部を掻きながら言う。
「誰と戦っているかと思えば……オルガント・レインフォート中将が相手か」
「ああ。しかも並々ならぬ悪意を感じるな」
そう答えたのはリックス。
彼は魔神と化したミアを一瞬だけ切なげに見やると、やけに決意のこもった視線をオルガントへ向けた。
「どっちにしろ、あいつはぶっ倒す。腹が立って仕方ねえ」
「ハハ、なんだおまえ、やっぱりミアちゃんにぞっこんか」
「言っとけ筋肉ダルマ」
――と。
「……ふふ」
いままで静観していた父――オルガント・レインフォートが、達観した笑みを浮かべる。
「リュア。良き友を持ったな」
「へ……」
その優しげな表情は、リュアがいままでずっと憧れてきたお父さんで。
誰よりも厳しいけれど、同時に誰よりも優しかったお父さんで。
こんな危機的な状況にも関わらず、リュアは一瞬呆けてしまった。
オルガントは大剣を床に突き刺すと、虚空に向かって訊ねる。
「さて――どうする。少々厄介になってきたが、このまま切り抜けるか?」
「――当然だ。計画にいささかの支障もない」
怜悧な声とともに、新たな人物が姿を現す。おそらく転移術を用いたのだろう。
灰色の髪に、死人さながらに白い肌。血の色に染まった瞳は、視線が合っただけで鳥肌を禁じ得ない。
――サヴィター・バルレ……。
ミアがかつて話していた《邪神族の長》の特徴とぴたり一致している。
サヴィターの言葉に、オルガントは「そうだな」と頷いた。
「私たちも後には退けない。それがユージーンへの餞となろう」
「……ああ。そういうことだ」
そして会話が終わるや、オルガントは数秒だけ瞳を閉じ。
勢いよく大剣を引っこ抜くと、切っ先をリュアたちに向けた。
「ミア・フォーストを助けたくば、全力でかかってくるがいい! 忠告するが、退けぬ事情があるのは自分たちだけだと思うでないぞ!」
瞬間――奇跡が起きた。
オルガントが叫んだ途端、突き抜けるような地鳴りが発生したのだ。
「……っ!」
リュアは思わずよろめいてしまう。
漆黒に燃えさかる闘気が、なんと地震までをも引き起こしたのか。なんという力だ……!
「げげっ……」
「こりゃやばいぞ!」
エリート集団たる1組も、さすがに動揺を隠せない様子だ。
それも当然、気合いだけで地震を発生させるなんて、聞いたことがない。
これも転生者のなせる技……ということか。
「ふん……上等だ!」
そんななかにあって、リックスが甲高い声で叫ぶ。
「俺たちだって負けねえ! 最強の名将が相手だとしても……リングランド魔術学園の底力を見せてやらあ!」
そう宣言するリックスの瞳は激怒に燃えていた。リュアやキーアと同様、彼もミアの変貌に心を痛めているのだろう。
経緯はどうあれ、その気持ちは一致しているはずだ。
「ああ……。そうだな」
そんな彼の隣に、リュアも大剣を携えて並ぶ。
「ミアを助けるため……。1組と11組、共闘といこう! 総員、全力でかかるぞ!」
「「おおっ!」」
かくして生徒たちは、最強の剣士へと突っ込んでいくのだった。
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