学園生活での思い出は
剣撃を次々差し込みながら、リュアは勝機を予感していた。
たしかに父は強い。
さすが王国最強の剣士と呼ばれるだけある。
だが、最強の転生者たるキーアと力を合わせれば……決して届かぬ相手ではない!
「はあああああああっ!」
現在、リュアはかつてない一体感を感じていた。
キーアとの連携は初めてだけれど、恐ろしいほどに息が合っていた。
ミア・フォースト。
大事なクラスメイトを助けたいという切なる想いが、キーアの太刀筋からひしひしと伝わってきた。キーアとの思い出は少ないものの、それでもリュアにとって、大事なクラスメイトのひとりだった。
だから、怯まない。
相手が最強の剣士であろうとも――!
「ぐ……おおおおおっ……」
さしものオルガントもとうとう限界が訪れたようだ。
防御が次第に崩れていく。
最強の剣士が片膝をつく。
その瞬間を、リュアは見逃さない。
「いまだ――!」
リュアは高々に剣を振りかぶり――下ろす。
その、刹那。
「調子に……乗るなぁ!」
オルガントが絶叫する。
「…………っ」
リュアは瞬時にして怖ぞ気を覚えた。
全身に鳥肌が立つ。
頭からつま先にかけて、本能的な恐怖心が駆け抜けていく。
突如、オルガントから突風が放たれた。
「ぬおっ……!」
すさまじい湿気を帯びた爆風に、リュアは思わず後退する。
「むむ……」
キーアも危機感を察したようだ。真顔でリュアの隣に並ぶ。
「思ったよりやるようだが……お遊びはここまでだ」
「ち、父上……!」
リュアは驚愕を禁じえない。
尊敬していた父の周囲から――ドス黒い霊気が立ち上っていた。
それは神聖なるレインフォート流とはまるで正反対、邪悪なる波動とでもいうべきものだった。
「な、なんですかそれは……! そんな技、レインフォート流にはないはず……!」
「ああ、ないな」
紫に変色した瞳をぎょろりと動かし、オルガントは野太い声を発す。
「これは裏レインフォート流の覚醒……。すべてを捨て、強さだけを求め続けた姿だ」
「裏……レインフォート流……」
「しかり。これを解放した私は、すべてのステータスが倍近く跳ね上がる。これの意味がわかるか?」
「な……」
馬鹿な。
けた違いに強かった父が、さらに強くなるというのか……!?
「ち、父上……っ!」
むろん嬉しいことのはずだ。
師として仰いできた父が、さらなる境地に至った。娘としても弟子としても、喜ばしい事実のはず。
しかし。
「いったい、どうされたんですか……。その邪な闘気は、あの邪神族とまるで同じではありませんか……!」
「…………言ったろう。すべてを捨てた剣客の姿であると」
大剣を大仰に振り払い、霊気を激しく迸らせながら、オルガントは言い放つ。
「続きを始めようか。――最も、さっきまでのような手緩い戦いでは済まさぬぞ」
「ぐっ……!」
甚大なる威圧感に、リュアはなんとか構えるだけで精一杯だった。
★
「ふう……」
俺はすとんと着地し、目前に立ち上る黒煙を見上げる。
終焉魔法の二、ブラッドネス・エクスプローラ。
それは巨大な爆発を起こし、対象者を容赦なく焼き尽くす炎魔法。
ミアに使用するのは気が引けたが、さりとて、相手は魔神。一瞬の気後れが命取りとなる。
とりあえずはダメージを与え続けて、ミアを無力化するしかない。ミアの肉体を助け出すのはその後だ。
かの魔神シュバルツも、リアヌの魔法をしばらく耐え続けていたしな。この一撃くらいではさしたる致命傷にならないだろう。
――が。
「ア、アシュリー、先生……!」
「な……!?」
思いがけず、魔神ミアは両膝をついていた。
しかも魔神としてではない。
俺のよく知るミア・フォーストが、ぼろぼろに涙を流していた。
「ミア!? 自我が戻ったのか!」
「ち、違います……! 魔神の策に乗らないでください! どうか早く、私を殺し――」
そのセリフは最後まで続かなかった。
『ガアアアアアアアッ!!』
再び魔神と化したミアが、漆黒の霊気を携えて突進してくる。
「くっ……!」
さすがに間に合わなかった。
魔神の突き刺した刃状のオーラが、俺の胸部を斬りつける。
まずい……!
俺は咄嗟に後方へ飛び退く。
幸いにして大ダメージには至らなかった。
それよりも――精神的な痛みのほうが、よっぽど大きくて。
「き、貴様……っ!」
俺はありったけの怒りを込めて呻いた。
「これ以上ミアの精神を弄ぶな……! 絶対に許さんぞ……!」
「ククク、ケケケケ」
ヘラヘラ笑う魔神。
シュバルツよりもよほど性格が悪いようだ。俺の様子を見て楽しんでやがる。
「くそ……どうするか」
魔神はたしかに強いが、俺ひとりでも適わぬ相手ではない。
問題は、その肉体がミアであること。
このまま普通に戦うだけでは、魔神はまたしてもミアを傷つけるだろう。それは容易に推察できる。
どうする。
どうすればいい。
考えるんだ、俺――!
★
――一方で。
リュア・レインフォートも、かつてない絶望感を味わっていた。
目前に立ちはだかるは、悪の波動を携えたオルガント・レインフォート。
パワーアップする前すらギリギリの戦いだったのに、さらに強くなられてしまっては手の打ちようがない。
詰んだ、ということだろうか。
――勝てない。
いくら前向きになろうとしても、それすら打ち砕かれるだけの壁があった。それほどオルガントとリュアに立ちふさがる障壁は高かった。
リュアは、ゆっくりと大剣を振り下ろす。
終わりか。
もう――無理なのか。
「おいおい。俺たちに勝った11組が、そんなんじゃ困るぜ?」
聞き覚えのある声とともに、大柄な少年が乱入してきた。
そして。
「ぬおりゃああああああっ!!」
大声とともに突進をするその男に、リュアは見覚えがあった。
斧を掲げ、防御を捨てた豪快な攻撃。ともすれば危険な戦闘スタイルだが、このときは有効だった。
「くっ……!」
1組の生徒――ゴーラの斧攻撃を、オルガントは苦々しい表情で避ける。
だが、彼らの攻撃はそこで止まらない。
「まだまだぁ!」
「キーア様は、俺が守ってみせる!」
続けて現れるは、同じく1組の生徒、リックスとガルム。
それぞれ得意の武器を用いて、果敢にもオルガントへ突っ込んでいく。さすがに予想外だったか、オルガントはまたしても防御か回避しかできない。
「おい、リュア・レインフォート!」
斧を繰り出しながら、ゴーラが大声で叫んだ。
「負けてんじゃねえよ! レインフォートは最強の流儀なんだろうが!」
「…………っ!」
その言葉に、リュアは大きく目を見開く。
「なんと、つんでれもえーさん……」
「キーア様! ただいま参上致しました!」
ガルムも頭を下げ、高らかに叫ぶのだった。
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