転生者に、抗え②
「くくく……」
オルガントは両目を手で覆い、含み笑いを浮かべ――
「はっはっはっは! さすがに驚いたよ! そこまで成長しているとはな!」
高らかに笑い出した。
「やはり……父上……」
目を伏せて呟くリュア。この現実を受け入れきれないようだった。
「ば、馬鹿な……」
そして俺もそう。
かの名将オルガント・レインフォートが、まさか転生者だったとは……夢にも思わなかった。
だが、たしかにこれですべての辻褄が合う。
転生者ともなれば、サヴィターと親密関係にあるのは道理。そして凡人にあるまじき成長速度も、転生者であれば納得できる。
グォン! と。
オルガントはすさまじい膂力で大剣を地面に突き刺すと、右肩をまわしながら言う。
「転生者といえど、私は《大器晩成型》だったようでな。才能が開花するためには、少々時間が必要だった」
そしてキーアを横目で見ながら続ける。
「キーア・シュバルツ殿。あなたがもし本領を出せるのなら、私では適わないでしょう。ですがいまのあなたは未完成だ」
「っ…………」
「そしてリュア。おまえは言わずもがな、まだまだヒヨコに過ぎん。ここで戦うのは道理ではない。――そうは思わんか」
「…………」
リュアは数秒黙り込み、なにかを思案する。
果たして彼女は、目を閉じたまま、ぼそぼそと話し始めた。
「……そうですね。私はまだまだ修練中の身。なにより父上を敵にまわしたくはない。――ですが」
彼女は片手を胸にあてがい、過去の記憶を手繰り出すように続ける。
「この一週間、私は本当に楽しかったです。アシュリー先生、ミア、キーア……。剣の道ばかりを模索していた私にとって、皆さんとの出会いはかけがえのない宝物になりました。剣だけじゃない、人と関わる大切さ、温かさを、私は知った……」
リュアはそして、魔神と化したミアを切なげに見つめる。
かつて仲の良かったはずのミアは――理性もなにもかもを失っている。さながら怪物のごとく、ただ呻き声を発するのみ。
「けれど、父上! いかにあなたといえど、私は……あなたたちの行為を承諾できない!!」
リュアは改めて、力強い眼孔で父を見据える。
「レインフォートの流儀は、悪を罰する正義の剣……! たとえ相手が父上であろうとも……私は、その流儀をまっとうするまでです!」
「リュア……」
その決意ある表明に、俺はこみ上げるものを感じた。
尊敬していた父との対決。
間違いなく、彼女にとって苦渋の決断だろう。
それでも――彼女は一歩を踏み出した。ミアのために。自分のなかの正義を敢行するために。
成長したな。本当に……
「ふふふ……はーはっはっは!」
オルガントは愉快そうな声を響かせると、突き刺していた大剣を抜き取る。
「抗うか! 転生者たる私に!!」
「ええ。まだまだ未熟なれど……必ず、届いてみせます!」
「わ、私も……!」
リュアの隣にキーアが立つ。
「ミアさんは、私にとっても大事なクラスメイトです。放ってはおけません……!」
「ふふ。いいだろう!」
オルガントは大剣を軽々と振り回し、その切っ先をリュアたちに向ける。
「ならば示すがよい! そなたたちの覚悟と実力……しかと見届けてみせようぞ!」
「グアアアアアアアッ!」
オルガントの叫声に呼応するかのごとく、俺の目の前でミアが叫ぶ。
――ここが正念場か。
俺は魔神と化したミアと。
リュアとキーアは、最強剣士たるオルガント中将と。
間違いなく、いままでで一番厳しい戦いになる。ダークマリー戦とはそれこそ比べ物にならないだろう。
それでも――できる限り抗ってみせる。
この世界を、邪神どもの好きにはさせない……!
「二人とも! これは正真正銘、命をかけた戦いだ! ――無事に生き残れ!」
「「はいっ!」」
生徒たちの返事が重なった。
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